『ドラキュラ割引』
東京の裏通りを歩いていた私は、時計を見て慌てた。午前0時を回っている。終電の時間はとうに過ぎていた。この寒さの中、タクシーを探すべきだろうか。そう考えていたその時だった。
「こんばんは、素敵な夜ですね」
振り向くと、そこには西洋風の上品なスーツを着た男性が立っていた。彼の肌は不自然なほど白く、目は鋭い光を放っていた。
「あの、どちらさまでしょうか」
私は警戒しながら尋ねた。
「失礼しました。私の名前はカルミラ・ドラキュラと申します。セールスの仕事をしております」
彼はポケットからビジネスカードを取り出し、私に差し出した。カードには確かに「ドラキュラ・エンタープライズ」と書かれている。
「深夜のセールス?」
「ええ、我々の商品は…特殊なのでして」
彼は白い歯を見せて微笑んだ。その歯の中に、尖った犬歯が見えた気がした。
私は一歩後ずさった。
「あの、急いでいるので…」
「お急ぎのようですね。でしたら簡潔に説明いたしましょう」
ドラキュラ氏は身振りを交えながら話を続けた。
「本日、特別なキャンペーンを実施しております。『吸血鬼ライフスタイルプラン』と呼んでおります」
「え?」
「そう驚かないでください。吸血鬼になることで得られる特典は計り知れませんよ」
彼は情熱的に語り始めた。
「まず、寿命が実質無限になります。老いることもありません。今のお姿のまま、永遠に若さを保てるのです」
私は冷や汗をかきながら周囲を見回した。誰も人通りがない。助けを呼ぶべきか、走って逃げるべきか。
「そして『ドラキュラ割引』という特別プランもございます」
彼は続けた。
「都内の提携ナイトクラブが全て半額で利用可能です。映画館も深夜割引。さらに、夜行性になるため電気代も最大60%削減できるんですよ」
「それは…興味深いですね」
私はゆっくりと後ずさりながら答えた。
「でも、日光に当たると灰になるんじゃないですか?」
「ああ、よくある誤解ですね」
ドラキュラ氏は手を振った。
「現代の吸血鬼技術は進化しています。SPF5000の特殊日焼け止めを使えば、短時間なら日光の下でも活動可能です。もちろん、こちらも会員価格でご提供しております」
私の頭の中で計画が形成されていった。朝まであと6時間。日の出まで逃げ切れれば、この奇妙なセールスマンから逃れられるはず。
「あの、考えさせてください」
「もちろんです。ただ、本日限定の特典もございまして」
彼はタブレットを取り出し、グラフを見せ始めた。
「今夜お申し込みいただくと、初回の血液パックが50%オフになります。また、コウモリへの変身講座も3回無料で受講可能です」
私は近くのコンビニを見つけた。そこまで走れば、人目につく場所に逃げられる。
「血を吸うことに抵抗がある方には、人工血液プランもご用意しております。味は少し落ちますが、倫理的問題はクリアできます」
彼は熱心に説明を続けた。
「すみません、トイレに行ってもいいですか?考える時間が欲しくて…」
ドラキュラ氏は理解を示すように頷いた。
「もちろんです。こちらのカタログをお持ちください。特典一覧が詳しく書かれています」
私はカタログを受け取り、コンビニに向かって全力で走り出した。背後から彼の声が聞こえた。
「お客様!今なら入会特典で超音波ナビゲーションシステムも付いてきますよ!」
コンビニに飛び込んだ私は、店員に向かって叫んだ。
「吸血鬼に追われています!助けてください!」
店員は私を不思議そうに見た。
「吸血鬼ですか?」
「はい!あそこの…」振り返ると、ドラキュラ氏の姿はなかった。代わりに、コウモリが一匹、店の窓の外で羽ばたいていた。
店員は冷静に言った。
「お客様、うちでは吸血鬼対策キットを販売しています。レジ横の特設コーナーにございますよ」
私は呆然とした。
「え?」
「ニンニクスプレー、聖水ミニボトル、折りたたみ式十字架のセットで1980円です。今ならポイント5倍ですよ」
どうやら、東京ではこういった遭遇が珍しくないらしい。
その夜、私はコンビニで朝まで過ごした。日の出とともに恐る恐る外に出ると、足元に一枚の名刺が落ちていた。
「ご検討ありがとうございました。また機会がございましたら、ぜひご連絡ください。ドラキュラ・エンタープライズ」
名刺の裏には手書きで追記があった。
「P.S. 当社では分割払いプランもご用意しております。月々3000円から永遠の命をお買い求めいただけます。血抜きで。」
私はため息をつき、名刺をポケットにしまった。東京の夜は、思っていた以上に長く、そして商魂逞しかった。
プロンプト
「『ドラキュラ割引』。場所は東京、夜中に吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼は私に対して吸血鬼にならないかと提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。この間にも吸血鬼は吸血鬼になった特典やお得な割引を敏腕営業マンのごとく話す。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」