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『コンテンポラリードラキュラの対処法』

 

 東京の夜は深く、私の足音だけが静かな路地に響いていた。芸術大学の課題を終え、疲れた体を引きずるようにして帰路についていた。都内の芸術大学に通う学生として、深夜の制作は日常茶飯事だったが、今夜はなぜか背筋がゾクゾクした。


「やあ」


 突然の声に振り向くと、そこには一人の男が立っていた。「男」と呼ぶべきか迷うほど、その姿は前衛的だった。


 黒い革のコルセットに、透明なビニール素材のオーバーコート。両肩からは金属パイプが突き出し、首には赤いLEDが埋め込まれたチョーカー。足元はプラットフォームブーツで、少なくとも20センチは身長を稼いでいるはずだ。髪は片側だけ剃り上げられ、残りの部分は蛍光グリーンに染められていた。


 芸術大学で様々な奇抜なファッションを見慣れているはずの私でさえ、言葉を失った。


「あなたの血の匂い、素晴らしいわ」


 男は唇を舐めた。その瞬間、尖った犬歯が月明かりに反射した。


 吸血鬼だ。しかも、たぶんオカマさんだ。


 都内で吸血鬼に出会うなんて、不条理すぎる。しかも、この前衛的すぎるファッションの吸血鬼。近未来のドラキュラが転生したら、きっとこんな姿になるのだろう。


「ちょっとしたゲームをしましょうか」


 彼は指先でエアを切るように動かした。


「鬼ごっこよ。あなたが逃げて、私が追いかける。シンプルでしょう?」


「断るよ」と私は即答した。


「そう?でも、すでに始まっているの」


 彼はニヤリと笑った。その瞬間、私の足は勝手に動き出していた。


 ---


 午前3時。渋谷の雑踏を抜け、原宿の路地に逃げ込んだ。吸血鬼の弱点は日光だ。朝まで逃げ切れば勝てる。そう自分に言い聞かせた。


 しかし、この吸血鬼はとてつもなく粘り強かった。何度振り切ったと思っても、すぐに背後に気配を感じる。しかも、そのモデルばりの歩き方で優雅に追いかけてくるのだ。


「ん...このBGM?」


 気がつくと、どこからともなく音楽が流れてきた。低音が効いたエレクトロミュージック。まるでファッションショーで流れるような曲調だ。


 振り返ると、吸血鬼は片手を腰に当て、もう一方の手を優雅に前に伸ばしていた。キャットウォークさながらのポーズで、ゆっくりと私に近づいてくる。


「何やってるんだ?」


「ショーは演出が命よ」


 彼は髪をかき上げた。


「観客を魅了するには、完璧な演出が必要なの」


「観客?」


 周囲を見回すと、いつの間にか数十人の人影が私たちを取り囲んでいた。全員が前衛的なファッションに身を包み、赤く光る目が闇の中で輝いていた。


 吸血鬼たちだ。しかも全員が、まるでファッションショーの観客のように整列している。


「そろそろフィナーレよ」


 リーダーらしき吸血鬼が指を鳴らすと、全ての吸血鬼が一斉にポージングを始めた。腕を天に掲げるもの、腰を曲げて前かがみになるもの、地面に寝そべるもの。まるで現代アートの展示のようだ。


「ファッションショーか何か?」


 思わず口から漏れた言葉に、彼は優雅に頷いた。


「その通り。『Contemporary Dracula』。現代に蘇ったドラキュラ伯爵のファッションコレクション。あなたはその一部になるのよ」


「いや、冗談じゃない」


 彼が私に迫る。逃げようとした瞬間、足がもつれて転んでしまった。目の前に迫る吸血鬼の姿。もう終わりだと思った時、突然、空が明るくなり始めた。


 夜明けだ。


 吸血鬼たちが一斉に顔を覆う。


「ああ、時間切れね」


 リーダーの吸血鬼は残念そうに肩をすくめた。


「今日のショーはここまで。でも、次回のコレクションであなたをお待ちしているわ」


 そう言うと、吸血鬼たちは闇の中に消えていった。残されたのは、私と、どこからともなく流れ続けるエレクトロミュージックだけ。


 立ち上がり、朝日に照らされた街を見渡した。昨夜の出来事が夢だったのか現実だったのか、もう区別がつかない。


 ポケットに手を入れると、一枚のカードが入っていた。


『Contemporary Dracula - 2025 Spring/Summer Collection』


 そして小さな文字で...


『モデル募集中』


 吸血鬼のファッションショー。現代のドラキュラたち。彼らの世界は、思ったより華やかで、そして奇妙だった。


 私は深く息を吐き出し、カードをポケットに戻した。次のショーまでに、どんな対策を考えるべきか。


 たぶん、首にニンニクのネックレスなんて似合わないだろうな。

プロンプト

「『コンテンポラリードラキュラの対処法』。場所は東京、都内の芸術大学に通う私。「やあ」。振り向くと、超前衛的なファッション男。もはや前衛的すぎて芸術大学生の私も困惑するレベルだ。しかし、よく見ると吸血鬼。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼はモデル張りの歩き方で優雅に追いかけてくる。「ん…このBGM」。気が付くと、よくファッションショーで流れるBGMが流れてくる。気が付くと、吸血鬼が増えている。吸血鬼が迫ってくる。しかし、ターンする。「ファッションショーかな」。謎のポージングをする吸血鬼。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」

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