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『ダイエットと鬼ごっこ』

 私、井ノ川洋子は都内の広告代理店で働く28歳。入社して5年、忙しい日々にコンビニ弁当と残業の日々。そして気づけば体重計の数字は学生時代から20キロ増。


「このままじゃマズイ」


 そう思った私は、ランニングを始めることにした。東京の夜の街を走る。会社帰りに、夜の公園で。最初は3分で息が切れた。でも少しずつ、少しずつ距離を伸ばしていった。


 そんなある夏の夜のこと。


「ハアハア」


 湿気を含んだ空気が肺に張り付く。額から流れる汗が目に入って痛い。それでも私は走った。


「あと500メートル、あと500メートルで今日のノルマ達成」


 そう自分に言い聞かせながら、薄暗い公園の小道を走っていた時だった。


「そこの、お嬢さん」


 低く、どこか湿った声。振り向くと、黒いスーツを着た男が立っていた。月明かりに照らされた顔は青白く、不自然なほど整っている。だが、その赤く光る瞳と、薄く開いた唇から覗く鋭い牙が、彼が人間ではないことを物語っていた。


「私と鬼ごっこでも?」


 男は薄く笑った。


「もしかして、ヴァンパイア?」


 思わず口にした言葉に、男は優雅に頷いた。


「さあ、逃げろ。お前の血の香りが実に素晴らしい。長く楽しませてくれることを期待している」


 理性は「こんなバカな」と叫んでいた。でも本能は「逃げろ」と命じた。私はとりあえず、走った。


 その日から私の「ダイエット」は新たな局面に入った。毎晩、彼は私を追いかけてくる。最初は公園だけだったが、やがて街中でも、駅の構内でも、ときにはオフィスビルの中でさえ現れるようになった。


 彼の名前はレイン。17世紀のイギリス貴族で、「吸血鬼になって以来、こんなに興味をそそられる人間はいなかった」と言う。


「君の血はな、恐怖と運動で程よく温まり、アドレナリンと混ざり合って、実に香り高い」


 彼は私を捕まえるたびにそう囁いた。だが不思議なことに、彼は一度も私を殺さなかった。少しだけ血を吸って、またゲームを続けるのだ。


「まだ終わらせたくないからな。君との鬼ごっこが楽しみで仕方ない」


 こんな非現実的な日々が続くうちに、私の体は変わっていった。体重は見る見る減り、筋肉はついた。走る速さも、持久力も、反射神経も、すべてが向上した。


 同僚たちは驚いた。


「洋子、何かダイエット法でも見つけたの?」

「すごい痩せたじゃん!何かの病気?」


 私は苦笑いで答えた。


「ちょっとね、運動してるの」


 そう、毎晩命がけの鬼ごっこをしているなんて言えるわけがない。


 3ヶ月が過ぎた頃、私はふと気づいた。最近、レインに追いかけられることが楽しみになっている自分がいることに。彼との鬼ごっこは、恐怖と興奮が入り混じった奇妙なスリルを私にもたらした。


 それに、彼は単なる捕食者というわけでもなかった。捕まった後、彼は私に様々な話をしてくれた。17世紀の宮廷の様子や、彼が見てきた長い歴史の中の出来事。それは歴史の教科書からは決して学べない生々しさがあった。


 4ヶ月目の満月の夜。いつものように公園で鬼ごっこをしていた私たちは、いつもより深く森の中へと入り込んでいた。


「今日で終わりにしよう」


 レインがそう言った時、私は胸に奇妙な痛みを感じた。


「どういうこと?」


「君ももう十分に強くなった。これ以上続けても意味がない」


「でも、私まだ痩せたいし...」


 言いながら自分でも馬鹿げていると思った。もうとっくに目標体重は達成している。ただ彼との時間が終わるのが寂しかっただけだ。


「他に方法がある」


 彼は私の首筋に顔を近づけた。


「私と永遠に生きる道が」


 その瞬間、私は理解した。彼は私を仲間にしようとしている。ヴァンパイアに。


「それって...死ぬってこと?」


「いいや、真に生きるということだ」


 レインの瞳が赤く輝いた。その瞳に吸い込まれそうになりながら、私は考えた。


 永遠の命。永遠の若さ。そして彼との永遠の時間。


 だが、それはもう人間ではなくなるということ。家族や友人とも別れなければならない。太陽の下を歩くこともできなくなる。


「ごめん、私にはまだやりたいことがある。人間としてやり遂げたいことが」


 私の答えにレインは悲しそうな表情を浮かべた。


「そうか...残念だ」


 次の瞬間、彼の動きが変わった。今までの鬼ごっこでは見せなかった本気の速さ。あっという間に私は捕まり、地面に押し倒された。


「じゃあ、最後の晩餐としよう」


 彼の牙が私の首筋に突き刺さった時、激しい痛みと共に不思議な多幸感が全身を駆け巡った。意識が遠のいていく中、私は思った。


「ダイエット、成功したな...」


 翌朝、公園の管理人が発見したのは、血の気のない青白い顔で微笑む女性の遺体だった。警察の調書には「原因不明の過度の失血」と記録されたという。その記録には、遺体は煙の如く消えてなくなったと書かれていた…


 それから一年後。東京の夜の街に、黒いスーツを着た男性と、黒いワンピースを着た女性の姿が時折目撃されるようになった。彼らは常に誰かを追いかけているという。そして彼らに追われた者は、不思議と健康になり、理想の体型を手に入れるらしい。


 もし夜の公園で走っていて、「そこの、あなた」と声をかけられたら──


 振り向いてはいけない。


 彼らはあなたにも「ダイエット」の手伝いをしたがっているかもしれない。


 永遠に。

プロンプト

「『ダイエットと鬼ごっこ』。場所は東京。「ハアハア」。息を切らせながら走る私は井ノ川洋子。私は必死になって走っていた。すべては社会人になって増えた体重を減らすため、「そこの、お嬢さん」。振り向くと、黒衣の男がいた。「私と鬼ごっこでも?」。黒衣の男は鋭い牙と赤い目。「もしかして、ヴァンパイア」。私はとりあえず、逃げた。何とか逃げれた。ヴァンパイアに毎夜追いかけられる私。図らずもダイエットは実り始めていた。このプロットを元にシリアスブラックコメディ短編小説を書きましょう。オチはバッドエンドでお願いします。」

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