『ダイバーシティ・ヴァンパイア』~ポリコレ的配慮~
夜の帝都東京。街灯の光が水たまりに映り込み、湿った路地に影を落とす。私は屋上の縁に腰掛け、下界を見下ろしていた。永遠に続く退屈な日々。何百年も同じことの繰り返し。誰かの首筋に牙を立て、鮮血を啜る。そして夜明け前に姿を消す。
「退屈だな」
呟きが夜風に溶ける。いつからこの生活に刺激を感じなくなったのだろう。ただ血を吸うだけでは、もはや充足感が得られなくなっていた。
ふと、思いついた。
「狩りにゲーム性を持たせてはどうだろう」
鬼ごっこ。逃げ惑う人間を追いかける。恐怖に歪む表情を楽しむ。血を啜る前の前菜として。
私は街へ降り立った。夜の銀座は外国人観光客で溢れている。そこで私は彼女を見つけた。長身で金髪の女性。美しい。
「お嬢さん」
私は優雅に会釈しながら近づいた。
「私と鬼ごっこはどうかな?」
「え?」
彼女は困惑した表情を浮かべた。青い瞳が月明かりに反射する。
「良ければ、血を吸って我々と同じヴァンパイアにでも…」
その時だった。
「あんた何よ!」
鋭い声が夜の静寂を切り裂いた。振り向くと、数名の女性たちが怒り心頭といった様子でこちらに向かってきていた。アジア人、黒人、アラブ人、様々な人種のグループだ。
「白人ばっかりヴァンパイアにして、これは差別よ!」
リーダー格らしき小柄なアジア人女性が声を荒げる。彼女の後ろには、怒りに震える仲間たちの姿。
私は一瞬言葉を失った。何世紀もの人生で、こんな抗議を受けたことはない。
「別にそういうわけではない」と言いかけたが、彼女たちは聞く耳を持たなかった。
「いつも白人だけ選んで、他は無視するんでしょ!」
「吸血格差はもう許さない!」
「#VampireEqualityNow!(ヴァンパイアの平等を今!)」
彼らは次々と声を上げた。私の頭の中では全く別の考えが渦巻いていた。
(容姿的に優れていないと永遠に生きるのが辛いぞ。あと、そういうガツガツした性格をした吸血鬼がいると吸血鬼のイメージが悪くなる。品性も重要な選考基準だ)
だが、そんなことを言えば火に油を注ぐだけだ。彼女たちの怒りは収まる気配がない。
「今夜こそ私たちの中から一人選びなさいよ!ポリシーの見直しを要求します!」
抗議の声がさらに大きくなり、周囲の人々も振り向き始めた。こうなっては厄介だ。私は話をうまく逸らす必要があった。
「皆さん、落ち着いて」と私は穏やかに言った。
「あなた方の意見は尊重します。実は私どもヴァンパイアコミュニティでもダイバーシティについて議論が…」
彼女たちの注目が一瞬緩んだ隙に、私は影に溶け込むように姿を消した。
翌日、私はヴァンパイア評議会の緊急会議に出席していた。議題は「多様性と包括性に関する新方針」。
「時代は変わった」と年長の吸血鬼が嘆息した。
「SNSで#VampireTooBrightというハッシュタグが拡散されているらしい」
「対応策を講じなければ、次はキャンセルカルチャーの標的になる」と別の一人が言った。
私は窓の外を見つめながら考えた。永遠の命を得た者の悩みは、時代とともに変化するものなのだ。かつては十字架や日光が恐ろしかったが、今や恐れるべきはソーシャルメディアの炎上か。
「ポリコレに配慮したヴァンパイア多様化プログラムを始めましょう」と評議会長が提案した。
「地域ごとに人種・民族比率を考慮した選定基準を設けます」
私は思わず笑みを漏らした。何百年も生きてきて、これほど滑稽な瞬間があっただろうか。永遠の命の選別に、ポリティカル・コレクトネスを持ち込むとは。
その夜、私は新しい方針に従い、「多様性を考慮した」狩りに出た。鬼ごっこの提案は諦め、従来通り静かに血を啜るだけにした。
だが、時代は確かに変わったのだ。吸血鬼だって、社会の変化に適応しなければならない。
永遠の命を持つ者の、新たな悩みの始まりだった。
プロンプト
「『ダイバーシティ・ヴァンパイア』~ポリコレ的配慮~。場所は東京。私は吸血鬼。夜の帝王。今日も人間の生き血を吸う。しかし、最近マンネリ化してきた。私はふと鬼ごっこを提案することを思いつく、逃げ惑う人間を狩る。血を吸うだけではなく恐怖の顔を楽しめる。私は長身の女を見つけて声をかける。「お嬢さん、私と鬼ごっこはどうかな?」。「え?」。女は白人でなかなか美形だ。「良ければ、血を吸って我々と同じヴァンパイアにでも…」。そのとき、「あんた何よ!」。お世辞にも綺麗とも言えないアジア人や黒人などが数名がオラつきながらきた。「白人ばっかりヴァンパイアにして、これは差別よ!」。いきり立っていた。(別にそういうわけではない。これは好みの問題だ。綺麗なら人種関係なくヴァンパイアにしている)。私が何か言おうとしたが聞く気を持たない。(容姿的に優れていないと永遠に生きるのが辛いぞ。あと吸血鬼のイメージが悪くなる。品性も重要な選考基準だ)。メタクソにヴァンパイアに詰め寄る彼女たち。私は彼女たちの気をうまいこと逸らした瞬間逃げた。このプロットを元にシリアスブラックコメディ短編小説を書きましょう。」