『トランスフォーム系吸血鬼の対処法』
地下鉄の最終電車を逃したのは私のミスだった。深夜の東京、六本木の飲み屋から帰る道すがら、スマホのバッテリーは既に死に、タクシーを拾う気力も残っていなかった。渋谷まで歩けば、終電に間に合うかもしれない。そう思って裏路地に入ったのが、全ての始まりだった。
「やぁ、いい夜だね」
振り返ると、月明かりに照らされた細身の男が立っていた。西洋人風の顔立ち、真っ赤なマント、そして不自然なほど白い肌。典型的すぎる出で立ちに、思わず噴き出しそうになった。
「コスプレですか?」
私は疲れた声で言った。
男は口元を歪めて笑った。その瞬間、尖った犬歯が月光に反射して光った。
「ごっこ遊びをしよう」
彼は上品な日本語で言った。
「朝日が昇るまで君が逃げ切れれば、君の勝ち。捕まえたら、私の勝ち。シンプルなルールだ」
「冗談きついっすよ」私は笑いながら言おうとしたが、男の目が赤く光り、私の体が凍りついた。
「逃げなさい。30秒後に追いかける」
* * *
六本木の裏路地を全力疾走した。冗談かどうかなんて考える余裕はなかった。目の前の男が本物の吸血鬼だとしたら、日の出まで逃げ切れば勝ちだ。腕時計を見る。午前2時17分。あと4時間ほど。
「カウントダウン終了!ゲームスタート!」背後から声が聞こえた。
六本木通りに出て、タクシーを必死に探す。一台も見当たらない。人通りはほとんどない。
コンビニに飛び込んだ。店員は眠そうな目で私を見た。
「助けてください!変な男に追われてて...」
「いらっしゃいませ〜」
振り向くと、レジカウンターの前に例の男が立っていた。バイトの少年は何も感じていないようだった。
「とらんすふぉ〜む!」
男の体が霧のように溶け、次の瞬間、真っ黒な大型犬に変わった。犬は唸り声を上げ、私に向かって吠えた。
* * *
コンビニを飛び出し、六本木ヒルズ方面へ走った。犬の足音が迫ってくる。
「変身するなんて反則だろ!」叫びながら走った。
「ルールブックにはそんなこと書いてないよ!」犬が人語で返してきた。
地下鉄の駅を見つけ、階段を駆け下りた。改札は閉まっている。飛び越えようとした瞬間、駅員が現れた。
「お客さん、営業終了しています」
振り返ると、黒犬の姿はなく、代わりに駅員がもう一人立っていた。駅員と同じ制服を着た吸血鬼が笑っている。
「とらんすふぉ〜む!」
今度はコウモリに変身した吸血鬼が、私の頭上を旋回する。
* * *
東京タワー方面へ走った。高いところに登れば、日の出を少しでも早く迎えられるかもしれない。
タワーは閉まっているが、近くの高層マンションの非常階段を見つけた。屋上まで駆け上がる。
「ここまでか」
振り返ると、人間の姿に戻った吸血鬼が立っていた。息も切れていない。
「変身チートすぎるだろ」私は息を切らしながら言った。
「生きるために進化したんだよ。君たち人間だって道具を使うじゃないか」
そう言って吸血鬼が近づいてきた瞬間、ヘリコプターの音が聞こえた。警察のパトロールだ。
「とらんすふぉ〜む!」
吸血鬼は再びコウモリになり、ヘリコプターの方へ飛んでいった。
* * *
東京の街を走り回ること3時間。もう足が棒のようになっていた。時刻は午前5時20分。あと1時間もすれば日が昇る。
六本木に戻ってきた。大通りでは早朝の工事が始まっていた。巨大なミキサー車がコンクリートを撹拌している。
「もう逃げられないよ」
頭上からコウモリの声が聞こえた。
「本当に...吸血鬼なんだな」私は息を切らしながら言った。
「そうさ。数百年生きている。でも久しぶりにこんなに楽しい夜を過ごしたよ。ありがとう」
コウモリが私に向かって急降下してきた。
最後の力を振り絞って、工事現場へ走った。コウモリがすぐ後ろに迫る。
「とらんすふぉ〜む!」
私は叫んだ。もちろん何も起こらない。
「残念だけど、それは吸血鬼特権だよ」コウモリが笑った。
その瞬間、私はミキサー車の横を通り過ぎながら、作業員のヘルメットをひったくった。コウモリが接近したところで、ヘルメットを振り回してコウモリを打ち落とした。
「うわっ!」
コウモリは回転しながら落下し、そのままミキサー車の中へ落ちていった。
「ぎゃあああ!」
回転するコンクリートの中から悲鳴が聞こえた。作業員たちは不思議そうな顔で周囲を見回している。
* * *
東京タワーの展望台から、私は日の出を見ていた。
「勝った...のかな」
疲れ切った体で、朝日を浴びながらつぶやいた。
「いや、引き分けだね」
振り返ると、コンクリートまみれの男が立っていた。服はボロボロで、体中灰色になっている。
「なんで生きてるんだよ!」
「ミキサー車ごときで吸血鬼が死ぬと思ったの?ちょっとコンクリート漬けになっただけさ」
男は肩をすくめた。
「でも、朝日が昇る前に捕まえられなかったから、君の勝ちだよ」
男は私に名刺を差し出した。
「また遊ぼう。次は別のゲームで」
名刺には「トランスフォーム系吸血鬼 オプティマス・ドラキュラ」と書かれていた。
「冗談だよ」
彼は笑った。
「でも次はもっと面白い逃げ方を考えておいてね」
そう言うと、彼は展望台から飛び降りた。追いかけて下を見ると、一羽のカラスが朝日に向かって飛んでいった。
「まったく...東京の夜はマジでやばいな」
私は疲れ切った体を引きずりながら、家路についた。ポケットの中の吸血鬼の名刺が、朝日を浴びて灰になっていくのを感じながら。
プロンプト
「『トランスフォーム系吸血鬼の対処法』。場所は東京、夜中に吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。路地や電車、ヘリ。様々な方法で逃げるが、吸血鬼は「とらんすふぉ~む!」といい変身して追ってくる。オチ、私はコウモリになった吸血鬼をミキサー車に打ち込んでなんとか逃げ切る。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」