『声優イベントに参加したらグッズは大切にしろ!』~声優の禁忌…永遠の16歳~
薄暗い秋葉原の喫茶店。光がほとんど差し込まない隅の席で、私は村上ゆりかのトークイベントのパンフレットを眺めていた。
「どうも、村上ゆりかです。16歳です」
彼女の決まり文句だ。ステージ上での第一声は必ずこれ。十年前も、五年前も、そして今日も。いつまでも16歳の村上ゆりか。業界では有名な話だった。
今日のイベントは秋葉原の古いライブハウス。狭い会場に百人ほどのファンが詰めかけ、アングラな雰囲気が漂っていた。
「いやいや、ところでですね」
村上の口癖とともに、会場にぎこちない笑いが広がる。内輪受けのような間と、なんとなく気恥ずかしい雰囲気。でもファンはそれを愛していた。
業界では既に大御所となった村上ゆりか。彼女が実際何歳なのか、誰も口にしない。それは暗黙の了解、触れてはいけない禁忌だった。
「今日はみんな来てくれてほんまにありがとう!」
関西弁で締めくくる村上を、会場からの大歓声が包み込む。
イベント後の打ち上げ。スタッフと一部の関係者だけが招かれた小さな居酒屋で、酒が進む。
「まったく、あの子はほんまに吸血鬼ちゃうんかな」
向かいに座った関西出身のベテラン声優・田原さんが呟いた。業界歴数十年を超える大御所だ。
「吸血鬼?」
「そうや。あの子、デビューしたん、もう二十年以上前やろ?なのに見た目変わらんやん。俺と同期やん」
田原さんは杯を傾け、小さく笑った。だが笑顔の奥に、何か引っかかるものを感じた。
席を立ってトイレに向かうとき、背後に何かを感じて振り返った。
「お兄さん、鬼ごっこでもしましょうか?」
そこに立っていたのは、青白い顔の痩せた男だった。スーツを着ているが、どこか時代錯誤な雰囲気を漂わせている。
「誰だ、お前は」
男は笑うだけで答えない。その口元から、微かに尖った犬歯が覗いていた。
「吸血鬼…?」
思わず口にしてしまった。
「ふふ、そう呼ばれることもありますね」
男は優雅に会釈した。パニックになる前に、ポケットから何かが落ちた。村上ゆりかの限定ブロマイド。打ち上げ会場に向かう前に買ったものだ。
男の表情が一変した。
「はあああああああ!姫えええええ!世界一カワイイイイイ!!」
突然の絶叫に、店内が凍りついた。男はブロマイドに向かって深々と頭を下げ、その場にひれ伏した。
「村上様の御尊顔!なんという至福!」
「ああ、こいつか。業界で有名なゆりかの『熱狂的』ファンや。心配せんでも危険はないで」
田原さんがいた。
「でも、さっきの吸血鬼の話は…」
田原さんは肩をすくめた。
「あんなもん冗談や。ただの昔話。村上が不老不死みたいに見えるのは、メイクと若さを保つ努力の賜物よ」
男は依然として床に伏せたまま、ブロマイドに向かって何かを呟き続けている。
「それにしても、あの子はもうすぐ**歳やで」
田原さんが小声で言った。
「えっ?」
「だから、十六歳のキャラ売りを二十年以上続けてるんや。ファンは分かってて付き合うてる。それがこの業界というもんや」
私はもう一度、床に伏せた「吸血鬼」男を見た。ただの熱狂的ファンか。そう思いかけたとき、彼が顔を上げた。一瞬、その瞳が赤く輝いたように見えた。
「姫をお守りするのが、私の永遠の使命ですから」
男は優雅に立ち上がり、ブロマイドを丁寧に私に返した。
「時は流れても、姫は永遠の十六歳。それが彼女の魔法であり、私たちの幸せなのです」
男は微笑むと、店の暗がりに紛れるように立ち去った。
田原さんが苦笑する。
「なあ、今の話は内緒やで?村上の年齢もな」
私は頷いた。声優業界の、また一つの秘密を知った夜だった。窓の外では、満月が赤く輝いていた。
プロンプト
「『声優仲間の秘密』。「どうも村上ゆりか。16歳です」。場所は東京の秋葉原。今日は声優イベント。アングラな雰囲気が漂う。「いやいや、ところでですね」。ぎこちない内輪受けのような間となんとなく気恥ずかしい雰囲気があるイベント。業界では大御所である村上ゆりか。彼女が何歳か定かでない。関西弁でイベントを回す大御所声優も大声で触れることができない業界の禁忌だった。打ち上げ後だった。「ほんまに吸血鬼なんちゃうん」。そういっていると、後ろから気配を感じる。「お兄さん鬼ごっこでもしましょうか?」。振り向くと、男の吸血鬼がいた。オチ、吸血鬼は俺のポケットから落ちた村上ゆりかのグッズを見て、発狂する。「はあああああああ、姫えええ世界一カワイイイイ」。どうやらファンらしい。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」