『裏アカがバレた吸血鬼の末路』
◇
東京の夜は、いつだって私の狩場だ。
五反田の雑居ビルの一室、ホストクラブ「ETERNAL」のバックヤードで、私は店長から今日の給料を受け取った。
「雅也、今日も良かったぞ。あのお客さん、完全に骨抜きにされてたな」
「ありがとうございます」
札束を数えながら微笑む。人間の金は大して価値がないが、生きていくには必要だ。それに、私の本当の食事は別にある。
私の名前は神崎雅也。ホストとして働き始めて5年目。実際の年齢は...まあ、数えるのをやめたのは江戸時代だから、少なくとも300歳以上ということになる。
時計は午前3時を指していた。これからが本当の夜だ。
◇
帰り道、いつものように獲物を物色する。
都会の夜は便利だ。酔っ払った人間が多いし、行方不明になっても大して調査されない。それに私が吸血鬼だということなど、誰も信じない時代だ。
ターゲットは決まっていた。週に一度の「食事」の日。渋谷のクラブで見つけた若い女性は、一人でタクシー待ちをしていた。簡単な獲物だ。
「タクシー、なかなか来ないね」と話しかける。
「ほんとですよね~」
会話はスムーズに進み、彼女は私の甘い言葉に酔いしれ、気づけば人気のない公園へと足を運んでいた。
首筋に唇を寄せる時、私の胸のポケットがバイブレーションで震えた。スマホの通知音だ。
「ちょっと待って」
スマホを確認すると、私の匿名アカウント「V_BLOOD_TOKYO」へのコメント通知。最近始めたSNSでの吸血鬼日記が人気を集めていた。
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@night_walker99: マジでウケるwww リアル吸血鬼設定頑張ってて好き!
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つい笑みがこぼれる。現代の人間は面白い。真実を語っても「創作」として楽しむのだから。
「何笑ってるの?」女性が首を傾げた。
「ごめん、ちょっとね」
私はスマホをしまい、改めて彼女の首元に顔を近づけた。
◇
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本日の獲物:渋谷の酔っ払い女子。血液型O型。
少しアルコール臭いが、素晴らしい味わい。
300年生きてきて思うが、現代人の血は添加物が多くて正直好みではない。
江戸時代の人間の方が美味だった。#吸血鬼の本音 #夜の狩り #創作
```
投稿ボタンを押し、スマホを枕元に置く。朝日が昇る前に自宅マンションに戻ってきた。
私の部屋は完全遮光カーテンで覆われ、日光が一切入らないように工夫されている。壁には江戸時代から集めてきた浮世絵のコレクション。現代風にアレンジされた棺桶型のベッドがある。
SNSの通知が鳴り続ける。フォロワーは3万人を超えた。「リアル吸血鬼設定」がウケているらしい。真実を語っても信じられない現代は、吸血鬼にとって生きやすい時代だ。
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@horror_maniac: これ小説出版して欲しいレベル!毎日のルーティン詳しく知りたい!
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そんな依頼に答え、私は日常をつづっていく。昼間のニンニク料理店を避ける方法、銀のアクセサリーへの「アレルギー対策」、水への恐怖を隠す方法など。
すべて本当のことだが、「上手い設定」として人気を集めていった。
◇
「神崎さん、今日はお客様からのボトルが入ってますよ」
ホストクラブの後輩が教えてくれた。テーブルを見ると、なぜかニンニクの効いたアヒージョが置かれている。
「これ、誰からだ?」
「あの奥のお客様からです」
指さされた先には見覚えのない女性。しかし彼女の視線には何か...知っているような色があった。
接客を終え、彼女が帰る時に声をかけてきた。
「神崎さん...いえ、V_BLOOD_TOKYOさんですよね?」
血の気が引いた。いや、もともと血の気などないのだが。
「何のことですか?」
「隠さなくていいですよ。私、あなたのフォロワーの一人です。書き方や話し方のクセが似てて。それに、あなたが書いていた『今日のターゲット』の特徴...私の友達そのものでした」
彼女はスマホを見せてきた。そこには私のSNSと、友人が行方不明になったという投稿が並んでいた。日付も場所も一致している。
「面白い偶然ですね」と取り繕ったが、彼女の目は真剣だった。
「私、信じてます。あなたが本物の吸血鬼だってこと」
◇
「追っかけですか?」
自宅マンションのリビングで、女性——水無月玲奈と名乗った彼女に尋ねる。危険を承知で家に招いた。処理する必要があるかもしれない。
「追っかけじゃないです。ファンです」
彼女は熱心に語った。吸血鬼小説や映画を愛する"吸血鬼オタク"だという。私のSNSを見つけてから、真実を確信したと言う。
「でも不思議ですよね。普通、友達が行方不明になったら警察に行きますよね?」
彼女は笑った。
「友達なんていませんよ。あれはおとり投稿です。あなたが反応するか試したかっただけ」
なるほど。私が吸血鬼だと証明するための罠だったのか。
「それで?私が吸血鬼だったらどうするつもりですか?」
「一緒に活動したいです」
「活動?」
「吸血鬼の証拠を世界に広めるんです!」
彼女の目が輝いていた。すぐに処理すべき相手だと判断した。
◇
しかし、処理する前に彼女は交渉材料を持っていることを明かした。
「あなたのSNSアカウントと実名をつなぐ証拠、すでにネットにアップロードしてあります。私に何かあれば、自動的に公開される仕組みです」
「そんなことしても、誰も信じないだろう」
「そうですか?」
彼女はスマホを取り出し、動画を再生した。私が先日の獲物の血を吸っている様子が映っていた。盗撮だ。
「いつから...」
「一ヶ月前からあなたを追ってます。この動画、どうでしょう?フィクションには見えませんよね」
私は彼女を始末するべきか、交渉すべきか迷った。しかし現代社会では、証拠が残ることを恐れなければならない。
「何が望みだ?」
「協力してください。世界初の本物の吸血鬼ドキュメンタリーを作りたいんです」
◇
結局、私は彼女と契約を結ぶことにした。
彼女の要求は単純だった。実際の吸血行為を記録し、本物の吸血鬼の証拠として残す。その代わり、私の身元は守る。
「でも、誰も信じないでしょう」と私。
「それでいいんです。最初は噂として広まり、やがて真実として受け入れられる。私は待てます」
彼女の狂気じみた執着に、少し親近感を覚えた。数百年生きてきた私にとって、「待つ」という概念は理解できる。
その夜から、私たちの奇妙な協力関係が始まった。
玲奈は私の狩りに同行し、遠くから撮影する。獲物は死なせず、記憶を操作して解放するという私の方法も記録された。
同時に、SNSでの活動も続けた。今度は少し本気度を増して。
```
現代の吸血鬼の悩み:冷蔵庫に血液パックと牛乳を一緒に入れると間違えて牛乳を飲んでしまうことがある。#吸血鬼あるある
```
◇
三ヶ月が経過した頃、予想外の事態が起きた。
私のSNSアカウントが突然バズったのだ。オールドメディア(テレビ)の深夜バラエティ番組で「リアルすぎる吸血鬼アカウント」として取り上げられたらしい。
フォロワーは一晩で30万を超えた。
「素晴らしいです!」
玲奈は喜んだが、私は不安だった。注目されることは吸血鬼にとって最大のリスクだ。
そして案の定、次の週末、ホストクラブの常連客が私のスマホを覗き見てしまった。
「神崎さん...このアカウント、あなたのですよね?」
取り繕おうとしたが、彼女は私の画面に表示されていたSNSの管理画面を見てしまったのだ。
その日から、ホストクラブでの風向きが変わった。
「神崎って、吸血鬼のコスプレが趣味なんだって?」
「クラブに来る前に墓場で寝てるらしいぜ」
「彼女に血を吸わせてくれるってよ」
噂は瞬く間に広がった。最初は冗談として。しかし次第に...
◇
ある日、店長に呼び出された。
「雅也、お前のSNSの件だが...」
「あれは創作ですよ」と言い訳したが、店長は首を振った。
「問題はそこじゃない。お客さんが怖がってるんだ。特に、あの行方不明事件との関連を疑う声もある」
玲奈が仕掛けた偽の行方不明投稿が、実際の未解決事件と偶然重なってしまったのだ。
その夜、私はクビを言い渡された。
SNSのDMには脅迫めいたメッセージが届くようになった。
```
@truth_hunter: お前が渋谷で女を襲ってるのを見た。警察に言うぞ。
```
玲奈との契約はすでに私の制御を超えていた。
「これは予想以上の反応ですね!最高じゃないですか!」
彼女の目は狂気に満ちていた。彼女にとってはすべてエンターテイメントだが、私にとっては生存の危機だ。
◇
一週間後、私の自宅に警察が訪れた。
「神崎雅也さんですか?いくつか質問があります」
取り調べは一般的なものだった。SNSの投稿内容、私のアリバイ、夜の行動パターンについて。
彼らは本気で私を吸血鬼だとは思っていないが、未解決事件との関連を調べているのは明らかだった。
玲奈に連絡すると、彼女はすでに次の計画を立てていた。
「最高の展開ですよ!警察の取り調べまで...リアルさが増しますね!」
「冗談じゃない。私の存在が脅かされている」
「大丈夫です。次のステップに移りましょう。記者会見です」
「何?」
「あなたが本物の吸血鬼だと公表するんですよ」
これ以上は危険だ。
◇
その夜、決断した。
玲奈を始末するべきだ。しかし彼女の言う「自動公開システム」が気になる。確かめる必要がある。
彼女のアパートを訪れると、玲奈は興奮した様子で迎えてくれた。
「ついに来ましたね!計画の詳細を話しましょう」
彼女の部屋は、壁一面に私の写真と情報が貼られていた。完全なストーカー部屋だ。
「これは...」
「3年前からあなたを追ってました。吸血鬼伝説を調査していたら、パターンを発見したんです。夜だけ活動し、日光を避け、特定の食べ物を拒否する人...」
彼女は私の300年の痕跡を追ってきたらしい。古い写真、似た特徴を持つ人物の記録...
「本当に吸血鬼だと証明できたら、私の研究は報われます」
◇
「自動公開システムというのは?」
「ああ、あれは嘘です」彼女は笑った。
「でも効果的でしょう?」
その瞬間、私の中の何かが切れた。
「300年以上生きてきて、人間の愚かさには慣れたつもりだったが...」
彼女の首に手をかけようとした時、ドアが勢いよく開いた。
「動くな!警察だ!」
部屋に警官が複数なだれ込んできた。玲奈の背後には、別の警官がスマホを構えていた。
「神崎雅也、あなたを殺人未遂で逮捕する」
「私を罠にはめたのか...」玲奈を見つめると、彼女は勝ち誇ったように笑っていた。
「違います。私は本当にあなたが吸血鬼だと証明したかっただけ」
手錠をかけられ、外に連行される途中、朝日が昇り始めていた。
「ちょっと待って...」私は恐怖に震えた。
「日陰を...日陰を通してください」
警官たちは笑った。
「吸血鬼ごっこはもう終わりだ」
日光が私の肌に触れた瞬間、激痛が走った。肌が焦げ始める。
「うわっ!こいつ本当に...」
警官たちは慌てて私を日陰に移動させた。玲奈は目を輝かせていた。
「やっぱり!本物だったんだ!」
◇
警察署の取調室。厚いカーテンで日光を遮った特別室で、私は警官たちの視線にさらされていた。
「あなたは...本当に吸血鬼なのか?」
担当刑事は半信半疑だった。しかし、日光による火傷と、採血時に見せた異常な治癒能力は無視できない証拠になっていた。
「そうです」初めて公の場で認めた。
「私は吸血鬼です」
数時間後、玲奈が接見に訪れた。
「素晴らしいですよ!大バズりですよ。すごい勢いで、あなたの動画が拡散されていますよ」
スマホを見せられると、署の外には報道陣が殺到していた。
「おめでとう」私は皮肉を込めて言った。
「望み通り、吸血鬼の存在を証明できたな」
「あなたは歴史を変えました。人類の認識を変える発見です」
彼女は興奮していた。
◇
結局、殺人未遂の容疑は不起訴になった。代わりに、私は「特殊生物」として政府の研究施設に移送された。
鉄格子と特殊ガラスで囲まれた居住空間。医師と科学者たちによる毎日の検査。血液採取、組織サンプル、能力の観察記録。
「神崎さん、今日は記者会見です。準備はいいですか?」
白衣の研究員が声をかけてきた。政府は私の存在を公表することを決めたのだ。
大勢の記者を前に、私は300年の沈黙を破った。
「私は吸血鬼です。1706年、江戸で生まれ、18歳の時に吸血鬼に変えられました」
フラッシュが焚かれ、質問が飛び交う。その中で、一人の記者が本質的な問いを投げかけた。
「今後の生き方に変化はありますか?」
考える。SNSでの自己顕示欲が、300年の慎重な生き方を崩壊させた。
「もう隠れる必要はありません。これが私の...裏アカがバレた末路です」
会場から笑いが起きた。
◇
それから1年が経った。
吸血鬼の存在は世界中で認知され、私は「第一号公認吸血鬼」として名を馳せた。テレビ出演、講演会、自伝の出版...かつて恐れていた「バレる」ことが、今や私のアイデンティティになっていた。
研究施設での生活は続いているが、自由度は高い。血液は病院から合法的に提供されるようになり、もう人を襲う必要はない。
そして玲奈。彼女は「吸血鬼発見者」として有名になった。今では私のマネージャーとして働いている。
「神崎さん、次は韓国でのファンミーティングです。それから新しいSNSアカウントの運用について相談が...」
私は窓から月を見上げた。
「私のSNSの裏アカは、もはや表アカになったな」
「後悔してますか?」彼女が尋ねた。
「300年生きていると、変化というものが恋しくなる。これも人生の新しい章だ」
スマホを取り出し、新しい投稿を始める。
```
本日の予定:ファンミーティング@ソウル
人間と吸血鬼の共存、まだ始まったばかり。
これからの永遠の時間が楽しみだ。
#公認吸血鬼 #新時代
```
投稿ボタンを押し、新たな「夜」が始まった。
プロンプト
「『裏アカがバレた吸血鬼の末路』。場所は東京。私は吸血鬼。今日も人間の生き血を吸う。しかし、決して人間にバレてはいけない。私はどのような場面でも身バレしないように過ごしてきた。日光アレルギーやニンニクアレルギー、銀アレルギー。水恐怖症、集合体恐怖症などおおよそ吸血鬼だとバレそうなものから逃げてきた。吸血鬼だとバレるだけで魔女裁判。そんな時代から生きてきた。昨今、夜の仕事のほうが稼げる。私は上手くカモフラージュしながら生きている。ただ…最近SNSにハマっている。吸血鬼だということを大っぴらにしても噓松ということで、炎上もせずに自己顕示欲を満たせている。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」