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『ソイレントV』~煙が立ち込める眠らない街ヤキニク・ザ・ビックシティの秘密と夜な夜な現れる謎の色白男。あなたはこの展開を果たして予想できるだろうか?~

 煙が立ち込める眠らない街、ヤキニク・ザ・ビックシティ。


 煌びやかな街灯が夜空を彩り、焼肉の煙と高級香水の香りが複雑に絡み合う街角。大通りでは種族の区別なく人々が行き交い、横丁では肉の匂いに誘われるように客が店に吸い込まれていく。世界の7割の肉がここで消費されると言われる超弩級の城塞都市は、今宵も食欲と欲望に満ちていた。


「いらっしゃいませー!本日のおすすめはソイレントVのカルビです!」


 路地裏の小さな焼肉店「エルドラド」の店主が威勢よく声を上げる。S級冒険者ヘストン・グレイブスは窓際の席に腰掛け、エールをあおりながら店内を観察していた。四十を過ぎた彼の顔には、幾つもの傷跡が刻まれている。冒険者ギルドで名を轟かせる彼だが、この街では普通の中年男性に過ぎなかった。


「へえ、このソイレントVってやつは噂通りの人気なんだな」


 隣のテーブルでは、エルフとドワーフのカップルが赤身の肉を焼きながら談笑していた。種族間の対立が珍しくない世界で、彼らが仲良く食事を楽しむ光景はヤキニクシティならではだ。


「当然でしょう!」


 店主が厨房から顔を出した。


「ソイレントVはこの街の宝です。肉質は最高級、栄養価も完璧で、何より手頃な価格。市長様の功績ですよ」


 市長アルバート・クリムゾン。天才錬金術師兼魔術師として名を馳せた後、この都市の舵取りとなった男だ。彼が開発した人工肉ソイレントVは、かつて食糧難だったこの地域を救い、いまや経済の中心となっていた。


 ヘストンの前にも赤みがかった肉の皿が置かれる。彼は箸で一切れつまみ、網の上に載せた。ジュウッという音と共に油が弾け、甘い香りが立ち上る。


「あんた初めて食べるのかい?」


 店主が近づいてきた。


「安心しな。最初はみんな懐疑的さ。でも市長様が自ら食べて宣伝する姿を見て、徐々に認められたんだ。それに収益は孤児院に寄付されるからね」


 ヘストンは無言で肉を口に運んだ。確かに美味い。牛肉のような食感と風味だが、どこか独特の甘みがある。


「うまいな」


 彼は素直に感想を漏らした。


「でしょう?」


 店主は満足げに笑う。


「ところであんた、旅の人かい?」


 ヘストンは頷いた。彼の来訪目的を話すつもりはない。彼はヒューゴ・バロン男爵からの依頼でこの街に来ていた。男爵の一人娘エリザベスが、この街で失踪したのだ。


「このヤキニクシティには、変わった噂はないかい?」さりげなく質問を投げかける。


 店主は急に表情を引き締めた。


「噂?何の噂だい?」


「なんでも、夜な夜な色白の男が現れて血を吸うとか」


「そんな馬鹿な」


 店主は急に声のトーンを下げた。


「そんな話、公の場では口にしない方がいい。この街は平和だ。市長様のおかげでね」


 店主が厨房に戻ると、テーブルの上にある古びた城塞都市の地図に目を向けた。エリザベスが最後に目撃されたのは、市の北西部にある「レッドムーン地区」。高級住宅街に隣接する歓楽街だ。そこから調査を始めるつもりだった。


 ---


 レッドムーン地区の夜は、他のエリアと比べてさらに煌びやかだった。高級クラブや賭博場が立ち並び、通りには露出度の高い衣装を身にまとった魅惑的な女性たちが客引きをしている。


 ヘストンは「血の月」という店の前で足を止めた。赤いネオンに照らされた入口には、樽のような体型のオーク族のバウンサー(警備員)が立っていた。


「エリザベス・バロンという女性を知らないか?」


 彼は懐から銀貨を取り出し、オークの掌に滑らせた。


「それなら店長に聞くといい」


 オークは銀貨を受け取り、親指で店の奥を指した。


 店内はさらに赤い光に満ちていた。中央のステージでは踊り子たちが妖艶に舞い、客たちは酒を飲みながら彼女たちに視線を注いでいる。ヘストンは奥にある個室へと案内された。


 扉を開けると、そこには華奢な体に高価な赤いドレスを纏った人族の女性が座っていた。彼女は首元に赤い宝石のペンダントをつけ、化粧で極端に白く塗られた顔に赤い口紅が際立っている。


「私がこの店のマダム、カーミラよ」


 彼女は薄い唇で微笑んだ。


「何の用かしら?」


「エリザベス・バロンという女性について聞きたい」


 カーミラの表情が一瞬硬直した。


「彼女なら知っているわ。美しい娘だった。でも約一月前、突然姿を消したの」


「最後に彼女を見たのはいつだ?」


「そうね…」


 カーミラは記憶を辿るように天井を見上げた。


「彼女が最後にここに来たのは失踪の前日。その時、彼女は市長の側近と会話していたわ」


「市長の側近?」


「そう、クラレンス・ラットという男よ。市長の右腕と言われている人物。いつも白い手袋をしているの。彼らはソイレントVの事業拡大について話していたようだったわ」


 この情報は意外だった。エリザベスがソイレントVと何の関係があるのか。


「それから彼女は言ったの。『父に全てを話す』って」


「何を話すと?」


「さあ」


 カーミラは肩をすくめた。


「でもその直後、彼女は姿を消したわ」


 ヘストンが追加の質問をしようとした時、店の入り口から(ざわ)めきが聞こえてきた。マダムは眉をひそめる。


「何事かしら」


 二人が個室から出ると、店内は混乱に陥っていた。踊り子の一人が倒れ、周囲の客たちが彼女を取り囲んでいる。


「どけ!」


 ヘストンは群衆を押しのけた。


 倒れた女性は青白い顔をしており、首筋には二つの穴が開いていた。明らかに血が抜かれた痕跡だ。そして店の出口、そこには一瞬だけ見えた影——極端に色白い顔に赤い唇、口元には赤い液体が滴る男の姿。


「ドラク…」


 誰かがつぶやいた。


 ヘストンは即座に男を追いかけた。レッドムーン地区の迷路のような路地を駆け抜け、やがて広場に出た。そこには巨大なビルが聳え立っている。「クリムゾン・タワー」—市長の居城だ。


 影の男は塔の裏手に消えていった。ヘストンが追いかけると、そこには小さな扉があった。警戒しながら扉を開けると、中は薄暗い通路になっている。おそらく塔の地下へと続く道だろう。


 彼は足音を忍ばせながら階段を降りていった。そこから長い通路を抜けて、地下深くに達すると、そこには広い空間が広がっていた。部屋の中央には巨大な桶のようなものが複数設置されている。そして壁には…


「なんだこれは…」


 壁にはケージが何十も並び、その中には人間やエルフ、ドワーフなど様々な種族が閉じ込められていた。皆、極端に色白く、弱々しい様子だ。


「S級冒険者ヘストン・グレイブス」


 背後から声がした。


 振り返ると、そこには白い手袋をはめた男が立っていた。クラレンス・ラットだ。


「見つけてしまったようだな」


 彼は冷たく笑った。


「市長様のソイレントV工場へようこそ」


「これが…ソイレントVの正体か」


 ヘストンは剣を抜いた。


「そうだ。ソイレントVとは、我々が飼育する吸血鬼から抽出した肉だ。彼らの肉は栄養価が高く、再生能力も驚異的。少量の血を与えれば永久に収穫できる。完璧な食料源だよ」


「気持ち悪い…」


 ヘストンは呟いた。


「だがエリザベスはどうした?」


「彼女はこの秘密に気づいてしまった。だから…」


「だからこいつもウチのペットになったんだ!」


 新たな声が響き、豪華な赤いスーツを着た男が現れた。アルバート・クリムゾン市長だ。彼の隣には鎖に繋がれた女性が立っていた。色白の肌に赤い目…かつてのエリザベス・バロンだ。


「ヘストン・グレイブス。あなたの評判は聞いていますよ」


 市長は優しげに微笑んだ。


「ですが、この街の秘密を知った以上、あなたにもこの一員になってもらう他ありません」


「俺が拒否したら?」


「拒否する?」


 市長は声を上げて笑った。


「この街の繁栄を拒否するというのですか?この完璧なシステムを?我々のソイレントVのおかげで、この街からは飢餓が消え、種族間の争いも消えました。永遠に続く繁栄です!」


 市長が手を打つと、ケージから数十の吸血鬼が解放された。彼らは全て白い顔に赤い目、そして口元からは涎が垂れている。


「それに、あなたはもう逃げられません」


 ヘストンは剣を構えた。


「少し忘れているようだな。俺はS級冒険者だ」


 吸血鬼たちが一斉に襲いかかってきた。ヘストンは剣を振るい、次々と彼らを切り倒していく。しかし、その傷は瞬く間に治癒していった。


「無駄ですよ」


 市長は笑う。


「彼らは少々の傷では死にません」


 そのとき—


「でも、これなら死ぬだろう」


 壁の影から現れたのは、血に濡れた口を持つ色白の男だった。彼は手に何かの瓶を持っていた。


「お前は…」


 ヘストンは警戒した。


「私はドラク。この施設から逃げ出した"欠陥品"さ」


 ドラクは笑った。


「そして、このクリムゾンの帝国を崩壊させるために戻って来た」


 彼は瓶を開け、中身を吸血鬼たちに振りかけた。聖水だ。触れた吸血鬼たちは悲鳴を上げ、燃え上がる。


「馬鹿な!」


 市長が叫んだ。


 混乱の中、ヘストンはエリザベスの鎖を切断した。


「行くぞ!」


「待て!」


 市長が叫ぶ。


「この街の秘密を暴けば、繁栄は終わる!皆が飢える!それでもいいのか!?」


 ヘストンは足を止めた。市長の言葉には一理ある。この街の経済はソイレントVに依存している。


「お前の繁栄は幻想だ」


 ドラクが言った。


「真の繁栄は犠牲の上に成り立つものではない」


 火は瞬く間に広がり、施設内の吸血鬼たちは逃げ惑っていた。その混乱に乗じて、ヘストンはエリザベスを連れ、ドラクと共に脱出を図る。


 クリムゾン・タワーの地下から黒煙が立ち上っていた。


「これでソイレントVの生産は止まる」


 ドラクは呟いた。


「だが、この街はどうなる?」


 ヘストンは問いかけた。


 ドラクはヘストンの方を振り返った。その瞳には決意の色が浮かんでいる。


「私たちで新しい繁栄を作り出すしかない。本物の繁栄を」


 街の夜空には赤い月が浮かび、ヤキニク・ザ・ビックシティの新たな夜明けを予感させていた。


 ---


 夜の空気が一瞬凍りついた。


 地下施設から脱出したはずのヘストン、ドラク、そしてエリザベスの目の前に、突如として紫色の魔法陣が浮かび上がる。光が収束すると、そこにはアルバート・クリムゾン市長とその側近クラレンス・ラットの姿があった。


「逃げられるとでも?」


 市長は優雅に両手を広げた。


「この私の街から!」


 ヘストンは剣を構え、ドラクとエリザベスを後ろに庇った。すでに施設から逃れた数体の吸血鬼が広場に集まり始めていた。


「お前の狂気はここで終わりだ」


 ヘストンは低い声で言った。


 市長は笑みを浮かべたまま、ゆっくりと歩き始めた。


「狂気?これを狂気と呼ぶのですか?私は救世主なのですよ」


 市長の声には陶酔感(とうすいかん)(にじ)んでいた。


「すべては五年前、古い遺跡で発見した書物から始まった。私はある儀式を執り行い、崇高なる存在をこの世界に召喚することに成功したのです」


 夜空が赤みを帯び始める。市長の言葉に合わせるように雲が赤い月を覆い隠していく。


「その崇高なる存在から授かったのが、人間を吸血鬼に変える秘薬。不老不死の可能性を秘めた素晴らしい贈り物でした」


 市長は懐から小さな赤い瓶を取り出した。


「しかし、やつらはどうしようもない存在だった。血を吸わないと理性を失うモンスター。タフで簡単には処分できない…管理が難しく、失敗作だと思いました…ほんとに家畜以下だ」


 市長は瓶を見つめながら続ける。


「ところが、その肉を調理したところ、これがとてつもなく旨かった。そして私は思いついたのです—この肉を使って帝国を築こうと」


「だから人々を騙し、吸血鬼の肉を食べさせていたのか」


 ヘストンが睨みつける。


「騙していない。ソイレントVは素晴らしい食料です。この街の繁栄をもたらした至宝だ」


 市長は熱に浮かされたように語る。


「誰も飢えず、種族間の争いもない。完璧な社会を実現したのは私なのです!まあ、これ以上あなたと話しても無駄だ」


 市長は突然、指を鳴らした。


「さて、お願いいたします。邪魔者の排除は私では…そう、骨が折れます」


 クラレンス・ラットが一歩前に出た。彼はゆっくりと白い手袋を脱ぎ捨てる。その手は人間のものではなかった。黒い鱗に覆われ、鋭い爪が生えている。


「本当の姿をお見せしましょう」


 ラットの体が歪み始め、皮膚が裂け、中から巨大な悪魔が姿を現した。漆黒の翼が夜空に広がり、赤い目が闇に燃え上がる。


「これが崇高なる存在です!」


 市長が叫んだ。


 悪魔は咆哮し、ヘストンに飛びかかった。鋭い爪が夜気を切り裂く。だがヘストンはS級冒険者の名に恥じぬ動きを見せた。彼は剣を回転させながら悪魔の攻撃をかわし、一瞬の隙を突いて反撃に出る。


「この程度か」


 ヘストンの剣が悪魔の胸を貫いた。


 しかし悪魔は笑った。傷口から黒い霧が噴き出し、瞬く間に治癒していく。


「S級冒険者とやら、その程度の力では私を倒せん!」


 悪魔は手を上げ、黒い炎を放った。ヘストンは身をかわしたが、炎の一部が彼の肩を焼く。痛みに顔をしかめながらも、彼は態勢を立て直した。


「確かに強い」


 彼は剣を構え直す。


「だが、お前が初めての悪魔ではない」


 ヘストンのポーチから小さな瓶が取り出された。聖水だ。彼は瓶の中身を剣に注ぎ、青白い光が刃を包み込む。


「聖なる剣に触れれば、契約の証も焼き切れる」


 悪魔は一瞬ひるんだ。その隙にヘストンは飛びかかり、光る剣を振り下ろした。悪魔は避けようとしたが、剣は首筋を捉える。切り口から黒い血が噴き出し、悪魔は苦悶の叫びを上げた。


「ク、クラレンス!」


 市長が動揺した声を上げる。


 ヘストンはさらに攻撃を加えた。聖水に祝福された剣は悪魔の肉体を焼き尽くし、ついに巨大な体が地面に崩れ落ちた。


「バ、馬鹿な…」


 市長は後ずさった。


「クラレンスが負けるはずがない…」


 周囲に集まっていた吸血鬼たちも動揺し始めている。S級冒険者の力を見せつけられ、恐怖に震えていた。


「お前の番だ、クリムゾン」


 ヘストンが市長に迫る。


「く、くそおお!」


 市長は懐から例の赤い瓶を取り出した。


「最後の手段だ!」


 彼は瓶の中身を一気に飲み干した。市長の体が痙攣し始め、皮膚が白く変化していく。赤い目、鋭い牙—市長自身が吸血鬼へと変貌した。


「力が…力がみなぎる!」


 市長は狂ったように笑った。


「この力で世界を支配する!」


 変貌した市長はヘストンに襲いかかる。その速度は先ほどの悪魔をも凌駕していた。ヘストンはかろうじて身をかわしたが、市長の鋭い爪が彼の腕を引き裂いた。


「鮮やかな血だ…」


 市長は爪についた血を舐めた。


「これこそが私の求めていたもの!」


「市長様…」


 エリザベスが悲しげに呟いた。


「あなたはかつて尊敬される人だったのに」


「黙れ!」


 市長は叫んだ。


「お前たちは私の家畜に過ぎない!」


 ヘストンは腕の痛みに耐えながら剣を構えた。


「もはや人ではないな」


「人?人などに何ができる?」


 市長は再び襲いかかった。


 しかし今度は、ドラクが市長の前に立ちはだかった。


「私は貴方の"家畜"。でも、吸血鬼としての力を理解している」


 ドラクと市長の間で激しい格闘が始まった。爪と牙がぶつかり合い、二体の吸血鬼が閃光のような速さで動き回る。だが、市長の力はドラクを圧倒していた。


「新鮮な力と古びた力、どちらが勝つかは明らかだろう!」


 市長はドラクの胸を貫いた。


 ドラクは膝をつき、市長は勝ち誇った表情を浮かべる。そのとき—


「今だ!」ヘストンの声。


 ドラクが最後の力を振り絞って市長の腕をつかみ、動きを封じた。ヘストンの聖なる剣が市長の背中を貫く。


「ぐあぁっ!」


 市長は血を吐いた。


 市長は地面に倒れ、ヘストンが剣を突きつける。


「終わりだ」


「い、いや…待て」


 市長は弱々しく手を上げた。


「私には秘密がある…吸血鬼を元に戻す方法を…」


 エリザベスが駆け寄った。


「そ、そう…私を生かしてくれれば、お前たちを人間に戻してやる。私だけがその方法を知っている…」


 ヘストンは市長を見据えた。


「それは本当か?」


 市長はかすかに笑みを浮かべた。内心では「今生き残れば何とでもなる」と思っていた。彼は彼らの望みにつけ込もうとしていた。


 しかし、エリザベスはゆっくりと首を振った。


「あなたの言葉はもう信じられません。私たちはこのままでも構いません」


 彼女はドラクの手を取った。


「私たちが元に戻ることより大切なものがある」


「そ、そんな!」


 市長は狼狽(うろた)えた。


「お前たちは永遠に怪物のままでいいというのか!?」


「怪物は誰か…その答えはもう出ている」ドラクは静かに言った。


 東の空が白み始めていた。夜が明け、新たな日の始まりを告げる光が地平線から昇り始める。


「さあ、お前も我々と一緒に消えるがいい」


 ドラクは市長の腕をつかんだ。


「い、いや!放せ!」


 市長は必死になって抵抗した。


 エリザベスもまた市長のもう片方の腕をつかむ。二人の吸血鬼は力を合わせ、抵抗する市長を東の空へと向かせた。


「やめろ!太陽が…太陽が昇る!」


 市長は恐怖に震えながら叫んだ。


 最初の太陽光線が広場を照らし始めた。光を浴びた吸血鬼たちの皮膚から、煙が立ち上る。


「ヘストン」ドラクが振り返った。


「この街を…正しい繁栄へと導いてくれ」


 ヘストンは無言で頷いた。


 ドラクとエリザベスは市長とともに太陽の光へと歩み出た。三体の吸血鬼の体が輝き始め、焼け落ちていく。


「こ、こんなはずでは…」


 市長の最後の言葉が風に消えた。


 吸血鬼たちの体は灰となり、朝の風に吹かれて散っていった。ヘストンは静かに剣を鞘に収めた。


「終わったな」


 彼の背後では、地下施設から解放された吸血鬼たちも次々と灰になっていく。彼らの表情には、長い苦しみからの解放を示す安堵が浮かんでいた。


 朝日がヤキニク・ザ・ビックシティを照らし、新たな一日が始まる。街の繁栄は幻想だったが、今度は真実の上に新しい街を築き上げねばならない。


 ヘストンはクリムゾン・タワーを見上げた。塔の上では、赤い旗が朝の風にはためいている。やがてそれも新しいものに取り替えられるだろう。


 彼はポケットからヒューゴ・バロン男爵の依頼書を取り出した。任務は完了した。エリザベスは見つかった—彼女は人間としては戻ってこなかったが、最後に選んだ道は彼女自身の意志だった。


「さて、報告に戻るか」


 ヘストンは朝日を浴びながら、街を後にした。


 街では、ソイレントVの正体を知った市民たちが混乱に陥っていた。しかし、混乱の中から新たな秩序が生まれるだろう。それはもう彼の仕事ではない。S級冒険者ヘストン・グレイブスは、次なる依頼へと歩みを進めた。


 ヤキニク・ザ・ビックシティの夜明けは、真の意味で始まったのだ。

プロンプト

「『ソイレントV』~煙が立ち込める眠らない街ヤキニク・ザ・ビックシティの秘密と夜な夜な現れる謎の色白男ドラク。あなたはこの展開を果たして予想できるだろうか?~。場所は異世界煙が立ち込める眠らない街ヤキニク・ザ・ビックシティ。煌びやかな光に焼肉の煙と香水が漂う街。世界の7割の肉はここで消費されると言われる超弩級の巨大な城塞都市。「この街の肉の8割はこの『ソイレントV』です。これこそがこの街の要」。市長は力強く宣伝する。この人工肉を開発し、いまやこの街の市長となった天才錬金術師兼魔術師。はじめはみな懐疑的であったが、市長が魔術師時代に自ら食べて宣伝する姿に徐々に人々は食べ始めた。ソイレントVによって得た収益は孤児院に寄付するというアピールもよかった。そんな街である奇妙な噂がある。夜な夜な色白の犬歯の男が追いかけてきて血を吸うという。倒れた人の近くには口に赤い液体をつけた男。S級冒険者ヘストンは娘を亡くした大富豪からの依頼でこの街で調査を開始する。街は作られた繁栄を謳歌しているようなそんな印象をヘストンは薄っすら感じていた。種族同士が仲良く、あってもちょっとしたいざこざ。奇妙なくらい平和な街。オチ、ソイレントVとは錬金によって生み出された吸血鬼を精肉したもの。謎の男ことドラクは施設から逃げ出した男で血を吸いながらこの街で暗躍していた。このプロットを元にシリアスダークファンタジーコメディ短編小説を書きましょう。まずは前編を書いてください。」

「市長とクラレンス・ラットはヘストンたちの目の前に転移してきた。市長は語り始める。市長はある儀式を成功させて崇高な存在をこの世界に召喚させた。そして、人間を吸血鬼にする秘薬を作ることができた。しかし、やつらはどうしようもない血を吸わないと理性をなくすモンスターだった。しかし、その肉はとてつもなく旨かった。そして、市長はこの肉を使って王国をつくることを考える。そこまで言って、市長は指を鳴らす。「お願いいたします。邪魔者の排除は私では…そう骨が折れます」。そう言うとクラレンス・ラットは手袋脱ぎ捨てて、本来の姿になる。それは市長が契約した悪魔だった。しかし、ヘストンが俺強えええして倒します。狼狽する市長は最後に自信を吸血鬼化させて襲い掛かります。しかし、あえなく撃退される。市長は奥の手段として自分を生かせば吸血鬼を元に戻せると言う。しかし、それは嘘だった。内心で今生き残れば何とでもなると思っていた。エリザベスたちは自分たちが元に戻ることより市長とともに消滅することを選ぶ。最後に日光を浴びて吸血鬼たちは消滅する。このプロットを元にファンタジーアクションに物語を締めくくってください。」

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