『吸血鬼に襲われたら、赤コーナー極悪プロレスラー連合が迎え撃つ!!!』~衝撃のラスト~
「ふふ、好きなだけ逃げなさい」
冷たい声が夜の路地裏に響いた。井ノ川洋子は振り返らずに走った。残業で遅くなった水曜日の夜、駅から自宅までの近道を選んだことを今更ながら後悔していた。
背後から聞こえる足音は不自然なほど軽やかだった。それはアスファルトを這うというより、空気を切り裂くような音だった。
「普通のOLが一匹…」
吸血鬼の声には余裕があった。
「今宵の一献にはちょうどいい」
洋子は息を切らしながら、小さく笑った。
「普通のOL?」
洋子は立ち止まり、ゆっくりと振り返った。スーツの上着を脱ぎ捨て、鞄から取り出したのは、赤と黒のマスク。それを頭にかぶると、彼女の姿勢が変わった。肩を怒らせ、背筋を伸ばし、普段隠している筋肉がシャツの下で盛り上がる。
「私は東京悪役プロレス連盟所属、『ヨウコ・ザ・トゥーフェイス』だ!」
吸血鬼は一瞬驚いたように立ち止まったが、すぐにあざ笑った。
「プロレスラー?面白い。人間の遊びごとが私に通じると思っているのか?」
「通じる通じない以前の問題だ」
洋子は空を見上げた。
「今夜のメインイベントは『吸血鬼断頭台マッチ』。すでにチケットは完売だ」
吸血鬼が意味を理解する前に、路地の両側にあった倉庫のシャッターが一斉に開いた。両側から飛び出してきたのは、奇妙な衣装を着た男女たち。一人は全身緑のボディスーツに身を包み、もう一人は顔半分だけペイントした覆面。さらに、巨漢の男性は上半身裸で腰にはスパイク付きの革ベルト。女性は金色のビキニアーマーのような衣装で、手には鉄のバット。
「こちらレッドコーナー、極悪プロレスラー連合!」
スピーカーから実況のような声が流れた。
「何だこれは…」
吸血鬼は困惑した表情を浮かべた。
次の瞬間、倉庫の間に張られていたワイヤーが光り、一気にスポットライトが点灯。そこには即席で作られたリングがあった。
「おいでなさい、血を吸う紳士さん」
洋子はリングに向かって歩きながら言った。
「こちらで決着をつけましょう」
リング脇には、「東京吸血鬼退治興行 ~青コーナーの吸血鬼は震えあがる~」と書かれた横断幕。観客席には数十人の野次馬が集まっていた。
「ばかばかしい…」
吸血鬼はつぶやいたが、何かに引き寄せられるように、自然とリングへ歩み寄っていた。
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リングに上がった吸血鬼は、優雅な動作で黒いマントを翻した。
「人間よ、私は三百年の時を生きてきた。お前たちの小さな遊びなどに付き合う気はない」
「そうかい?」
洋子はリングロープに寄りかかりながら言った。
「でも、あんたはすでにリングに入った。これはプロレスのルールに従う義務があるということだ」
鐘が鳴り、試合開始。
吸血鬼は一瞬で洋子の背後に回り込み、首に腕を回そうとした。しかし洋子の動きはさらに速かった。彼女は吸血鬼の腕をつかみ、巧みな受け身でマットに叩きつけた。
「なにっ!?」
観客からは歓声が上がった。
「どうした?三百年生きてきた割には動きが遅いな」
洋子は挑発した。
怒った吸血鬼は牙をむき出しにし、再び攻撃を仕掛けた。しかし今度はリングサイドから飛んできた液体が吸血鬼の顔にかかった。
「ぐああっ!」
吸血鬼は顔を押さえて悶絶した。
「毒霧攻撃!反則技だが審判は見て見ぬふり!」
実況が興奮気味に叫んだ。
リングサイドでは、全身緑のボディスーツの男「ベノム・スパイダー」が空のスプレー缶を持って微笑んでいた。
「こ、これは…にんにくのエキス!?」
吸血鬼は顔をしかめた。
「おい、反則だ!」
吸血鬼が審判に文句を言おうとしたとき、審判はわざとらしく背中を向けた。
「なんと!審判!不正行為を!見て見ぬふりぃぃぃぃ!これぞ悪役プロレスの真骨頂!」
実況が叫ぶ。
観客はブーイングと歓声を混ぜた奇妙な掛け声を上げた。
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試合は予想以上に白熱した。吸血鬼は超人的な力と空中浮遊能力で素晴らしい空中技を披露し、洋子たちは反則技と連携プレーでそれに対抗した。
リングの外では、顔半分ペイントの「ハーフフェイス・キラー」が電流の流れる金網を用意し、巨漢の「ブルータル・バッファロー」はドラム缶を運び込んでいた。
「次はタッグマッチだ!」
洋子が叫ぶと、金色のビキニアーマーの「ゴールデン・クイーン」がリングに飛び込んできた。
「二対一とは卑怯な!」
吸血鬼が抗議すると、洋子は肩をすくめた。
「何を言っている。吸血鬼は仲間を呼べるんじゃないのか?」
その言葉に、吸血鬼は一瞬考え込んだ。そして、黒い霧を放出すると、そこから若い男性の吸血鬼が現れた。
「師匠、お呼びですか?」
「エドガー、この愚かな人間どもに力を見せつけるのだ」
こうして一対一の試合はタッグマッチへと発展した。
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「いやー、まさか本当に仲間を呼ぶとは思わなかったよ」
試合後、リング脇の控室となっていた倉庫で、洋子は冷えたビールを片手に笑っていた。向かいに座っていたのは、さっきまで敵として戦っていた二人の吸血鬼。
「私としても、三百年の人生でプロレスに参加するとは思わなかったよ」
年長の吸血鬼は言った。彼の名はヴラディミール、東欧から明治時代に日本にやってきたという古参の吸血鬼だった。
若い方の吸血鬼、エドガーは興奮気味に話していた。
「あのローリングソバットの受け身、教えてもらえませんか?」
「いいよ、次の練習会に来なよ」
ベノム・スパイダーこと鈴木が答えた。マスクを脱いだ彼は、昼間は普通の会社員だった。
「でも、よく考えたらさ」
洋子はビールを置いて言った。
「吸血鬼って日光に弱いんでしょ?昼間の興行には出られないよね」
「そこが問題なんだよな」
ヴラディミールは溜息をついた。
「夜の興行だけじゃ、食っていけないからね」
「それなら…」
洋子は閃いた。
「ナイトショー専門の興行を立ち上げましょうよ!『ミッドナイト・モンスター・プロレス』とか!」
全員の目が輝いた。
「人間と吸血鬼のタッグチーム結成…これは面白い」
ゴールデン・クイーンこと佐藤美咲が言った。
「客層もかなり独特になりそうだな」
ハーフフェイス・キラー、本名・田中は笑った。
「人間も吸血鬼も、悪役も善玉も、リングの上では平等…それがプロレスの素晴らしさですよ」
ブルータル・バッファローこと山田は哲学的に語った。
洋子はグラスを上げた。
「それじゃ、『ミッドナイト・モンスター・プロレス』の船出に乾杯!」
全員がグラスを合わせ、夜の倉庫には笑い声が響いた。吸血鬼の指導で、夜間限定のスペシャルイベントは瞬く間に人気を博した。
そして井ノ川洋子、昼はOL、夜はプロレスラー「ヨウコ・ザ・トゥーフェイス」の二重生活は、予想外の展開を迎えたのだった。
彼女の同僚たちは今でも知らない。あの真面目な井ノ川さんが、夜になると吸血鬼とタッグを組んでいることを。
プロンプト
「『吸血鬼に襲われたら、赤コーナー極悪プロレスラー連合が迎え撃つ!!!』~青コーナーの吸血鬼は震えあがる~。場所は東京。私は井ノ川洋子。普通のOL。帰宅途中、吸血鬼が目の前に現れる。「ふふ、好きなだけ逃げなさい」。吸血鬼は余裕な表情で私を追いかける。しかし、私の裏の顔は悪役プロレスラー「ヨウコ・ザ・トゥーフェイス」。悪役プロレスラー同盟と一緒にステージ上で吸血鬼を迎え撃つ。毒霧、金網電流デスマッチ、ドラム缶、審判買収、さまざまな悪役プロレスラーの常套手段を使う。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」