表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
460/601

「計画名『サクリファイス』」~神にささげる供物~

 

 空が赤く染まる頃、私は目を覚ました。


 カーテンの隙間から漏れる僅かな光を避けながら、私は慎重に棺桶から身を起こした。今夜は特別な夜だ。計画名「サクリファイス」—神にささげる供物—を実行する時が来た。


 私、月影レイは女吸血鬼だ。東京の片隅で何百年もの間、ひっそりと生きてきた。普段は適当な人間を見つけては血を分けてもらう程度で満足していたが、今夜は違う。


「ただの人間ではだめだ」


 私は鏡に映る自分の姿—真っ赤な瞳と青白い肌—を見つめながら呟いた。


「屈強な戦士を捧げなければ」


 今夜は500年に一度の特別な夜。私たち吸血鬼が崇める闇の女神ノクターナの降臨祭だ。女神に相応しい供物を用意しなければならない。


 ------


 新宿の雑踏に紛れて、私は獲物を探していた。何人かの候補は見つかったが、いずれも物足りない。そこで目に留まったのは、路地裏で数人の不良を相手に圧倒的な強さを見せる一人の男だった。


 色黒で筋肉質、身長は190cmはあろうかという巨漢。不良たちを片付けた後、男は首の汗を拭いながら息を整えていた。


 完璧だ。


 私は男に近づき、最も魅惑的な声で話しかけた。


「お兄さん、神の供物になりませんか?」


 男は私を見下ろし、険しい表情を浮かべた。


「俺を深倉ミテクルと知っていて声をかけたのか?」


 どうやらこの男は自分が有名人だと思っているらしい。私は彼の名前など知らなかったが、それを悟らせるわけにはいかない。


「もちろんですとも、深倉さん」と私は嘘をついた。


「あなたのような方こそ、我らが女神にふさわしい」


 深倉は鼻を鳴らした。


「何言ってんだ?宗教の勧誘か?」


 説得は無理そうだ。私は一瞬で彼の背後に回り込み、軽々と彼を持ち上げて壁に叩きつけた。


「なっ...!?」


 深倉の顔から血の気が引いた。自分より小柄な女性に投げ飛ばされた衝撃と恐怖で、彼は言葉を失っていた。


「深倉さん」


 私は優しく微笑んだ。


「平和的に鬼ごっこでもしましょうか?負けたら貴方の身体を神のために使わせて貰いますよ」


 ------


 深倉ミテクルは自分がどれほど走ったか分からなかった。あの奇妙な女から逃げるために、彼は東京の路地を縫うように駆け抜けていた。


「くそっ...あいつ何者だ...」


 振り返ると、女はまるで散歩でもしているかのようにゆっくりと彼の後を追ってきていた。しかし、どれだけ走っても距離は縮まるばかり。


「もう十分じゃありませんか?」


 女の声が風に乗って届いた。


「そろそろ降参してください」


「冗談じゃねえ!」


 深倉は叫び、路地を曲がった。


 そこは行き止まりだった。


「やれやれ」


 振り返ると、女が既に彼の前に立っていた。逃げ場はない。


「降参しますか?」


 深倉は拳を握りしめた。


「どんな神にも俺は屈しねえ!」


 彼は渾身の力で女に向かってパンチを放った。しかし、女はまるで予測していたかのように軽くかわし、彼の首筋に指を這わせた。


「残念ですが、時間切れです」


 世界が闇に包まれる前、深倉が最後に見たのは女の真っ赤な瞳と鋭い牙だった。


 ------


 深倉が目を覚ますと、見知らぬ場所にいた。頭がズキズキと痛み、首筋に鈍い痛みを感じる。彼は周囲を見回した。


 同じように困惑した表情の屈強な男たちが何人もいる。全員が黒いTシャツに身を包み、腕には「親衛隊」と書かれた腕章をつけていた。


「目が覚めましたか」


 先ほどの女が微笑みながら近づいてきた。


「おい、ここはどこだ?何をする気だ?」


 深倉は怒りを露わにした。


 女は笑みを深めた。


「約束通り、あなたの身体を神のために使わせていただきます」


 彼女は腕時計を確認した。


「あと30分で開演です。みなさん、出番に備えてください」


「開演?出番?」


 深倉は混乱した。


「ええ、今夜は特別な夜」


 女は目を輝かせた。


「我らが女神、ノクターナ様の生まれ変わりであるアイドルグループ『ナイトクイーンズ』の降臨祭が行われるのです」


「アイドル...グループ?」


 女は頷いた。


「そう、500年に一度の特別なライブ。そして、あなたたちには女神を守る親衛隊として活躍していただきます」


 深倉は自分の腕の腕章を見た。確かに「親衛隊」と書かれている。


「冗談だろ?俺はアイドルの警備員にされたのか?」


 女は首を振った。


「単なる警備員ではありません。女神に相応しい、屈強な戦士たちによる親衛隊です。会場の安全を確保し、熱狂的なファンから女神を守り、物販の整理をし、ライブ後の機材撤収を手伝い...」


 深倉は絶句した。これが「神のための供物」の意味だったのか。


 ------


 その夜、東京ドームは7万人の熱狂的なファンで埋め尽くされた。ステージ前には、黒いTシャツに身を包んだ屈強な男たちが整然と並び、アイドルたちの安全を確保していた。


「我々親衛隊が守りますぞ!!!!!」


 何故かスリーフィンガーサインを掲げながら、深倉ミテクルは叫んでいた。彼の横には、同じく「供物」として集められた屈強な男たちが立ち、アイドルたちを熱心に守っていた。


 ステージ上では、「ナイトクイーンズ」の五人が妖艶に舞い、観客を魅了していた。特に中央で踊るセンターの少女は、まるで本当の女神のように輝いていた。


「あれが...女神の...」


 深倉は思わず見とれた。それは人間離れした美しさだった。


 闇の中を照らす無数のペンライト、轟く音楽、熱狂する観客。そして、ステージの袖では、あの吸血鬼の女が満足げに微笑んでいた。


 ------


 夜が明ける頃、ライブは終わりを告げた。深倉たち「親衛隊」は機材の搬出を手伝い、物販エリアの整理を行い、最後の一人のファンが帰るまで会場を守り抜いた。


 疲労困憊で座り込む深倉に、吸血鬼の女が近づいてきた。


「お疲れ様でした、深倉さん」


 深倉は顔を上げた。


「もう解放してくれるのか?」


 女は首を傾げた。


「解放?あなたたちは500年に一度の神聖な儀式に参加したのですよ。これは名誉なことです」


「名誉だと...?」


「ええ、そしてこれからも」


 女は笑顔で告げた。


「次の降臨祭まで、あなたたちには女神の使徒として働いていただきます」


「次って...500年後だろ?」


 女は愉快そうに笑った。


「いいえ、次の全国ツアーですよ。来週から始まります。47都道府県、計100公演。もちろん、無給で交通費は自腹です」


 深倉の顔から血の気が引いた。


「冗談だろ...?」


「冗談ではありませんよ」


 女は深刻な表情になった。


「これが真の『サクリファイス』—神にささげる供物—の意味です。あなたたちの時間と労力を女神のために捧げるのです」


 深倉は天井を見上げ、深いため息をついた。


「俺はただの筋トレマニアだったのに...」


 女は彼の肩を優しくたたいた。


「でも、嬉しそうでしたよ?ライブ中、あなたが一番熱心にコールしていました」


 深倉は反論できなかった。確かに、あのアイドルたちの姿は神々しかった。特に、センターの少女は人間とは思えない魅力を放っていた。


「...次はどこだ?」


「仙台です」


 深倉はゆっくりと立ち上がり、自分の腕章を見つめた。


「わかった...親衛隊の責務を果たす」


 女は満足げに微笑んだ。「サクリファイス」計画は大成功だった。


 人間の肉体と労力を捧げることで、女神は現世に降臨し続ける。そして、その報酬として、深倉たち「供物」は、普通の人間には決して見ることのできない神秘の世界を垣間見ることができるのだ。


 それが「サクリファイス」—神にささげる供物—の真の意味だった。

プロンプト

「「計画名『サクリファイス』」~神にささげる供物~。場所は東京。私は吸血鬼。今日も人間の生き血を吸う。しかし、今日は特別にある儀式のために人間を襲う。「ただの人間ではだめだ、屈強な戦士を捧げなければ」。私は屈強な男を見つける。「お兄さん、神の供物になりませんか?」。男は色黒でマッチョ。「俺を深倉ミテクルと知っていて声をかけたのか?」。私は軽々と男を投げ飛ばす。深倉はビビる。「お兄さん、平和的に鬼ごっこでもしましょうか?負けたら貴方の身体を神のために使わせて貰いますよ」。オチ、深倉は捕まってしまい吸血鬼に連れられてアイドルライブに参戦する。「我々親衛隊が守りますぞ!!!!!」。同じく、供物のように集まった屈強な男たちがライブ会場で警備員兼安全係として無休で働く。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ