『時間旅行の先にはいつもヴァンパイア』
月光が江戸の町に青白い光を投げかける夜。私は発明したタイムマシンで江戸時代の東京を探索していた。科学者として、過去の文化や時代を直接観察することができる喜びは何物にも代えがたい。
「おや?久しぶりだね」
突然背後から聞こえてきた声に振り返ると、そこには見覚えのある顔があった。西洋風の装いをした男性。しかし彼の肌は不自然なほど青白く、歯の先端はわずかに尖っていた。
吸血鬼だ。
「どうして...ここに?」私は動揺を隠せなかった。
彼は口元を緩め、「僕も時々は江戸の雰囲気を楽しみたいものさ。食事もね」と言った。
私が後ずさりすると、彼は楽しそうに笑った。
「また、私と鬼ごっこでもしましょうか?」
「冗談じゃない」私は呟いた。この状況に何度目だろう。初めて彼と出会ったのは中世ヨーロッパだった。それ以来、どこへ逃げても彼は必ず現れる。
「なぜ私を追いかけるんだ?」
「君は特別だよ。時間を超える人間なんて、そうそういるものじゃない」
彼は肩をすくめた。
「それに、永遠に生きていると退屈なんだ。君との鬼ごっこは良い気晴らしになる」
江戸の夜。狭い路地と木造の家々。逃げ場はいくらでもあるが、彼の超人的な能力を考えれば、朝まで逃げ切るのは難しいだろう。
頭の中で選択肢を素早く検討する。吸血鬼の弱点—日光、ニンニク、十字架...だが今手元にあるのはタイムマシンだけだ。
「わかった、鬼ごっこをしよう」
私は同意した。
「でも今回のルールは少し変えるよ」
彼が興味深そうに眉を上げる。
「君が鬼だ。10秒数えて」
彼は笑い、目を閉じ、数え始めた。
「一つ、二つ...」
私は急いでタイムマシンのボタンを押した。どこでもいい、彼から遠ければ。
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1977年、ニューヨーク。ディスコミュージックの轟音がストロボライトの下で踊る人々を照らしていた。タイムマシンから降り立った私は、すぐに時代に合わせた服装に着替え、クラブへ向かった。群衆に紛れれば、しばらくは安全だろう。
クラブ内部は熱気と興奮に満ちていた。ダンスフロアは色とりどりの服を着た人々で埋め尽くされ、天井からはミラーボールが光を散らしていた。
バーカウンターで一息ついていると、隣から声がかかった。
「数十年ぶりかな、兄弟」
振り向くと、アフロヘアーに派手なディスコスーツを着た男がいた。その顔を見た瞬間、私の血の気が引いた。
「どうして...」言葉が続かない。
「永遠に生きているんだ。数十年なんて、まばたきする程度の時間さ」彼は悪戯っぽく笑った。
「なんとも奇妙な関係だな」彼は続けた。
「僕らは時間を超えた鬼ごっこをしているようなものだ」
私は溜め息をついた。
「いったい何が目的なんだ?結局は私を殺すのか?」
「殺す?」
彼は驚いたように目を見開いた。
「それじゃあゲームが終わってしまう」
バーテンダーがやってきて、彼はカクテルを注文した。赤い液体—血ではなく、ただのコスモポリタンだった。
「君と出会ってから、僕の永遠の時間に面白みが生まれたんだよ」
彼は続けた。
「どの時代に行っても、君に出会うのが楽しみになってる」
私は彼をじっと見つめた。
「じゃあ、私はずっと逃げ続けるしかないのか?」
「逃げなくたっていいんだよ」
彼はグラスを傾けながら言った。
「もう少し...付き合ってみる気はない?」
「付き合う?」
「そう、時間を超えた友情というか...」
彼は言葉を選びながら提案した。
「僕は時間を超えて生きる孤独な存在。君はその時間の中を自由に動ける稀有な人間。意外と話が合うかもしれないじゃないか。君だって友人は少ないより多いほうがいいだろ?…君が言った…おっと…まあいいや」
ディスコの音楽が盛り上がり、人々の歓声が上がる。
「君が次にどこへ行くか当てっこするのも楽しいし」彼は続けた。
「それとも、一緒に時代を巡る旅はどうだろう?僕は様々な時代の秘密を知っているんだ」
この提案は狂気の沙汰だと思った。しかし、彼が本当に私を害するつもりなら、とっくにそうしているはずだ。
「一つ条件がある」私は言った。
「私の血は絶対に吸わないこと」
彼は笑い、手を差し出した。
「取引成立。今夜のところは、このディスコを楽しもうか。1977年のニューヨークでしか体験できないことがたくさんあるんだ」
私は躊躇いながらも、彼の手を握った。冷たかったが、予想より温かみがあった。
「次はどこへ行く?」
彼は嬉しそうに尋ねた。
「まだ決めていない」
私は正直に答えた。
「それがいい」
彼は微笑んだ。
「予測不可能なところが君の魅力だ」
そしてディスコの光の中で、時間を超えた奇妙な友情が始まった。彼は永遠の命を持つ吸血鬼で、私は時間を自由に行き来できる科学者。
逃げる者と追う者。あるいは時間の中で偶然にも繋がってしまった、二人の孤独な旅人。
どちらにせよ、時間旅行の先にはいつも彼がいるのだろう。それが私の宿命なのかもしれない。
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タイムマシンを起動させながら、私は彼に言った。
「次はどこへ行くかわからないよ」
彼はただ微笑み、「どこであれ、いつか必ず会えるさ」と答えた。
そして私たちは、それぞれの時間へと消えていった。
プロンプト
「『時間旅行の先にはいつもヴァンパイア』。場所は江戸の東京。私はタイムトラベラー。発明したタイムマシンで時間旅行を楽しんでいた。「おや?久しぶりだね」。夜中に吸血鬼と遭遇した私。「また、私と鬼ごっこでもしましょうか」。やけにフレンドリーな吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あそこしかない。そうタイムマシンだ。私はタイムマシンで別な時間と場所に逃げる。逃げた先はディスコミュージック全盛期のアメリカ。「数十年ぶりかな、兄弟」。アフロヘア―だが、あの吸血鬼だ。「なんとも奇妙な関係だな」。吸血鬼は呟く。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」