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『スキャンダルを隠そうとしたら、吸血鬼に襲われた』

 夜の東京。ネオンの光が雨に濡れた道を彩る中、俺——中井ひとし——はスマホを睨みつけていた。


「マジかよ……」


 画面に表示されたメールは、かの悪名高い芸能ゴシップ誌「センテンススプリング!」からのものだった。明日の朝刊で俺のスキャンダルを報じると。


「クソッ!よくわからん媚売りマルチタレントとアーティストのスキャンダルだけ扱えばいいのに、なんで俺のハーレムナイトを記事にするんだ!」


 事務所の廊下に響き渡る怒声に、近くにいたマネージャーが肩をすくめた。


「中井さん、落ち着いてください。どうせ週刊誌ですよ。来週には忘れられてますって」


「忘れられねぇよ!俺は『天才芸人』だぞ!ゴールデンの冠番組三つも持ってる!このイメージを守らなきゃ、全部終わりだ」


 俺は豪快に金髪を掻き上げながら言い放った。鏡に映る自分の姿——筋肉隆々の体に高級スーツを着こなした姿——を見て、再び自信を取り戻す。


「よし、ここは一発、やるしかないな」


 俺は後輩の芸人たちを集めた。おどおどとした表情で俺の前に立つ五人の若手たち。


「今夜、センテンススプリングの編集部に乗り込む。誰もが知ってる中井組の力を見せつけるぜ」


「え、マジっすか?」一人が恐る恐る口を開いた。


「当たり前だ!このスキャンダルを潰さなきゃ俺の芸能生命が終わる。お前らにとっても、俺が干されたら飯の種がなくなるってことだぞ」


「で、でも……暴力はマズくないですか?」


「バカ野郎!誰が暴力なんて言った?俺たちは『説得』するんだよ。芸人の魂をかけて」


 ──


 夜の11時。六本木の片隅にある「センテンススプリング!」の編集部に向かう途中だった。六人で歩く俺たちに、誰も声をかけてこない。当然だ。俺は天才芸人で、この国のエンターテイメント界の帝王だ。


「中井先輩、あの記事、実際どんな内容なんですか?」


 後輩の一人が小声で訊いてきた。


「あー、まぁ……ちょっとした女遊びの話だよ。別に不倫じゃねぇし」


「女性何人くらいですか?」


「数えてねぇよ!十人……いや、二十人くらいか?」


 後輩たちの顔が青ざめるのが見えた。


 そのとき——


「芸のない芸人さんたちとそれをこき使う芸人さん、私と鬼ごっこでも?」


 闇の中から現れた男は、月明かりに照らされて異様なほど白い肌をしていた。黒いスーツを着こなし、赤いネクタイが血の滴りのように見える。


「誰だてめぇ?」


 俺は声を荒げた。


 男は優雅に一礼した。その動きがどこか不自然だった。人間離れしている。


「私はただの通りすがりの者。ですが、あなたたちの会話を聞いていて……興味を覚えました」


 男の口元が微かに持ち上がり、笑みが浮かんだ瞬間、俺は見てしまった。


 尖った犬歯。


「お、おい……」


俺は後退りながら後輩たちに囁いた。


「こいつ……マジモンの吸血鬼じゃねぇか?」


 男はくすりと笑った。


「さすが天才芸人、目が早い。ええ、その通りです」


 次の瞬間、世界がぐるりと回転した。男はもう目の前にいなかった。代わりに——


「うわぁぁぁ!」


 後輩の一人が悲鳴を上げる。男は一瞬で彼の背後に回り込み、首筋に口を寄せていた。


「逃げろ!」


俺は残りの後輩たちに叫んだ。


 全員が散り散りに逃げ出す。俺も全力で駆け出した。


 ──


 狭い路地に身を隠しながら、俺は息を整える。


「吸血鬼の弱点は……日光だ」


 朝まで逃げ切れば勝てる。だが、東京の夜はまだ始まったばかり。日の出まであと七時間。


「他の弱点は……十字架?ニンニク?銀の弾丸?」


 俺は頭を振った。


「バカバカ!あんなの映画の話だ。現実の吸血鬼がそんなんで倒せるわけねぇだろ」


 考えろ、中井ひとし。お前は天才なんだろ?


 すると、不意に脳裏に浮かんだ。


「そうだ……人柱だ」


 吸血鬼の本当の弱点——それは飽食。一人の人間の血を吸い尽くせば、その吸血鬼は満足して一時的に攻撃性を失う。


 俺はポケットから携帯を取り出し、残りの後輩たちにメッセージを送った。


「お前らあとは頼んだ!」


 送信ボタンを押した瞬間、背後から声が聞こえた。


「人を生贄にするとは、さすが天才芸人。冷徹ですね」


 振り向くと、そこには例の男が立っていた。月明かりに照らされた顔は、もはや人間のものではなかった。


「俺を食って、満足するか?」


俺は震える声で言った。


 男は首を傾げた。


「あなたの血は……欲しくない」


「は?」


「後輩さんたちはいただきました。若い血は美味しい」


男は口元を拭った。


「それに、あなたのスキャンダルは面白すぎて、すぐには終わらせたくないのです」


「なんだと?」


「実は私、『センテンススプリング!』の経営者なんですよ」


 俺の顎が落ちた。


「このスキャンダル、実はもっと大きな仕掛けの一部なんです。明日の朝刊はほんの始まり。連載企画『中井ひとしの秘密のハーレム全記録』、全12回の予定です」


 俺の足から力が抜けた。


「ど、どうすれば記事を取り下げてくれる?」


 男は微笑んだ。


「簡単です。私の雑誌の専属タレントになってください。週一回、私に血を提供する条件で」


 ──


 翌朝、俺は事務所に呼び出された。社長の前に座らされた俺の前には、朝刊が広げられていた。


「中井、説明してくれ」


 見出しには「天才芸人・中井ひとし、新番組MC就任!」


 俺は疲れた表情で答えた。


「いやぁ……スキャンダルを隠そうとしたら、いろいろあってさ」


 大げさな身振りで社長を笑わせようとしたが、首筋の二つの穴が痛んで顔をしかめるしかなかった。

プロンプト

「『スキャンダルを隠そうとしたら、吸血鬼に襲われた』。俺の名前はナカイひとし。ムキムキの金髪天才芸人。オールドメディアの大スター。しかし、スキャンダルを嬉々として扱うマスゴミ「センテンススプリング!」からスキャンダルを発表するという通知を受ける。「クソ!よくわからん媚売りマルチタレントとアーティストのスキャンダルだけ扱えばいいのに、なんで俺のハーレムナイトを記事にするんだ」。俺は後輩の下っ端芸人たちを使って例のマスゴミに殴り込みをかけるが…その途中、謎の色白男に声をかけられる。「芸のない芸人さんたちとそれをこき使う芸人さん、私と鬼ごっこでも?」。そいつは男だった。俺は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あそこしかない。そう人柱だ。「お前らあとは頼んだ!」。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」

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