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『エイプリルフールの吸血鬼』

 

「4月初め、人事異動はほんとにダルイ」


 新しい部署に異動になった初日。想像以上の業務量と、わけのわからない引き継ぎ資料の山。結局、終電間際まで残業することになった。東京の夜の街を、ヘトヘトになって歩く。頭の中は空っぽで、明日もこれが続くのかと思うと絶望感しかなかった。


「お兄さん」


 突然、後ろから声をかけられた。振り向くと、そこには一人の男が立っていた。


 ——というか、吸血鬼だった。


 これでもかというほどのコテコテの吸血鬼。真っ白な顔に血のように赤い唇。黒いマントに身を包み、襟を立てている。まるで教科書から抜け出てきたようなドラキュラ伯爵そのもの。


「お兄さん、鬼ごっこでも?」


 にやりと笑う吸血鬼。鋭い犬歯が月明かりに光った。


(マジかよ...)


 今日はエイプリルフール。4月1日。


(どこのテレビ局だ?ドッキリか?)


 疲れ切った私の脳裏に、元カノから別れ際に返された十字架のネックレスのことが浮かんだ。なぜか今日に限って首にかけていた。うんざりしながら、そのネックレスを外し、吸血鬼に向かって投げつけた。


「ほら、やれやれ。リアクション頼むよ」


 ところが——


「ぐあああああ!目が、目がぁぁぁ!」


 十字架は吸血鬼の額に直撃。彼はバルスを唱えられたムスカ大佐のように地面をのたうち回り始めた。


「ちょ、おい...」


 リアクションが大げさすぎる。演技にしてもやりすぎだ。


「リアリティあり過ぎてしらけるわ」


 私は呆れて言った。しかし吸血鬼は本気で苦しんでいるように見える。


(まさか...本物?)


 いや、そんなわけがない。今日はエイプリルフールだ。自分に言い聞かせ、私は躊躇なく行動に移した。


「ニンニク好き?」


 ポケットからコンビニで買ったニンニク入りのビーフジャーキーを取り出し、吸血鬼の顔に押し付ける。


「ひぎゃああああ!やめろ、痛い、痛いぃぃぃ!」


 吸血鬼の肌から煙が立ち上った。


 次に思い出したのは、吸血鬼は流れる水を越えられないという伝説。


「ほら、これは?」


 近くの自動販売機でミネラルウォーターを購入し、吸血鬼に向かってぶっかけた。


「ぎゃあああっ!溶ける!俺の肌が溶けるぅぅ!」


 吸血鬼はアスファルトの上でのたうち回った。肌は水に触れた部分が赤く腫れ上がっている。


(演技だとしてもここまでやるか?)


 しかし、私の疲れ切った脳はまだエイプリルフールのドッキリだと思い込んでいた。


「もう一丁行くよ」


 スマホを取り出し、カメラのフラッシュを吸血鬼に向けて連写モードで照らしまくる。


「うわあああああ!やめてくれ!死んでしまう!」


 吸血鬼は道路脇の植え込みに逃げ込み、マントで全身を覆った。


「本気で弱点あるんだ」


 状況がだんだん可笑しくなってきた。疲労でハイになっているのか、私は笑いながら吸血鬼の弱点を次々と試していく。


 ポケットの中に銀の指輪があったのを思い出す。元カノからのプレゼントだったが、別れた後も何となく持ち歩いていた。それを取り出し、吸血鬼に押し付ける。


「ぎゃああっ!銀だ!銀は駄目だぁぁぁ!」


 吸血鬼の腕から煙が立ち上った。


(あれ?これマジ?)


 ようやく状況の異常さに気付き始めた私。


「あんた...本物の吸血鬼?」


 吸血鬼は弱々しく呻きながら、


「当たり前だ...エイプリルフールだからって、こんな格好してドッキリしかけるやつがいると思ったのか...」


 そう言って、彼は懸命に立ち上がろうとする。


「…く、人間風情が」


 元々あった疲労感に加え、状況の非現実感でクラクラしてきた。


「もう帰る。疲れた」


 私はぐったりした吸血鬼を残し、アパートへと向かった。


 翌朝。目覚まし時計の音で目を覚ます。


「なんだ、夢か...」


 しかし、ベッドサイドに置いた腕時計を見ると、4月2日を示していた。


 スマホの写真フォルダを確認すると、そこには確かに昨夜撮影した吸血鬼の姿が映っていた。フラッシュを浴びて悶絶する姿が鮮明に記録されている。


「嘘じゃなかったのか...」


 窓の外を見ると、いつもの東京の朝だった。人々は新年度の始まりに向けて忙しなく動き回っている。


 私はため息をつきながら制服に着替え、会社へと向かった。


 玄関を開けると、そこには薄汚れたマントを羽織った男が立っていた。日光を避けるようにマントの影に隠れている。


「お兄さん...昨日はひどい目に遭わされたよ...」


 吸血鬼は哀れっぽく言った。彼の顔には、十字架やニンニク、水、銀の痕跡がくっきりと残っていた。


「あの...本当にごめん」


 私は素直に謝った。


「謝るだけじゃ済まないよ...」


 吸血鬼はマントの中から一枚の紙を取り出し、私に手渡した。


「これは...?」


「治療費の請求書だ。吸血鬼専門の病院は高いんだよ」


 紙には法外な金額が書かれていた。


「冗談でしょ?」


「エイプリルフールは昨日で終わりだ」


 吸血鬼は真顔で言った。


「ああ、もう何もかも嫌だ...」


 新年度初日の朝、私は請求書を握りしめ、またしても絶望の淵に立たされていた。

プロンプト

「『エイプリルフール』。場所は東京。今日はエイプリルフールだった。「4月初め、人事異動はほんとにダルイ」。人事異動で4月1日から残業で萎えていた私。深夜にヘトヘトになって帰る途中だった。「お兄さん」。振り向くと、コテコテの吸血鬼。こんなにあからさまな吸血鬼いるのだろうかというほどの吸血鬼。「お兄さん、鬼ごっこでも?」。ニヤッと笑う吸血鬼。しかし、今日はエイプリルフール。私はうんざりしながら、元カノから貰った十字架のアクセスを投げつける。吸血鬼の額に直撃する。「ぐあああああ、目が目が!」。バルスされたムスカ大佐みたいにうろたえる。「リアリティあり過ぎてしらける」。私は躊躇なく、吸血鬼の弱点を淡々とつきまくる。なにせエイプリルフール。どうせドッキリなんだろう。オチ、過激にバイオレンスに吸血鬼を撃退して、時間を見ると次の日になっていて、嘘じゃなかったと思う私。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」

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