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『吸血鬼に襲われたらガンファイト!!!!』~デスペラードな夜~

 

 メキシコの小さな町、サングレ・デル・ディアブロ。俺がこんな辺境の地に足を踏み入れたのは、ある男を追ってのことだった。


 マリアッチ(楽団)の陽気な音楽が、古ぼけたカンティーナ(大衆酒場)から流れ出ている。夜の帳が下りてきたこの時間、観光客はとっくに宿に引き揚げ、店内には地元の酒飲みと、行き場のない旅人だけが残っていた。もちろん、俺もその一人だ。


「もう一杯、アミーゴ」


 バーテンダーは無言でテキーラを注ぐ。彼の目は何も語らない。この町の人間は皆そうだ。何かを知っていても決して口にしない。夜になると誰も表を歩かない理由も。


 そのとき、カンティーナのドアが開いた。


 マリアッチの演奏が一瞬止まり、店内の会話も途絶えた。入ってきたのは、異様に白い肌をした男。黒いスーツに赤いネクタイ。時代錯誤な貴族風の髪型。地元の人間じゃない。


「なんて素敵な夜なんでしょう」


 男は誰に話しかけるわけでもなく呟いた。その声には妙な響きがあった。マリアッチたちは再び演奏を始めたが、明らかにテンポが速く、不安げだった。


 俺はテキーラを一気に煽り、カウンターに銀貨を置いて席を立った。直感が告げていた。この男から離れるべきだと。


 外に出ると、月明かりだけが通りを照らしていた。街灯はすべて壊れているか、最初から存在しなかったかのどちらかだ。俺は宿へと急いだ。


「どこへ行くのですか、旅人さん」


 背後から聞こえた声に振り返ると、あのカンティーナの男が立っていた。移動する音も足音も、まったく聞こえなかった。


「宿に戻るだけだ」


「そんなに急いで? 素敵な夜を楽しみましょうよ。ゲームはどうですか?」


「ゲーム?」


「そう、鬼ごっこです」


 男は不気味に笑った。


「あなたが逃げて、私が追いかける。シンプルでしょう?」


 その笑顔で俺は確信した。この男が何者なのかを。この町で囁かれる伝説。夜になると現れる『夜の支配者』——吸血鬼だ。


「冗談はよせ」


「冗談ではありませんよ」


 男は口を開き、異様に長い犬歯を見せた。


「さあ、逃げてください。10秒数えますから」


 俺の頭は急速に回転し始めた。吸血鬼の弱点——十字架、ニンニク、銀、日光。だが、今手元にあるのは...


「ウノ、ドス、トレス...」男は優雅に数え始めた。


 宿までは走っても3分はかかる。この男の速さからして、たどり着ける保証はない。朝まで逃げ切れれば勝てるが、それまでの時間をどう持たせる?


「...シエテ、オチョ...」


 奴は知らない。あのスーツケースの中身を。


「...ディエス! レッツ・プレイ!」


 男が一瞬にして消えた。その速さは人間のものではない。だが、俺は宿とは反対方向に走り出していた。目指すのは、昨日見つけた廃教会だ。


 教会に飛び込むと、すぐに祭壇の下に隠したスーツケースを引っ張り出した。ロックを解除する指が震える。


「かくれんぼもお上手ですね」


 声に振り返ると、教会の入口に男が立っていた。月明かりに照らされた姿は、より一層非人間的に見える。


「ゲームはまだ続いていますよ。もっと走りませんか?」


「悪いな」


 俺はスーツケースから取り出したものを構えた。


「俺のゲームのルールは少し違う」


 吸血鬼は俺の手にあるものを見て、初めて表情を変えた。


「それは...」


「ああ、銀の弾丸を込めた45口径だ。映画の見すぎかもしれないが、準備はしてきたんだ」


「まさか、そんな古典的な...」


「試してみるか?」


 吸血鬼は一瞬ためらったが、すぐに高笑いを上げた。


「面白い! 実に面白い! 現代の吸血鬼ハンターですか? デスペラード(命知らず)ですね!」


「そんなことどうでもいい。さあ、お前のゲームを終わらせよう」


「いいでしょう。では—」


 吸血鬼が動く前に、俺は引き金を引いた。轟音が教会に響き渡る。だが、弾丸は男の横を通り過ぎ、後ろの窓ガラスを砕いた。


「外しましたね」


 男の笑みが広がる。


「私の番です」


 男が一瞬で俺の目の前に現れた。その速さに反応できず、彼の冷たい手が俺の首に伸びる。


「ああそうだ。忘れてた」


 俺は落ち着いて言った。


「最初の一発は外すもんだ。映画ではな」


 俺は別の銃を取り出し、男の胸に押し付けた。


「これが本命だ」


 引き金を引く。今度は確実に男の胸を撃ち抜いた。


「銀の...弾丸...」


 男は胸から煙を上げながら後退り、苦しそうに呻いた。その顔が歪み、体が徐々に灰のように崩れ始める。


「なぜ...」


「なぜって、お前が吸血鬼だからだ」


「いや...なぜ二丁も...銃を...」


「ハリウッド映画の影響だな。いつも主人公は予備の武器を持ってる」


 男は完全に灰になる前に、なぜか微笑んだ。


「次は...もっと...面白いゲームを...」


 残ったのは床に散らばる灰と、赤いネクタイだけだった。


 俺は銃をしまい、深いため息をついた。日の出まであと数時間。この町にはもっと「彼ら」がいるかもしれない。


 マリアッチの音楽が遠くから聞こえてくる。なんて陽気なんだ。この町の闇を知らないかのように。


 俺はネクタイを拾い上げ、ポケットにしまった。戦利品としてではない。次の「ゲーム」の証拠として。


「さて、次はどんなパーティーになるかな」


 俺は月明かりの中、教会を後にした。メキシコの夜はまだ長い。そして、デスペラードな俺の仕事もまた続く。

プロンプト

「『吸血鬼に襲われたらガンファイト!!!!』~デスペラードな夜~。場所はメキシコ、マリアッチが陽気に歌っていた。その最中、夜中に吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あれしかない。そうガンファイトだ。俺はスーツケースから銃を取り出して応戦する。このプロットを元にハードボイルドパロディコメディ短編小説を書きましょう。」

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