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『キャバクラ系ヴァンパイアの対処法』~営業スタイルを見極めろ!~

 酔いが回りはじめた頃、新宿の路地裏で先輩の肩を借りながら、俺は足をもつれさせていた。夜の街は相変わらず眩しく、人の熱気と酒の匂いが混ざり合う。


「佐藤君、まだ飲めるだろ?次のお店いこうぜ」


 会社の後輩歓迎会で、課長代理の山田先輩は俺をひっぱりまわしていた。俺は入社三年目、新人と呼ばれる時期は過ぎたものの、飲み会の慣習には未だに戸惑いを隠せない。


「あ、お兄さん!お兄さん!ちょっといいですか?」


 突如、黒スーツの男が俺たちの前に立ちはだかった。典型的なキャッチの風貌だ。


「今夜だけの特別なお店があるんですよ。お兄さんたち、吸血鬼が接客してくれるお店知ってます?」


「はあ?」


 思わず素っ頓狂な声が出た。


 山田先輩は目を輝かせている。


「おぉ!新しいコンカフェか?本物?w」


 キャッチは得意げに微笑んだ。


「いえいえ、本物ですよ。実際に血を吸われるわけじゃないですが、本物の吸血鬼がお相手する唯一のキャバクラです」


 先輩は既に財布を取り出していた。


「おい、佐藤。せっかくだから行こうぜ。こういう体験、滅多にできないだろ?」


「いや、でも…」


「セット料金は通常15,000円ですが、今なら10,000円でどうですか?」


 キャッチが言う。


 山田先輩は交渉を始めた。


「8,000円にしてくれたら行くよ」


「わかりました!特別に!」


 こうして俺たちは「Midnight Blood」という看板のある地下へと誘導された。


 ---


 地下に降りると、そこは予想以上に高級感のある空間だった。赤と黒を基調とした内装、クリスタルのシャンデリア、そして壁には西洋の古城のような装飾が施されている。


「いらっしゃいませ〜」


 制服は黒のコルセットドレスに白いフリルカラー。首筋には小さな牙の痕を模した刺繍が入っている。


「本日は特別席をご用意しております」


 案内された席はVIP席らしく、少し区切られた空間だ。テーブルには既にシャンパンが用意されていた。


「担当のミレイ様がまいります」


 数分後、店内の照明が一瞬暗くなり、俺たちのテーブルだけにスポットライトが当たった。


「お待たせしました〜」


 ドアから入ってきたのは、銀髪の長い髪を持つ美女だった。白い肌は透き通るようで、赤い瞳は人工的なカラーコンタクトとはいえ、妙に生々しい。


「私、ミレイと申します。今夜はよろしくお願いしますね」


 彼女が笑うと、小さな牙が見えた。あれは確実に付け牙だ。しかし、その完成度の高さに驚いた。


「乾杯しましょう」


 シャンパンを注がれ、山田先輩は既にミレイのペースに乗せられていた。


「先輩、これただの高級キャバクラじゃないですか?」


「馬鹿言うな。雰囲気を楽しめよ」


 ミレイは優雅にグラスを手に取り、「私たちヴァンパイアは、お酒よりも…別のものに飢えているのよ」と色っぽく笑った。


 ---


 一時間ほど経過した頃、俺は店の営業スタイルを分析していた。吸血鬼という設定を活かした色恋営業がベースだが、それだけでなく、様々な手法が見て取れる。


 まず、山田先輩には「友達営業」で接していた。冗談を言い合って笑いながら、「人間界の友人は大切」などと言って親近感を演出する。


 俺には「小悪魔営業」だ。「あなたの血は特別な香りがする」と耳元でささやき、時折触れる指先は冷たく演出されている。


 他のテーブルを見渡すと、様々な営業スタイルがあることに気づいた。「病み営業」で「400年生きてきたつらさ」を語るヴァンパイア、「オラオラ営業」で「お前の血を全部吸ってやる」と迫るタイプ、「アイドル営業」で「吸血鬼アイドルになりたい」と話すキャラまで多種多様だ。


「ねえ、佐藤くん。私、実は500年前の戦国時代から生きているの」


 ミレイは「歴史営業」を始めた。


「信長公の時代を知っているのよ」


「へえ、それは凄いですね」


適当に相槌を打ちながら、俺は考えていた。


 なぜこんなに営業スタイルが多様なのか?それは客のタイプによって使い分けているからだ。そして、どのスタイルが効くかを見極めた上で、もっとも効果的な手法に切り替えていく。


「あなた、私の本当の姿を見てみたい?」


 不意に真顔になったミレイ。俺は思わず背筋が伸びた。


「いいの?人間の前で正体を現すのは禁忌なんだけど…」


 彼女は俺の返事を待たずに立ち上がり、バックヤードへと向かった。先輩は他のテーブルの女の子と話しこんでいる。


 ---


 五分後、ミレイは戻ってきた。しかし、その姿は先ほどとは違っていた。頬はやや青白く、目の下にはクマがあり、装飾的な牙はなくなっていた。


「これが私の素顔よ」


「え?」


「実はね、私たちヴァンパイアは、血を飲まないと老化が進むの。今は節制しているから、本当の年齢が出てしまうのよ」


 俺は驚いた。この「素」の演出こそが、彼女たちの本当の営業スタイルだったのか。「素営業」とでも呼ぶべきか。


「あなたは見抜いていたでしょう?私たちの営業スタイルを」


「まあ、なんとなく」


「それが面白いの。普通の人は設定に浸るだけ。でもあなたは冷静に観察している。だから、本当の話をしたくなった」


 彼女はテーブルに身を乗り出した。


「実はね、私たち本当に吸血鬼なの」


「いや、それはないでしょう」


「なぜ信じないの?」


「だって、それが本当なら、わざわざキャバクラなんかしませんよ。街で獲物を探した方が効率いいでしょ」


 ミレイは声を潜めて言った。


「それが現代社会の難しいところなのよ。昔みたいに人を襲えないでしょ?防犯カメラはあるし、DNAも残るし、行方不明者が出れば捜査される。だから私たちは、合法的に人と接する方法を見つけたの」


「はあ」


「このお店では、お客さんとの時間をお金で買う。そして、特別なVIPルームでは…追加料金で少しだけkこっそり血を分けてもらうの」


 彼女の真顔に、一瞬だけ不安を覚えた。冗談のつもりなのだろうが、演技が上手すぎる。


「それで、今日はどうする?VIPルームにいかない?」


「いや、結構です」


 ミレイは小さく笑った。


「冗談よ。でも、現代の吸血鬼はこういう形で生き残っているのかもしれないわね」


 その時、タイムアップの合図が鳴った。


「また来てね」


 ミレイは俺の耳元に囁いた。


「次来る時は、首筋を見せてくれるかしら?」


 彼女の指先が、俺の首筋をなぞった。不思議と冷たい。


 ---


 店を出ると、山田先輩は上機嫌だった。


「どうだった?面白かっただろ?」


「まあ、独特でしたね」


「あの子たち、演技うまいよな。牙も本物みたいだったし」


「そうですね」


 俺は首元を触りながら、ふと思った。もし彼女の言っていたことが本当だとしたら?現代の吸血鬼は、こうやって社会に溶け込んでいるのかもしれない。


「次も行くか?」


「いや、もういいです」


 俺はきっぱりと答えた。たとえ本物の吸血鬼でなくても、あの営業スタイルには負ける気がした。


 帰り道、何故か首筋がかゆい。気のせいだろうか。

プロンプト

「『キャバクラ系ヴァンパイアの対処法』営業スタイルを見極めろ!。場所は東京の繫華街。先輩に連れられて遊んでいた。「お兄さん、吸血鬼が接客してくれるお店あるよ!」。キャッチの言葉に足が止まる。「新しいコンカフェかな」。値切り交渉に成功してキャバクラに入る。色恋営業、友達営業、飲み営業、オラオラ営業、小悪魔営業、病み営業、枕営業、アイドル営業。様々な営業スタイルがあるが果たして奴らはどんなスタイルだろうか?このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」

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