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『ただ焼き肉を食べたいだけなんだ』~Z世代のテンションと氷河期世代の熱~

 夜22時。十七週続いたデスマーチを終えた俺は、会社を出た。


 目の前でダンスを踊るような視界の揺れを無視して、携帯で焼肉屋を検索する。二十四時間営業の店が見つかった。よし、これで今夜の焼肉は確定だ。


「貴様、血を分けてくれないか」


 いつの間にか、目の前に立っていた男が言った。


 西洋風の古めかしいスーツを着て、顔は青白い。俺のスマホの画面が彼の顔を照らして、不自然に長い犬歯が見えた。


「吸血鬼?」と聞いたが、彼は答えなかった。


「悪いけど、今仕事終わったばっかで疲れてるんで」と言った俺に、彼は優雅に腕を広げた。


「私はドラキュラ伯爵だ。貴様の血を頂きたい」


 俺は疲れた顔で彼を見上げた。


「すいません、明日でもいいですか?今日は焼き肉食べたいんで」


 ドラキュラは一瞬、表情を固めた。


「血を吸わせろと言っているのだ」


「あー、でも今日は焼肉の予約入れちゃったんで」と言いながら、実際には予約なんてしていないのに嘘をつく俺。


「ふん、では鬼ごっこをしよう。お前が勝てば自由だ。負ければ血を頂く」


 あー、めんどくさ。


「なんだよ、コイツ全然話きいてねえじゃん」と俺は溜息をついた。


 そのとき、闇の中から声が響いた。


「やめておけ、伯爵」


 黒いTシャツと擦り切れたジーンズを着た四十代の男が現れた。Tシャツには「炭火焼肉 たまらん」と書かれている。


「バチカンの地下書庫で会ったとき以来だな、伯爵」


 彼は低く落ち着いた声で言った。


「まだ人間を襲っているとはな」


 ドラキュラは眉を上げた。


「大九郎か。お前が何者かはとうに知っている」


「それにしても驚いたよ。今は焼肉屋をやっているのか?」


 ドラキュラは男のTシャツを指差した。


「あいにく、氷河期世代なもんでな。時代に合わせて姿を変えるのは、お前も同じだろう」


 男は肩をすくめた。


「終身雇用も年金も幻想だったからな。今は炭火焼肉屋の店長やってる」


 俺は二人の会話を聞きながら、そっとスマホでUberEatsを開き始めた。焼肉店からの配達時間を調べる。


「貴様はいつも邪魔をする」


 ドラキュラは歯ぎしりした。


「それが俺の宿命よ」


 半田ヘルシング大九郎改め焼肉屋の店長は懐から木の杭を取り出した。


「おい、若いの」


 店長は振り向かずに言った。


「逃げろ」


 俺は二人を見比べた。


「あの、すいません」


 二人が俺を見る。


「帰っていいですか?マジで焼肉食べたいんで」


「なに⁉︎」


 ドラキュラが叫んだ。


「我々の死闘を前に去るというのか?」


「いや、だって明日また朝から出社だし」と俺。


「今日は本当に焼肉食べたいだけなんで」


 店長は笑った。


「行け。ただし、もし生き延びたければ、『炭火焼肉 たまらん』に来い。特上カルビ頼めば、吸血鬼対策の秘伝のタレをサービスする」


「いやそれ別にいらな…」


 言いかけて、俺は諦めた。


「あ、はい。ありがとうございます」


 俺がゆっくり後退していると、二人の戦いが始まった。


「時は来た、半田ヘルシング大九郎!」


 ドラキュラは大げさなポーズを取った。


「今夜こそ決着をつけるぞ!」


「かかってこい、吸血野郎!」


 店長は木の杭を構えた。


「この国難の時代を生き抜いた俺を甘く見るな!就職氷河期、リーマンショック、失われた30年、全部乗り越えてきたんだ!」


 ドラキュラは高笑いした。


「人間の経済など知ったことか!我が生きる時代はもっと長い!」


「お前は時代についていけていない!今の若者の血なんて栄養失調で薄いぞ!」


 店長は叫んだ。


「何!?」


 ドラキュラは驚いたように立ち止まった。


「そうさ!今どきの若者は非正規雇用でストレスだらけ、睡眠不足だ」


 店長は自信たっぷりに胸を張った。


「血の質が違うんだよ!」


 彼らの熱い戦いの言葉を背に、俺はすでに百メートルほど歩いていた。スマホでUberEatsの注文を完了させ、「配達中」の表示を満足げに眺める。


 後ろからは店長とドラキュラの声が聞こえた。


「私は五百年生きている!お前ごときに負けはせん!」


「俺の焼肉へのこだわりは世紀を超える!秘伝のタレの前には吸血鬼も無力だ!」


「なぜ木の杭がまるで焼肉用の串のようなのだ!?」


「時代に合わせて進化したのさ!お前こそ進化しろ!」


 俺はため息をつきながらイヤホンを耳に突っ込み、音楽をかけた。


 二人の戦いは街の闇に吸い込まれていった。俺にはどうでもいい。今夜、ただ焼き肉が食べたいだけなんだ。


 夜空に浮かぶ月を見上げると、黒い影が飛んでいるような気がした。店長とドラキュラの戦いは続いているらしい。


「マジでめんどくさ」と呟きながら、俺はアパートへの帰路を急いだ。


 UberEatsの配達員から焼肉弁当を受け取り、部屋に入る。


「ただいま」と誰もいない部屋に言いながら、俺は焼肉の蓋を開けた。


 あの店長とドラキュラは今頃どうなっているだろう。多分、互いの過去について語り合いながら、熱い戦いを繰り広げているのだろう。


 俺は肩をすくめた。時代は変わる。吸血鬼も氷河期世代も、それぞれの熱を持っている。


 だが俺にとっては、今、目の前の焼肉だけが重要だった。


 ショート動画をスマホで見つつ、焼肉を口に運びながら、「うまっ」と呟く。


 外では何かが爆発する音がした。店長とドラキュラの戦いがエスカレートしているらしい。


 でも、それは俺の知ったことではない。


 ただ焼き肉を食べたいだけなんだ。

プロンプト

「『ただ焼き肉を食べたいだけなんだ』~Z世代のテンションと氷河期世代の熱~。場所は東京、夜中に吸血鬼と遭遇したデスマーチ明けZ世代の私。「すいません、明日でもいいですか?今日は焼き肉食べたいんで」。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。「なんだよ、コイツ全然話きいてねえじゃん」。その時、謎の黒Tシャツの男が現れる。「バチカンの地下書庫で会ったとき以来だな、伯爵」彼は低く落ち着いた声で言った。「まだ人間を襲っているとはな」。「それが我々のさがだからな」吸血鬼は肩をすくめた。「それにしても驚いたよ。今は焼肉屋をやっているのか?」。男のTシャツには焼き肉屋の文字。「あいにく、氷河期世代なもんでな。時代に合わせて姿を変えるのは、お前も同じだろう」。氷河期世代のおっさんと吸血鬼が戦う。そしてそれを冷めた目で傍観しつつこっそりフェードアウトするZ世代の俺。このプロットを元にシュールコメディ短編小説を書きましょう。吸血鬼と氷河期世代の男が熱く戦い語り合う中でZ世代の淡々とした対応が対になるシュールな作品です。」

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