『フラグ立ちまくりの吸血鬼館から脱出しろ!!!』
雨粒が森の木々を打つ音が静寂を破る中、私たちは濡れた落ち葉を踏みしめながら進んでいた。
「ほんとにここら辺にいい感じの廃墟があるの?」と私は尋ねた。
監督の剛田は、IRON MAIDENのロゴが少し剥げかかったTシャツの上からレインコートを羽織り、自信満々に答える。
「大丈夫。俺は結婚を控えた優秀な新進気鋭の監督だよ。ロケハンに抜かりはないよ」
その自信と裏腹に、私たちはもう一時間以上も森の中をさまよっていた。
後ろを振り返ると、主演の柴田と美咲がくっついて歩いている。ときどき互いを見つめ合い、クスクス笑い合う二人。
「あいつら、付き合ってるの隠してるつもりだけど、もろバレだよな」と私は思わず呟いた。
「クソ、まったくこんな暗い森最悪だぜ。雨も降り始めたしよ」
留年して四年目のAD、村上が靴についた泥を払いながら悪態をついた。彼の不機嫌な表情は雨でさらに強まっていた。
「先輩、あれって…」
新入生の小林が森の奥を指さした。木々の間から見える古めかしい洋館。まるでこの世界に存在してはいけない場所のように、異様な存在感を放っている。
「おー!あれ!いい感じの撮影場所!」
剛田監督が喜びの声を上げた。
私たちは洋館に近づいていった。雨はますます強くなり、どうやら本格的な夕立になりそうだった。
「チャイムあるかな?」美咲が門の前で首をかしげる。
大きな錆びついた鉄の門には、確かにアンティークなチャイムが取り付けられていた。剛田がそれを押すと、予想外にもクリアな音色が響いた。
「すいません。ちょっと雨が止むまででいいので…」
剛田が声を上げる。
驚いたことに、モーターの音とともに門がゆっくりと開いた。
「電気は通っているみたいだな」
柴田が言った。
私たちは中に入った。洋館の前庭は雑草が生い茂っていたが、玄関までの道だけはきれいに整備されていた。玄関の扉も開いていた。まるで私たちを歓迎しているかのように。
「あの…誰かいますか?」
剛田が呼びかける。
返事はない。館内は静まり返っていた。
「不気味だぜ」村上が呟いた。
その瞬間、私の目に飛び込んできたものがあった。館の階段に飾られた巨大な肖像画。厳めしい顔の男性が描かれており、その目は生きているようだった。
「まるでドラキュラみたい」と美咲が小さな声で言った。
「クソ!気持ち悪いぜ。こんな館いられないぜ。俺は先に車に戻る!」
村上が突然叫んだ。
「ちょっと、村上先輩!一人で戻るのはマズいって!」
私が止めようとしたが、彼はすでに走り去っていた。
「まあいいよ。彼のことだから、ちょっと車で寝るんだろ」
剛田は気にした様子もなく言った。
「それにしても、誰も住んでないのかな?」
柴田が周りを見回す。
「でも電気通ってるし、掃除もされてるよね。ホコリが全然ないもの」
美咲が指摘した。
確かに、屋敷は廃墟というには綺麗すぎた。しかも、廊下の奥からはかすかな香りが漂ってくる。
「お茶の香り…?」
私たちは目を見合わせた。剛田が先頭に立ち、香りのする方へと歩いていく。廊下を抜けると、そこには立派なダイニングルームがあった。テーブルの上には温かい紅茶とクッキーが用意されている。
「なんだこれ…」
「歓迎の意味かな?」
剛田が言った。
「冗談でしょ?怖すぎるよ!」
小林が震える声で言った。
「いただきますね〜」と剛田は気にせずクッキーを一つ取って口に入れた。
「うまい!」
一同、呆然とする中、突然、美咲が悲鳴を上げた。
「あの、あれ…!」
振り返ると、肖像画の男そっくりの人物が廊下に立っていた。
「ようこそ、私の館へ」
彼は優雅に一礼した。
「あ、あの、勝手に上がり込んですみません!」剛田が慌てて言う。
「いいえ、私はあなた方を待っていました」男は不気味な笑みを浮かべた。
「待っていた…?」
「ええ、私の新しい『家族』として」
その瞬間、外では稲妻が光り、館内の電気が一瞬消えた。再び灯りがついた時、男の口元からは長い牙が覗いていた。
「おい、これマジのやつじゃね?」
柴田が震える声で言った。
「撮影どころじゃねえぞ!」
私は思わず叫んだ。
「ふふふ…そう慌てないで。まずは紅茶をどうぞ」
男が言う。
「特別なブレンドです」
「特別って…まさか…」美咲が顔色を変えた。
「血液は入っていませんよ、まだ」男は再び微笑んだ。
「それはデザートです」
私たちは凍りついた。そのとき、玄関から大きな音がした。
「おい!みんな無事か!?」
村上の声だった。
「村上先輩!」小林が叫ぶ。
「マジかよ、ちゃんと車戻ったけどタバコ忘れたからさあ…って、あんた誰だよ!」
村上が吸血鬼らしき男を指さす。
「無礼な…」
男が不機嫌そうに村上に近づいた瞬間、村上の手から何かが飛んだ。
「食らえ、ニンニク弾!」
男の顔に生のニンニクが直撃した。
「ぐあああっ!」男は顔を覆って後ずさった。
「なぜニンニクを…!」
「なんでって、車の中でテイクアウトの肉まん食ってたろ。おばちゃんがサービスでつけてたんだよ。ほら、みんな逃げるぞ!」
私たちは我に返り、一目散に館を飛び出した。
「吸血鬼とか本当にいたのかよ!」柴田が叫ぶ。
「それより剛田、お前さっきクッキー食べただろ!大丈夫か?」
私が尋ねた。
「あ…」
剛田は足を止めて考え込む。
「でも普通に美味しかったけどな…」
その時、館の方から男の声が聞こえてきた。
「また来てくださいね!今度はもっといい『撮影素材』を用意しておきますよ!」
「絶対行かねえよ!」
村上が叫び返した。
森を抜け、車に辿り着いた私たち。雨はすっかり上がっていた。
「それにしても、村上先輩、なんで戻ってきてくれたんですか?」
小林が尋ねた。
村上は肩をすくめた。
「いや、さすがに心配になったからな。それに、あんな不気味な館だと思ったら…映画の撮影にピッタリじゃん!」
剛田が突然目を輝かせた。
「そうだ!今の体験をそのまま映画にしよう!『実録・吸血鬼館からの脱出』!絶対ウケるぞ!」
「お前、さっきクッキー食べたの大丈夫なのかよ…」柴田が呆れた声で言った。
「大丈夫だって。あれ、本物の吸血鬼じゃなくてただのコスプレイヤーだったんじゃねえの?」剛田は笑った。
その瞬間、剛田の首筋に小さな痣が見えた。
「剛田、その首の…」
「ん?なんか変なところにニキビできたなと思ってたんだ。さあ、早く次の撮影地に行こう!」
私たちは不安を抱えつつも、車に乗り込んだ。バックミラーに映る洋館が徐々に小さくなっていく。
「なあ、剛田」私は言った。
「お前、結婚式の日取りって決まってたよな?」
「ああ、来月のちょうど満月の夜だよ」
私たちは互いに顔を見合わせた。
「なんで満月…?」
「なんとなく、格好いいかなって」
剛田は微笑んだ。その笑顔で、普段より少し長く見える犬歯が光った気がした。
「あのさ…撮影、やっぱり中止にしない?」
「なに言ってんだよ!これからが本番だろ!」
剛田が笑い、車は暗い森の中の道路を走り続けた。私たちの「本物の」ホラー映画は、まだ始まったばかりだった。
プロンプト
「『フラグ立ちまくりの吸血鬼館から脱出しろ!!!』。場所は東京と埼玉の間。映画サークルの撮影で森の中にいる私たち。「ほんとにここら辺にいい感じの廃墟があるの?」。私はメタルバンドのTシャツを着たホラー好きな監督に言う。「大丈夫だよ。私は結婚を控えた優秀な新進気鋭の監督だよ。ロケハンに抜かりはないよ」。その後ろではイチャイチャしている主演男優と女優。もちろん付き合っている。隠しているみたいだがもろバレだ。「まったくこんな暗い森最悪だぜ。雨も降り始めたしよ」。粗野なAD(留年生)が悪態をつく。「先輩あれって」。新入生の女子が指を指す。森の奥に怪しげな館があった。館のチャイムを鳴らす。「すいません。ちょっと雨が止むまででいいので…」。館の門が開く。「電気は通っているみたいだな」。私たちは中に入る。しかし、無人のように館は空だった。「不気味だぜ」。そのとき、館の階段に飾っている肖像画が見えた。「まるでドラキュラみたい」。「クソ!気持ち悪いぜ。こんな館いられないぜ。俺は先に車に戻る!」。留年生の先輩は館を出る。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」