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『ボディビルダー系ドラキュラの対処法』

 ボディビルダーさんに敬語を使いたくなる気持ちわかるだろうか。

 東京の夜は、いつもより少し暗く感じた。帰宅途中の細い路地で、私の携帯が突然バイブレーションを始めた。液晶画面を見た瞬間、背後から声が聞こえた。


「やあ、私って綺麗?」


 振り向くと、サイドチェストをしながら犬歯を見せつける小麦色の吸血鬼がいた。月明かりの中、完璧に鍛え上げられた筋肉が浮き彫りになっている。


(コイツ...ボディビルダー!しかも吸血鬼!)


「ちょ、ちょっと待って」私は思わず後ずさった。


「吸血鬼なのに、その体は...」


 彼は満足げに微笑んだ。


「800年生きていると、趣味も変わるものさ。最近はジムが楽しくてね」


「一緒にトレーニングでもしないか」


 そう言いながら、サイドチェストからのサイドトライセップスへとシームレスに移行した。見事な上腕三頭筋だ。月光の下でその筋肉が蠢くさまは、恐怖と感嘆が入り混じる奇妙な光景だった。


「あの、ありがとうございます。でも...」


 私は必死に頭を働かせた。吸血鬼の弱点といえば日光、十字架、ニンニク...でも今持っているのは何もない。


 ふと、アイデアが浮かんだ。


「鬼ごっこはどうですか?」


 私は提案した。


「運動能力を試すにはピッタリじゃないですか」


(たぶん、持久力勝負なら勝てる。筋肉質な分、長距離は不得意なはず...)


 彼は眉を上げた。


「鬼ごっこ?」


「そうです。あなたが鬼で、私が逃げる。朝までつかまらなければ私の勝ち。捕まえたらあなたの勝ちで...」


 ここで言葉を詰まらせた。


「血を吸わせてもらう」


 彼は笑顔で言った。その笑顔から覗く犬歯が月明かりに反射して光る。


「いいだろう」


 吸血鬼はバックダブルバイセップスをしながら数を数え始めた。


「10...9...8...」


 私は全力で走り出した。東京の夜の街に、必死の形相で走る人間と、ゆっくりと追いかけるボディビルダー系吸血鬼という奇妙な追跡劇が始まった。


 ---


 深夜2時。もう4時間近く逃げ続けている。


 最初は順調だった。人混みの中に紛れ込み、電車を乗り継ぎ、複雑なルートで逃げ回った。しかし、彼は常に私の数百メートル後ろにいた。疲れを知らないその足取りは、まるで機械のようだ。


「おいおい、もう少し頑張れよ」


 背後から声が聞こえる。


「まだウォーミングアップの段階なんだがな」


 振り返ると、フロントラットスプレッドのポーズを決めながら歩いてくる。広大な背中の筋肉が月明かりに照らされ、まるで生き物のように蠢いている。


(くそっ...このままじゃ朝まで持たない)


 私は吸血鬼の弱点について考えを巡らせた。日光、十字架、ニンニク、流れ水を渡れない...どれも今は役に立たない。


 そして閃いた。


「すいません、ボディビル大会に出たことありますか?」


 私は立ち止まって尋ねた。


 彼は不思議そうな顔をした。


「いや、それは無理だろう。昼間の競技だし...」


「でも夜の部だってあるじゃないですか。それに、あなたの体は本当に素晴らしい。審査員も絶対唸りますよ」


 彼の表情が変わった。


「...本当にそう思うか?」


「もちろん!特にそのバックポーズは完璧です。ぜひ見せてください」


 吸血鬼は少し恥ずかしそうにしながらも、バックダブルバイセップスのポーズを決めた。完璧な背中の造形に、思わず感嘆の声が漏れる。


「でもな...」


 彼は言葉を濁した。


「実は審査員の前に立つのが怖いんだ。800年生きていても、人前でポーズを取るのは別の話で...」


(チャンス!)


「実は来週、アマチュアの夜間ボディビル大会があるんです。よかったら一緒に行きませんか?私、アドバイスしますよ」


 彼の目が輝いた。


「...本当か?」


「もちろん。今夜は練習として、あなたの得意なポーズを全部見せてください」


 吸血鬼は恥ずかしそうにしながらも、次々とポーズを決め始めた。マストマスキュラー、サイドチェスト、フロントダブルバイセップス...


 夜が明けるまで、彼のポージングを「指導」することで時間を稼いだ。そして東の空が白み始めた時、彼はフロントダブルバイセップスをきめながら振り返った。


「おい、そろそろ朝じゃないか...」


 彼の顔に恐怖の色が浮かぶ。


「くそっ、まんまとハメられたな...」


 日の光が彼を照らす前に、彼は地下鉄の入り口へと消えていった。最後に見せてくれたのは、完璧なアブドミナルポーズだった。


 ---


 それから一週間後、私は約束通り夜間アマチュアボディビル大会を見に行った。


 観客席から見ると、ステージ上で小麦色の肌をした男が輝いていた。バックステージから電話があり、「応援ありがとう。でも次は本気で血を吸うからな」というメッセージが残されていた。


 彼はその日、見事優勝した。ボディビルダー系ドラキュラの真の弱点は、案外シンプルだった。それは「承認欲求」。800年生きていても、誰かに認められたいという気持ちは変わらないらしい。

プロンプト

「『ボディビルダー系ドラキュラの対処法』。場所は東京。「やあ、私って綺麗?」。振り向くと、サイドチェストをしなが犬歯を見せつける小麦色肌の吸血鬼がいた。(コイツ…ボディビルダー!しかも吸血鬼!その肌は焼いた色ではないたぶん生まれつきだろう)。「一緒にトレーニングでもしないか」。サイドチェストからのサイドトライセップス。見事な上腕三頭筋だ。私は吸血鬼に対して鬼ごっこを提案する。(たぶん、持久力勝負なら勝てる)。「いいだろう」。吸血鬼はバックダブルバイセップスをしながら数を数え始めた。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あそこしかない。そうボディビル大会だ。数秒後、吸血鬼はフロントダブルバイセップスをきめながら振り返る。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」

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