『招き入れるな、ヴァンパイア』
東京の夜は、いつもより濃い闇に包まれていた。
「どうだ?鬼ごっこをしないか?」
彼の言葉に私は背筋が凍った。白い肌、妖艶な瞳、そして鋭い犬歯。明らかに人間ではない。吸血鬼だ。なぜ彼が私に目をつけたのか分からないが、とにかく逃げなければならない。
「朝まで逃げ切れば勝ちだ。簡単なルールだろう?」彼は薄く笑みを浮かべた。「もし捕まったら...」続きを言わなくても分かる。
私の頭は急速に回転し始めた。吸血鬼の弱点は何だ?そうだ、日光、ニンニク、十字架...でも今夜はそんなものを持ち合わせていない。逃げ切るしかない。でも真夜中からあと何時間?
「時間は十分にある。さあ、逃げろ。」
彼の言葉に、私は反射的に走り出した。
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新宿の雑踏に紛れようとしたが、どこに行っても彼の気配を感じる。地下鉄、コンビニ、どこへ行っても追ってくる。招かれなければ入れないと言うが、公共の場所には自由に入れるらしい。
そのとき、目に入ったのは派手な看板。「ビッ○エコー」
そうだ、カラオケボックス。あそこなら個室で、契約した人間しか入れない。聖域とまではいかないが、招かれなければ入れない場所。そして朝まで営業している。パーフェクトだ。
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「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「一名です。朝まで」
「かしこまりました。504号室にご案内します」
ドアを閉め、鍵をかける。安全だ。窓もないし、彼は入れない。ボックスのドアは新たな契約がない限り開かない。
歌いたい気分ではなかったが、せっかくなので歌った。緊張を紛らわせるために。時間は午前1時。あと5時間ほど粘れば朝日が昇る。
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3時間が経過した。喉が渇いて声が出なくなってきた。リモコンでドリンクを注文する。アイスティーだ。
ノックの音。
「ドリンクお持ちしました」
疲れていた私は、無意識に「どうぞ」と答えてしまった。
ドアが開き、店員が入ってくる。
「アイスティーでございます」
彼女は笑顔でトレイを置いた。私はお礼を言い、彼女が出ていくのを見送った。
ドアが閉まった瞬間、恐怖が襲ってきた。
「招待ありがとう」
振り向くと、そこには彼がいた。店員の姿をした吸血鬼が、満足げな笑みを浮かべていた。
「待っていたよ。こんな場所に隠れるなんて中々賢いじゃないか。でも結局は私を招き入れてしまった」
私は叫ぼうとしたが、声が出ない。
「心配いらない。痛くはしないから」
彼は私に近づき、首筋に顔を寄せた。
「ただ、少し血を分けてもらうだけだ」
最後に見たのは、モニターに映る「タイムアップ」の文字だった。
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翌朝、清掃員が504号室のドアを開けると、そこには誰もいなかった。ただ、アイスティーの入ったグラスだけが、一口も飲まれないまま残されていた。
プロンプト
「場所は東京、夜中に吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あそこしかない。そうカラオケだ。密室で招かれなければ入れない。かつ夜遅くまで時間を過ごせる。聖なる結界で守られた部屋のようなものだ。ドリンクを頼んでうっかり店員を招き入れてしまうバッドエンドでお願いします。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」