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『吸血鬼に襲われたらタピオカを臓物のようにぶちまけろ!!!!』

 

 東京の街は、夜になると別の顔を持つ。


 昼間は人々の熱気と喧騒で満ちていた渋谷のスクランブル交差点も、深夜の3時ともなれば、まるで時が止まったかのように静まり返っていた。そんな静寂を破るように、私の足音だけが響く。


「はぁ...はぁ...」


 息を切らしながら走る。振り返る余裕もない。


「逃げても無駄だよ、ニンゲンくん」


 背後から聞こえる声は、不思議と穏やかだった。それが余計に恐ろしい。


 吸血鬼・伯爵ドラキュリンスキー。


 日本に観光に来たはずが、どういうわけか私をターゲットにした東欧からの不法入国者である。こいつ、入国審査どうやって通ったんだ?棺桶に入って貨物で来たのか?


「せっかくだから、ゲームをしよう」


 彼は言った。


「鬼ごっこだ。朝日が昇るまで私から逃げ切れたら、君の勝ち。捕まえたら、私の勝ち」


 勝てば命が助かる。負ければ血を吸われる。公平な勝負には思えないが、選択肢はなかった。


 渋谷の街を全力疾走する私。頭の中では様々な知識が交錯していた。


『吸血鬼の弱点...ニンニク、十字架、日光...』


 ポケットの中には何もない。スマホと財布だけ。コンビニでニンニクを買う時間もない。


『あと何だ...そうだ、吸血鬼には強迫神経症的な習性がある。地面に落ちた米粒を数えずにはいられないとか...』


 その時、目の前に光が見えた。24時間営業のタピオカミルクティー専門店「BubbleBubbleToil&Trouble」。店内には客も店員も見当たらない。ただレジ横に「トイレ故障中につき、ただいま店内清掃中。5分後に営業再開します」という張り紙がある。


 絶体絶命のピンチの中、一つの閃きが脳裏をよぎった。


「これしかない...!」


 店内に飛び込んだ私は、レジカウンター内に無理やり入り込み、冷蔵庫からタピオカの入ったボウルを全て取り出した。


「ニンゲンくん、隠れても無駄だよ」


 扉が開き、伯爵ドラキュリンスキーがゆっくりと入ってきた。180センチを超える長身に漆黒のマント。顔は青白く、真っ赤な瞳が暗闇で妖しく光っている。


「見つけたよ」


 彼が獲物を見つけた狼のような笑みを浮かべた瞬間、私は覚悟を決めた。


「伯爵!これでも食らえ!」


 私は手に持っていたタピオカのボウルを思い切り彼に向かって投げつけた。


「なっ...!?」


 黒いタピオカの粒が宙を舞い、ドラキュリンスキーの顔や胸元、足元に降り注いだ。


「これは...なんだ...?」


「タピオカだ!数えてみろよ!」


「ば、馬鹿な...こんなものを...」


 しかし、彼の目は既にタピオカに釘付けになっていた。


「1...2...3...いや、待て...1...2...」


 伯爵ドラキュリンスキーは床に膝をつき、散らばったタピオカを一粒一粒数え始めた。その顔には苦悶の表情が浮かんでいる。


「こんなことをして...時間を稼いでも...無駄だ...」


 言いながらも、彼の手は止まらない。


「4...5...あっ、動いた...もう一度...1...」


 私は残りのタピオカボウルも全て床にぶちまけた。店内は黒いタピオカ玉の海となった。


「うわああああっ!!!」


 伯爵ドラキュリンスキーの叫びが店内に響き渡る。


「数え切れない...数え切れない...!」


 彼は頭を抱えてもがき苦しんでいる。私はそのチャンスを逃さず、店の東側の窓へと走った。あと30分ほどで朝日が昇る。


 窓の前で振り返ると、伯爵は未だにタピオカを必死に数えている。その姿はもはや恐ろしいというより、どこか哀れですらあった。


「伯爵、数えるのやめれば?」


「やめられるものなら...やめたい...これが我々の呪いだ...」


「じゃあ、もう一つ呪いを思い出させてあげるよ」


 私はゆっくりとブラインドを開けた。東の空が徐々に明るくなっている。


「な...なんてことを...!」


 朝日の最初の光が窓から差し込み、ドラキュリンスキーの体に当たった。


「ぎゃああああっ!!」


 彼の体から白い煙が立ち上り、みるみるうちに縮んでいく。最後に残ったのは、タピオカの海の中に落ちた一握りの灰だけだった。


「勝った...」


 疲れ果てた私は、その場に座り込んだ。朝日が店内を黄金色に染め上げている。


「あの...」


 声がして顔を上げると、エプロン姿の店員が呆然と立っていた。


「これは一体...何が...」


「あー、それが...」


 私は床一面に広がるタピオカの惨状を見て、言葉に詰まった。


「実は、吸血鬼から逃げるために...」


 店員の表情が変わる。


「吸血鬼?」


「信じられないかもしれませんが...」


 すると、店員は意外な反応を示した。


「あー、またですか。先週も同じようなことがありましたよ。この辺り、最近吸血鬼の観光客が増えてて...」


「え?」


「そのために当店では『吸血鬼対策タピオカプラン』を用意しています。清掃料金と合わせて15,000円になります。クレジットカードもご利用いただけますよ」


 私は呆然としながら財布を取り出した。


 その日から、東京のタピオカミルクティー店は「吸血鬼対策」を売りにし始め、再びタピオカブームが到来したという。


 次に吸血鬼に襲われた時は、財布にもう少し多めに現金を入れておこうと心に誓った私であった。

プロンプト

「『吸血鬼に襲われたらタピオカを臓物のようにぶちまけろ!!!!』。場所は東京、夜中に吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あそこしかない。そうタピオカミルクティー屋だ。吸血鬼は数を数える習性がある。しかし、都内でも数が激減している。果たして…。俺は豪快にタピオカをぶちまける。このプロットを元にシリアススタイリッシュアクションコメディ短編小説を書きましょう。」

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