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『緊急ドラキュラ速報』

 夜の帝王と呼ばれる吸血鬼、黒崎は静かな街の屋根から月を見上げた。完璧な満月だった。狩りの夜としては申し分ない。黒い外套を羽のように広げると、彼は街の中心へと舞い降りた。


「今宵も血に飢えたる夜の帝王、ここに現る」


 彼は自分の台詞を囁いた。これは儀式だった。しかし…何かがおかしい。周囲は静まり返っている。


 黒崎は眉をひそめた。通常なら、この時間にも関わらず何人かの人間が歩いているはずだ。酔っ払い、夜遅くまで働く会社員、恋人と別れたばかりの若者…様々な「獲物」がいるはずなのに。


「奇妙だな…」


 彼は鋭い赤い目で周囲を見回した。商店街のシャッターは閉まっている。公園には誰もいない。駅前の広場も無人だった。


「全く…最近の人間は家に引きこもりすぎだ」


 彼は苛立ちを隠せなかった。ここ数ヶ月、狩りの成果は徐々に減少していた。最初は気候のせいかと思ったが、どうやらそうではないらしい。


「鬼ごっこでもすれば気分が変わるかもしれん」


 黒崎は思いついた。獲物を追いかけ、恐怖に歪む顔を楽しむ。血を吸う瞬間の恍惚感だけでなく、その前段階も楽しめるはずだ。


 彼は街の通りを徘徊した。しかし、一時間経っても人間は現れなかった。


「どうなっているんだ…」


 黒崎は次第に不安になってきた。彼はマンションの一室に忍び込んだ。テレビはついていたが、住人の姿はない。冷蔵庫には半分食べかけの弁当があった。バスルームには湯気が残っていた。


「まるで…皆どこかに消えたようだ」


 彼は街中のあらゆる場所を探した。レストラン、映画館、ホテル、病院…。しかし、どこにも人間の姿はなかった。


 ---


 その頃、街の外れにある巨大な地下施設では、モニターを見つめる数十人の研究者たちがいた。


「被験体A-7、通称『黒崎』の行動パターンに変化が見られます」


 白衣の女性研究員が報告した。


「今夜で連続7日目です。被験体の行動範囲が拡大しています」


 施設長の佐藤はあごをなでながら頷いた。


「予想通りだな。彼らは『獲物』がいなければ、より広範囲を探索する」


 巨大なスクリーンには、街中を歩き回る黒崎の姿が映し出されていた。彼の動きを追う小型ドローンからの映像だ。


「あの…これはいつまで続けるんですか?」


 若い研究員が尋ねた。


「被験体にストレスがかかりすぎると、予期せぬ行動に出る可能性もあります」


 佐藤は冷たい目で彼を見た。


「それも研究の一環だ。吸血鬼がストレス下でどのような行動を取るか。『計画』の次のフェーズに向けた貴重なデータになる」


 ---


 黒崎は屋上に立ち、虚ろな目で街を見下ろした。何かがおかしい。何かが根本的に間違っている。


「これは…幻か?あるいは罰か?」


 彼は両手で頭を抱えた。三百年以上生きてきた彼だが、こんな経験は初めてだった。


「私は…一人ぼっちになったのか?」


 その時、彼の鋭い耳に微かな音が届いた。電子音だ。


 黒崎は音の方向を振り向いた。小さな機械が空中に浮かんでいる。ドローン?


 彼は瞬時に動いた。超人的なスピードでドローンに飛びかかり、掴み取った。


「これは…」


 ドローンのレンズから、赤いランプが点滅している。誰かが自分を監視していたのだ。


 黒崎の顔に、何ヶ月ぶりかの笑みが浮かんだ。


「ふむ…なるほど。面白い遊びを思いついたようだな、人間たちよ」


 彼は装置を慎重に調べた。小型送信機が組み込まれている。


「こちらが獲物と思っていたが、実は私が獲物だったというわけか」


 彼はドローンを地面に置き、わざと壊さなかった。監視しているであろう人間たちへのメッセージだ。


「では、新たな遊びを始めようか。今度は私が隠れている君たちを探し出す番だ」


 黒崎はドローンに向かって優雅に一礼すると、夜の闇の中へと消えていった。


 ---


 地下施設では警報が鳴り響いていた。


「監視ドローンが発見されました!被験体A-7が施設の存在に気づいた可能性があります!」


 研究員たちの間にざわめきが広がった。


 佐藤は落ち着いた様子で言った。


「計画を前倒しする。全員、避難プロトコルを実行せよ」


「しかし、データはまだ十分ではありません!」


「構わん。次のフェーズに移行する。吸血鬼の狩人としての能力を試す絶好の機会だ」


 佐藤は冷たく笑った。


「我々が獲物になるのか、彼が獲物になるのか…それが最も興味深い実験だ」


 外では、満月が雲に隠れ始めていた。長く、予測不能な夜の幕開けだった。


 ---


 黒崎は都市の外れに潜む。彼の超人的な嗅覚が、人間の匂いを捉えていた。地下から漂う微かな生命の気配。


「見つけたぞ」


 彼は唇をなめた。だが単独での侵入は危険すぎる。黒崎は月に向かって低く長く吠えた。それは仲間への呼びかけだった。


 ---


 数時間後、五体の影が集まっていた。黒崎の眷属たちだ。彼らは皆、かつて黒崎が選りすぐった人間たち。才能と野心を持ち、永遠の命と引き換えに夜の世界へと足を踏み入れた者たちだった。


「マスター、何があったのですか?」


 最も古い眷属の一人、雪村が尋ねた。彼女の金色の瞳が月明かりに輝いていた。


「我々は観察されている」


 黒崎は冷たく言った。


「人間どもが、私たちを実験台にしているようだ」


 眷属たちの間に怒りの波が広がった。


「彼らの隠れ家を見つけた。地下施設だ。今夜、襲撃する」


 黒崎は作戦を説明した。眷属たちは各自の特殊能力を生かして侵入することになった。


 ---


 地下施設の警報が鳴り響いた。


「北側の非常口が破壊されました!侵入者あり!」


 監視カメラには、霧のように壁をすり抜ける影が映っていた。


 佐藤は冷静さを失わなかった。


「防衛プロトコルを起動せよ。『ヘモグロビン・トラップ』を展開!」


 施設内の通路に仕掛けられた装置が起動した。人工血液の香りが広がる。吸血鬼たちを惑わせるための罠だ。


 だが黒崎たちはそれを見抜いていた。


「偽物の血で我々を欺くとは…子供だましもいいところだ」


 黒崎は前に進んだ。眷属の一人、元ハッカーの松本が施設のセキュリティシステムを無効化していく。カメラが次々とダウンした。


「彼らは予想以上に組織的だ!」


 研究員の一人が叫んだ。


「これは単なる吸血行動ではない。彼らは…狩りに来たんだ!」


 佐藤は顔色一つ変えずに命じた。


「B層の防衛線を展開。紫外線バリアを最大出力で」


 ---


 B層では激しい戦闘が繰り広げられていた。施設の警備兵が特殊な紫外線武器で応戦する。眷属の一人が直撃を受け、灰となって消えた。


「克彦!」雪村が叫んだ。


 黒崎は激しい怒りを覚えたが、感情を抑え冷静さを保った。


「進め。彼の犠牲を無駄にするな」


 彼らはC層、そしてD層と進んでいった。施設の最深部へ。黒崎は先導し、残りの眷属たちは後に続いた。


 ---


 佐藤は中央制御室にいた。モニターには黒崎たちの進行状況が映し出されていた。


「すべての防衛線を突破されました。あと10分で中央制御室に到達します」


 佐藤はついに立ち上がった。


「最終手段だな」


 彼は赤いスイッチのカバーを開けた。


「施設自爆プロトコル、認証コード入力」


 若い研究員が驚いて叫んだ。


「自爆?ここにはまだ研究員が50人以上残っています!」


「犠牲は避けられない。だが、これは人類の生存がかかった研究だ」


 佐藤は冷酷に言った。


「吸血鬼の生態を研究し、彼らの弱点を完全に理解する。それが我々の使命だ。たとえ、このデータを持ち帰れるのが私一人だけになってもな」


 彼は隠された脱出ポッドへと向かった。


 ---


 黒崎たちは最終層の巨大な扉の前に立っていた。


「ここが最深部か」


 突然、施設中に警告アナウンスが流れた。


「警告。自爆シーケンス起動。全職員は直ちに避難せよ。爆発まで残り10分」


 雪村が息を呑んだ。


「自爆?彼らはそこまでするつもりなのか」


 松本が急いでタブレットを操作した。


「マスター、この施設の爆発力は…この地域全体を吹き飛ばすほどです」


 黒崎は一瞬考え込んだ。逃げるべきか、それとも…


「進む」


 彼は決断した。


「真実を知るために」


 彼らは最後の扉を破壊した。そこには広大な研究室があった。壁一面に吸血鬼の生態に関するデータ。黒崎自身の何百年にもわたる活動記録。そして…


「これは…」


 部屋の中央には巨大なカプセルが並んでいた。その中には眠る吸血鬼たち。黒崎の知らない同胞たちだ。


「彼らは我々を…繁殖させようとしていたのか」


 黒崎は激しい怒りを覚えた。突然、部屋の奥から拍手が聞こえた。


 佐藤が姿を現した。


「素晴らしい。予想通りここまで来たか、A-7」


「なぜだ?」


 黒崎は尋ねた。


「なぜこんなことを?」


「人類の生存のためだ」


 佐藤は冷たく笑った。


「君たちのような存在が増えれば、いずれ人類は家畜と化す。我々はそれを防ぐために、君たちを研究し、完全に制御する方法を見つけようとしているのだ」


「狂気だな」黒崎は呟いた。


「狂気?違う。これは先見の明だ」


 佐藤はカプセルを指さした。


「これらの個体は君より劣っている。だが、君の遺伝子を加えれば…完璧な被験体が生まれる」


「自爆プロトコルまで残り3分」アナウンスが流れた。


「さて、私は行かなければならない」


 佐藤は脱出ポッドへと歩き始めた。


「君の選択次第だ。逃げるか、それとも同胞を救うか」


 黒崎は一瞬迷った。だが、決断は早かった。


「皆、ここを出ろ」


「マスター?」


「命令だ!」黒崎は叫んだ。


「私は残る。これを止めねばならない」


 雪村は泣きながら抵抗したが、他の眷属たちが彼女を連れ出した。


 黒崎は一人残り、カプセルと制御装置を見つめた。自爆を止めることはできない。だがこれらの同胞を目覚めさせ、共に死ぬわけにもいかない。


 彼は決断した。自らの血をカプセルに注ぎ込んだ。それは目覚めのためではなく、永遠の眠りをもたらすための毒だった。三百年生きた吸血鬼の血は、若い吸血鬼にとって毒となりうる。


「安らかに眠れ。このような世界に目覚める必要はない」


 カプセル内の吸血鬼たちは、痛みも知らぬまま、永遠の眠りについた。


 佐藤の脱出ポッドが発射された直後、黒崎は施設の中央制御装置に近づいた。彼は自らの超人的な力を使い、爆発の方向性を変えようとした。すべての爆発力を内側に向け、地上への被害を最小限に抑えるために。


「自爆シーケンス、残り10秒」


 黒崎は微笑んだ。三百年の命を終えるにふさわしい最期だ。


「さらばだ、夜の世界よ」


 爆発は地下深くに封じ込められた。地上ではわずかな振動しか感じられなかった。


 ---


 数日後、眷属たちは爆発現場の近くに集まっていた。雪村の手には、脱出直前に黒崎から受け取った小さな装置があった。それは施設から奪われたデータだった。


「マスターの遺志を継ぎましょう」


 彼女は言った。


「私たちは影に潜み、人類と共存する道を探る。そして、二度とこのような実験が行われないよう奴らを見張る」


 遠くで、脱出ポッドの残骸が発見されたというニュースが流れていた。佐藤の遺体は見つかっていない。


 雪村は月を見上げた。


「あなたの犠牲は無駄にはしません」


 彼女の瞳に、赤い光が宿った。新たな夜の帝王の誕生を告げるかのように。

プロンプト

「『緊急ドラキュラ速報』。場所は日本のとある都市。私は吸血鬼。夜の帝王。今日も人間の生き血を吸う。しかし、最近マンネリ化してきた。私はふと鬼ごっこを提案することを思いつく、逃げ惑う人間を狩る。血を吸うだけではなく恐怖の顔を楽しめる。が、人っ子一人いない。なぜだ。私以外この世に誰もいないのか。ゴーストタウンと化したのか。そのころ、別な場所で吸血鬼を観察する人間たちがいた。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」

「吸血鬼は眷属たちを使って地下施設を突き止め、侵入する。最終階層に辿り着いたとき、自爆プロトコルが起動する。このプロットを元に物語を締めくくってください。」

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