『マッチングアプリで知り合った色白で長身イケメン趣味は鬼ごっこ!?』
「最近はそんじょそこらのイケメンでは満足できなくなってきたわね」
井ノ川洋子は溜息混じりにスマホの画面をスクロールした。指先に光るダイヤモンドのネイルが青白い光に照らされ、高級マンションの一室に虹色の輝きを投げかける。三十路を超えた彼女は、実家の不動産収入と自身の投資で悠々自適な生活を送る「小金持ち」だった。
そして、趣味は男漁り。
特に最近はマッチングアプリにハマっていた。東京の夜景を眺めながらシャンパンを片手に、洋子は次の獲物を物色する。
「グランピング、ボルダリング、サウナ、インフルエンサー、起業家...みんな同じようなことばかり」
洋子は退屈そうに画面をスワイプし続けた。彼女が求めているのは刺激だ。今までにない体験。そんな時、一風変わったプロフィールが目に留まった。
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名前:御影 零
年齢:32歳
職業:古美術商
趣味:鬼ごっこ
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「鬼ごっこ?」
洋子は思わず笑みを浮かべた。
「面白いじゃない」
プロフィール写真には、色白で中性的な顔立ちの長身男性が写っていた。黒髪は肩まで伸び、瞳は不思議と深い色をしている。古美術商という職業も相まって、どこか時代錯誤な雰囲気を纏っていた。
洋子は迷わず「いいね」を押した。
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「趣味の鬼ごっこって、冗談ですか?」
待ち合わせた高級バーで、洋子は早速聞いてみた。実物の御影零は写真以上に美しかった。色白の肌は陶器のように滑らかで、指先まで長く美しい。黒いタートルネックに黒のジャケット、その色彩の欠如がかえって彼の存在を際立たせていた。
「冗談ではありませんよ」
零は穏やかな声で答えた。
「人間と追いかけっこをするのは、私の永遠の趣味です」
「人間と、ですか?面白い言い方をしますね」洋子はカクテルを口に運んだ。
零は微笑むだけで、自分の前のワイングラスには口をつけなかった。
「古美術商というお仕事、素敵ですね。どんなものを扱っているんですか?」
「主に時代物です。長い時を経た物には魂が宿ります。人間もそうですが、年を重ねると味わいが出てくる」
そう言って零は洋子をじっと見つめた。その眼差しに、洋子は奇妙な居心地の悪さを感じた。まるで食事を前にした人間のような、飢えたような眼差し。
しかし、その危険な香りがかえって洋子の興味を掻き立てた。
***
会話は意外にも弾んだ。零は古今東西の歴史や芸術に精通しており、まるで実際にその時代を生きてきたかのように詳細に語った。
「今夜は満月ですね」
零はふと窓の外を見た。
「こんな夜は外を歩くのが気持ちいい」
「そうですね。この後、散歩でもしませんか?」
洋子は提案した。
零の唇が微かに上がった。
「ぜひ。実は近くに素敵な日本庭園があるんです。夜間は通常閉まっていますが...私は特別に鍵を持っています」
常識的に考えれば、初対面の男性と夜の閉園に侵入するなど危険極まりない。しかし洋子はスリルを求めていた。彼女は頷いた。
***
庭園は月明かりに照らされ、幽玄な美しさを湛えていた。池の水面に映る満月、静寂に包まれた石灯籠、風に揺れる木々の影。
「素敵」
洋子は感嘆の声を上げた。
「ええ、私もこの景色が好きです」
零は言った。
「特に月が綺麗な夜は」
二人は小道を歩きながら、夜の庭園を堪能した。不意に零が立ち止まった。
「井ノ川さん、ゲームをしませんか?」
「ゲーム?」
「そう、私の趣味の鬼ごっこです」
零の表情が変わった。今まで礼儀正しく穏やかだった彼の顔に、何かが宿った。陶器のような白い肌に月明かりが反射し、瞳が赤く光ったように見えた。
「冗談でしょう?」
洋子は笑いながらも、背筋に冷たいものを感じた。
「真剣です」
零はゆっくりと言葉を紡いだ。
「ルールはシンプルです。あなたが逃げ、私が追いかける。私に捕まらずに庭園の出口まで逃げ切れば、あなたの勝ち。私があなたを捕まえたら...」
零は一瞬言葉を切り、薄く開いた唇から鋭い犬歯が覗いた。
「私の勝ちです。負けたら、あなたの生き血をいただく」
洋子は凍りついた。目の前の男は人間ではない。吸血鬼。しかしそれは映画やドラマの中の存在のはずだった。
「冗談はよしてください」
洋子は震える声で言った。
「帰ります」
零は彼女の腕をつかんだ。その手は冷たかった。
「残念ながら、これは冗談ではありません。井ノ川洋子さん、あなたのような女性は私の好みです。自信に満ち、少し傲慢で、スリルを求める...」
洋子は振り払おうとしたが、零の握力は異常に強かった。
「でも安心してください。私は公平なゲームが好きです。勝てば自由です。ゲームの始まりです。30秒あげましょう。逃げてください」
零は腕を放し、ゆっくりと数え始めた。
「1...2...3...」
洋子は一瞬迷った。警察を呼ぶべきか、それとも...。しかし彼女の中の何かが、このゲームを受け入れさせた。極限の状況での駆け引き。それは彼女が求めていた究極のスリルだった。
「...27...28...29...」
洋子は走り出した。ハイヒールを脱ぎ捨て、素足で庭園の小道を駆けた。
「30!」
後ろから零の声が聞こえた。そして足音。不自然なほど速い足音。
***
洋子は息を殺して大きな石の陰に隠れた。足の裏が石の欠片で切れ、血が滲んでいる。心臓は激しく鼓動を打ち、頭がクラクラした。
「洋子さん、血の匂いがします」
零の声が闇の中から響いた。
「切り傷ですか?大丈夫ですか?」
その優しげな声に恐怖が増した。洋子は動かなかった。
「見つけましたよ」
振り向くと、零が彼女の真後ろに立っていた。洋子は悲鳴を上げ、再び走り出した。
「逃げるのがうまいですね。でも、私は何百年もこのゲームを続けてきました」
何百年?洋子の頭に疑問が浮かんだが、考えている余裕はなかった。彼女は出口を目指して走った。
***
庭園はまるで迷路のように感じられた。どれだけ走っても出口にたどり着けない。洋子の体力は限界に近づいていた。
「疲れましたか?」
零の声が至近距離から聞こえ、洋子は凍りついた。
振り向くと、零が月明かりの下に立っていた。もはや人間のふりをする必要もないのか、彼の姿は変わっていた。瞳は赤く光り、唇からは鋭い牙が覗いていた。
「良いゲームでした」
零は言った。
「でも、もう終わりです」
「まだ...終わってない」
洋子は息を切らしながらも言い返した。
「出口は...あそこ」
彼女は指さした。確かに庭園の出口が見えた。あと数十メートル。
「なるほど」
零は感心したように言った。
「では、最後の勝負です」
二人は同時に走り出した。洋子は生涯で最も速く走った。恐怖と興奮が彼女を突き動かした。出口まであと少し...。
その時、足が何かに引っかかり、洋子は倒れた。振り返ると、零が彼女の足首をつかんでいた。
「残念でした」
零は優しく微笑んだ。
「私の勝ちです」
洋子は諦めず、必死に抵抗した。
「放して!約束は守って!私はまだ出口に着いていない!」
零は不思議そうな顔をした。
「約束?ああ、ゲームのルールですか?」
「そう!あなたは公平なゲームが好きだと言ったでしょう!」
零はしばらく考え込むような表情をした後、笑い出した。
「面白い女性です。そうですね、あなたの言う通りです。私は公平なゲームが好きです」
彼は洋子の足首を放した。
「最後まで諦めない。その精神、気に入りました」
洋子は這うようにして出口へと向かった。そして、ついに門をくぐった。彼女は勝った。振り返ると、零は庭園の中から彼女を見つめていた。
「おめでとう、井ノ川洋子さん。あなたは私から逃げ切った数少ない人間の一人です」
洋子は震える足で立ち上がった。
「これで...終わり?」
零は首を振った。
「いいえ、これは始まりです。またお会いしましょう、洋子さん。次は別のゲームで」
そう言うと、零は闇の中に消えた。
***
翌朝、洋子はベッドで目を覚ました。昨夜の出来事は夢だったのか?しかし足の裏の切り傷は現実だった。
スマホを確認すると、マッチングアプリにメッセージが届いていた。
「素晴らしいゲームをありがとう。次回は私があなたの世界にお邪魔します。お楽しみに。—零」
洋子は恐怖と共に、奇妙な高揚感を覚えた。彼女が求めていたのはこれだ。平凡ではない、究極のスリル。
彼女はメッセージに返信した。
「次は私が鬼をやらせてもらうわ」
プロンプト
「『マッチングアプリで知り合った色白で長身イケメン趣味は鬼ごっこ!?』。場所は東京。私は井ノ川洋子。男漁りが趣味の小金持ち。今日もマッチングアプリでイケメンを探す。「最近はそんじょそこらのイケメンでは満足できなくなってきた」。趣味グランピング?職業インフルエンサー?人脈づくり?そんなありきたりなプロフィールでは満足できない。そのとき…あるプロフィールが目につく。趣味鬼ごっこ。顔は中性的で色白で長身のイケメン。私はこの男と出会うことに決めた。当日は満月の夜。会った男は吸血鬼だった。吸血鬼は私に鬼ごっこを提案する。「負けたらあなたの生き血を」。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」