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『ヴァンパイア・モンスター』~レッドオーシャン・ブルーオーシャン~

 

 東京の夜は冷たく、そして甘い。


 私——朧月おぼろづきと呼ばれる吸血鬼は、新宿の雑踏を見下ろすビルの屋上に立っていた。人間たちは蟻のように小さく、そして無防備に見える。血の匂いが風に乗って私の鼻をくすぐる。


「今日も狩りの時間だ」


 私は薄暗い路地裏へと舞い降りた。しかし、目をこらすと、すでに二匹の吸血鬼が獲物を追い詰めていた。彼らもまた東京の夜の住人だ。


「チッ」


 舌打ちが漏れる。最近、こういったことが増えてきた。東京に住む吸血鬼の数が急増しているのだ。


 私は別の場所へと移動する。歌舞伎町の喧噪。酔っぱらった若者たちが騒いでいる。完璧な獲物のはずだった。だが、そこにも別の吸血鬼が潜んでいた。彼は私を見るなり、獲物を守るかのように低く唸った。


「なんだよ、ここは俺の縄張りだぜ」


 私は肩をすくめて立ち去った。これが三度目だ。


 マンションの屋上でため息をつく私。東京の夜景が血のように赤く見える。


「これじゃまるでレッドオーシャンだ。血の海を求めているが、このレッドオーシャンは頂けないな」


 ビジネス書で読んだ言葉を口にしてみる。競争の激しい市場は「レッドオーシャン」。そして新しい価値を生み出す未開拓の市場は「ブルーオーシャン」。


「そうだ...私にも独自のブルーオーシャンが必要なんだ」


 そのとき、閃いた。


 ---


 翌日の夕暮れ時。私は渋谷のクラブの前に立っていた。週末の夜、若者たちで賑わっている。その中に、一人の女性がいた。黒髪が月明かりに照らされて艶やかに輝いている。彼女——宮本麗子は、友人たちとはぐれたようだった。


 彼女に近づき、さりげなく声をかける。


「迷子ですか?」


 麗子は驚いたように私を見上げた。


「あ、はい...友達とはぐれてしまって」


「そうですか。大変ですね。少しお手伝いしましょうか?」


 私は紳士的に微笑んだ。心の中では既に計画が形になっていた。


「実は、ちょっとしたゲームに参加してみませんか? 鬼ごっこです」


「え?」麗子は混乱した表情を浮かべた。


「鬼ごっこ?今?」


「そうです。ちょっとしたスリルを味わいたくないですか?」


 私は神秘的な微笑みを浮かべる。


「もし逃げ切れたら、高級レストランでのディナーをおごります。捕まったら...それは秘密です」


 普通なら怪しいと思うはずだが、私の目を見た瞬間、彼女の瞳は少し曇った。吸血鬼の魅了の力だ。


「...面白そう」


 彼女はついに言った。


「でも、どこで?」


「代々木公園はどうでしょう?この時間なら人も少ない」


 彼女は少し躊躇したが、結局同意した。


 ---


 代々木公園は夜の闇に包まれていた。街灯がぼんやりと道を照らしている。


「ルールは簡単です」


 私は説明した。


「私が鬼です。あなたは10分間逃げ切れば勝ちです。公園の外には出ないでください」


「わかった」麗子は少し興奮した様子で答えた。人間は危険な状況に時に興奮を覚えるものだ。


「それでは...スタート!」


 麗子は公園の奥へと走り出した。私はゆっくりと10まで数える。


「1...2...3...」


 他の吸血鬼たちのことを考える。彼らは獲物の横取りはしないだろう。私たちには不文律がある。狩りを始めた獲物は他の吸血鬼の手出し無用。特に鬼ごっこのようなゲームが始まれば、なおさらだ。誇り高きモンスターたちの美学である。


「...8...9...10」


 さあ、狩りの始まりだ。


 私は鼻を鳴らして彼女の匂いを追う。恐怖と興奮が混ざった甘い香り。木々の間を縫うように進む彼女の足音が聞こえる。


「逃げても無駄だよ、麗子さん」


 私は声を森中に響かせた。彼女の心拍が速くなるのを感じる。恐怖の味は血をより美味にするのだ。


 薄暗い公園内を彼女は必死に走り回る。時折振り返りながら、息を切らして逃げる姿が愛おしい。


 やがて、彼女は公園の奥にある小さな東屋に逃げ込んだ。隠れているつもりだが、心臓の鼓動が私には大音量の太鼓のように響いている。


 ゆっくりと東屋に近づく。


「見つけた」


 彼女は悲鳴を上げ、再び走り出した。しかし疲労が彼女の足を重くしている。あと少しで捕まえられる距離まで迫った時——


「おい、そこの吸血鬼」


 声が闇から響いた。見れば、先日歌舞伎町で会った吸血鬼だ。


「なにをしている?俺の縄張りにまで来やがって」


「鬼ごっこ中だ」


 私は冷たく答えた。


「横から手を出すな」


 彼は鼻で笑った。


「鬼ごっこ?そんな子供じみたことをして何が楽しいんだ?」


 その間にも麗子は逃げていく。苛立ちを感じる私。


「楽しいさ。恐怖に震える獲物の表情を楽しむのも狩りの醍醐味だろう?」


「ふん、面倒くさい。俺はもっと効率的に済ませるタイプなんでね」


 彼は肩をすくめ、立ち去った。


 私は再び麗子を追いかける。彼女の体力は限界に近づいていた。やがて彼女は木の根元につまずき、転んでしまう。


「時間切れだ、麗子さん」


 私はゆっくりと彼女に近づいた。彼女は怯えた目で私を見上げている。その顔には恐怖と、奇妙なことに、興奮が混ざっていた。


「あなた...本当に...」


「そう、私は吸血鬼だ」


 私は彼女の前にかがみ込み、首筋に唇を寄せる。彼女の震える体から恐怖の香りが強くなる。


「怖い?」


「...はい」彼女は正直に答えた。


「でも、少し興奮もしてる?」


 彼女は答えない。だが、その瞳が全てを物語っていた。


「あなたは...私を殺すの?」彼女は震える声で尋ねた。


 私は少し考えてから答えた。


「いいや。今日はちょっとした試食だけにしておこう」


 私は彼女の首筋に軽く歯を立て、少量の血だけを吸った。十分な量ではないが、恐怖で味付けされた彼女の血は格別だった。


「次回も鬼ごっこをしよう、麗子さん」私は彼女の耳元でささやいた。「次は全力で逃げてくれると嬉しい」


 その言葉と共に、私は彼女の記憶を少しだけ操作した。今夜の出来事は夢のような、どこか現実離れした記憶になるだろう。しかし、また会うことができるよう、完全には消さない。


 ---


 それから数週間、私は他の吸血鬼たちが苦戦する東京の夜で、独自の「ブルーオーシャン」を開拓していった。


 鬼ごっこは私の新しい狩りのスタイルとなった。麗子だけでなく、他の獲物たちとも。彼らはスリルを求める若者たち。知らずに死のゲームに参加しているが、それがまた面白い。


「一対一で恐怖を楽しむ。これぞ私だけのブルーオーシャン」


 東京タワーの上から夜景を眺めながら、私はグラスに注いだ赤い液体を啜った。


「乾杯、人間たちよ。素晴らしい遊び相手をありがとう」


 レッドオーシャンの中に、私だけのブルーオーシャンを見つけた夜。東京の夜は、これからも私の狩場であり続ける。

プロンプト

「『ヴァンパイア・モンスター』~レッドオーシャン・ブルーオーシャン~。場所は東京。私は吸血鬼。夜の帝王。今日も人間の生き血を吸う。しかし、最近狩場が荒れてきた。「他の吸血鬼と競い合うのも辛い。まさにレッドオーシャンだ。血の海を求めているが、このレッドオーシャンは頂けないな」。私はふと鬼ごっこを提案することを思いつく、逃げ惑う人間を狩る。「鬼ごっこ最中ならほかの吸血鬼も手は出さないはずだ。誇り高いモンスターは獲物の横取りなどしない」。それに血を吸うだけではなく恐怖の顔を楽しめる。「私だけのブルーオーシャンだ。獲物は君に決めた」。私は獲物を見つけて忍び寄る。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」

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