『赤ずきんVSドラキュラ』~モスクワの悪魔~
モスクワの冬の夜は、底知れぬ暗闇が街を飲み込む。
雪が舞う中、私は赤い頭巾を深く被り、足跡を雪に刻みながら歩いていた。
「ふっ、いい夜だ」
背後から漂う声に、私はゆっくりと振り返る。
そこには薄暗い街灯の下、黒いマントを翻す男が立っていた。青白い顔、鋭い犬歯、そして血のように赤い瞳。
ドラキュラだ。
「やあ、赤ずきんちゃん」
彼は唇の端を上げながら言った。
「私の名前は『赤ずきん』ではない」
私は低い声で言い放った。
「レッドベレー、ロシア内務省特殊部隊第7戦術班、コードネーム『赤ずきん』だ」
ドラキュラは愉快そうに笑った。
「面白い。いつも退屈していたんだよ。何百年も生きていると、刺激が欲しくなる」
「何が望みだ?」私は訊いた。
「ゲームをしよう」
彼は指をならし、長いマントをひるがえした。
「鬼ごっこだ。私が鬼で、君が逃げる。日の出まで逃げ切れれば君の勝ち。捕まえれば私の勝ち」
「勝負の条件は?」
「君が勝てば、私はもう二度とモスクワには現れない。私が勝てば...」
彼は不気味に笑った。
「君の血をいただく」
私は腕時計を見た。午前0時15分。日の出まで約7時間。
「了解した」
***
ドラキュラの「始め!」の声とともに、私は走り出した。
彼は私に5分の猶予をくれた。紳士的な吸血鬼だ。だが、それが彼の最初で最後の慈悲だろう。
私の頭の中では既に作戦が練られていた。吸血鬼の弱点—ニンニク、十字架、聖水、日光。
モスクワの旧市街に向かいながら、私は無線機で基地と通信した。
「こちらレッド・フード。ターゲットと接触、作戦コード『赤ずきん』発動」
「了解、レッド・フード。バックアップは15分で到着予定」
無線機の向こうから冷静な声が返ってきた。
私は教会の方向へ足を向けた。ドラキュラは姿こそ見えないが、常に私の背後に気配を感じる。彼は遊んでいるのだ。吸血鬼にとって、人間の恐怖は最高の調味料。
しかし、彼は知らない。私も同じく彼を追っているのだと。
***
「興味深い選択だね、教会か」
振り返ると、ドラキュラが屋根の上に立っていた。月明かりに照らされた彼の姿は、奇妙に美しくもあり、恐ろしくもあった。
「吸血鬼は神聖な場所に入れないと聞いたことがある」
私は答えた。
彼は笑った。
「そんな迷信を信じているのか? 私は何千もの教会を見てきたよ。神は私に無力だ」
「そうだろうな」
私は頷きながら、ポケットに手を入れた。
「だが、これはどうだ?」
手にしたのは、特殊部隊特製の改良版ニンニク手榴弾。ピンを抜き、彼に向かって投げた。
爆発とともに、空気中にニンニクのミストが広がる。
「くっ!」
ドラキュラは顔を覆い、一瞬よろめいた。だが、すぐに立ち直り「なかなかやるな!」と声を上げた。
私は逃走を続けた。時間は午前1時30分。まだ5時間以上ある。
***
レーニン図書館に忍び込み、古代の書物を探す。幸い、特殊部隊の身分証があれば、どこにでも入れる。
『吸血鬼撃退の秘法』と題された古い羊皮紙の本を見つけた時、影が私の上に落ちた。
「読書家だったとは知らなかったよ、赤ずきんちゃん」
ドラキュラが本棚の間から現れた。その動きは幽霊のようだった。
「お前の歴史を研究していたんだ」
私は本を投げ捨て、拳銃を抜いた。
「これは銀の弾丸だ」
「銀は狼男だよ、私ではない」
彼は笑いながら言った。
「ならこれは?」
引き金を引くと、弾丸ではなく、小さな十字架が飛び出した。
ドラキュラは一瞬ひるんだが、すぐに手で払いのけた。
「おもちゃか?」
「いや、気を逸らすためだ」
私は窓から飛び降り、暗闇に消えた。
***
午前3時。クレムリン近くの地下鉄構内。
私は息を整えながら、次の作戦を練っていた。バックアップ部隊からのメッセージが入った。
「レッド・フード、位置確認」
「地下鉄クレムリン駅、北出口」
「了解。特殊装備を持って10分で合流」
ドラキュラの気配が近づいてきた。彼は私の匂いを追っている。
「赤ずきんちゃん、隠れても無駄だよ」
彼の声が地下鉄の壁に反響した。
「私は800年生きている。君のような小童に負けるわけがない」
私は静かに答えた。
「800年も生きていれば、いろいろな人間を見てきただろう」
「もちろん」
「では、なぜ私が特別なのかわかるか?」
彼は笑った。
「赤い頭巾が可愛いからかな?」
「違う」
私は立ち上がり、赤い頭巾を脱いだ。
「私は狩人の孫だからだ」
その瞬間、バックアップ部隊が放った強力なUV照明が地下鉄構内を昼のように照らした。
ドラキュラは悲鳴を上げ、肌が焦げ始めた。
「これは...卑怯だ!」彼は叫んだ。
「戦争に卑怯も公平もない。あるのは勝者と敗者だけだ」私は答えた。
***
午前6時30分。モスクワ川の近く。
ドラキュラは傷つきながらも逃げ延びていた。UV照明でダメージを受けたが、彼はまだ強かった。
「面白い戦いだった」
彼は言った。血の涙が頬を伝う。
「だが、まだ終わっていない」
私は頷いた。
「ああ、まだだ」
東の空が明るくなり始めていた。
「あと15分で日が昇る」
私は言った。
「降参するか?」
「吸血鬼は降参しない」
彼は言い、最後の力を振り絞って私に飛びかかった。
私は身をかわし、特殊部隊の秘密兵器—聖水と銀のナノ粒子を混ぜた注射器—を取り出した。
「これはレッドベレーからの贈り物だ」
注射器を彼の首に突き刺す。ドラキュラは苦しみ悶えたが、まだ立っていた。
「私を倒せると思うか...人間風情が!」
その時、最初の日光が地平線から差し込んだ。
ドラキュラは光に照らされ、膝をつく。
「君は...強い...」
「いいや、私は賢いだけだ」
私は答えた。
「そして準備ができていた」
彼は消え始めた。体が灰になっていく。
「次に生まれ変わる時は...」
彼は最後の言葉を残した。
「もっと面白いゲームをしよう...赤ずきん...」
そして完全に灰となり、モスクワの冷たい朝の風に吹き飛ばされた。
私は赤い頭巾を拾い上げ、再び被った。無線機が鳴る。
「レッド・フード、状況報告」
「ターゲット無力化。作戦完了」
私はクレムリンを見つめながら、静かに付け加えた。
「おばあちゃん、今日も悪い狼を退治したよ」
***
その夜、私は報告書を書いていた。
「ドラキュラ、本名ヴラド・ツェペシュ。推定年齢800歳以上。無力化済み」
上官が部屋に入ってきた。
「良い仕事だった、赤ずきん」
「ありがとうございます」
私は答えた。
「だが、彼の最後の言葉が気になります」
「何だった?」
「『次に生まれ変わる時は...もっと面白いゲームをしよう』と」
上官は笑った。
「心配するな。次に彼が現れる時も、我々には『赤ずきん』がいる」
私は窓の外の夜空を見上げた。月が赤く輝いていた。
何百年後かに、別の「赤ずきん」が別のドラキュラと戦うのだろう。それもまた、永遠のゲームの一部なのかもしれない。
プロンプト
「『赤ずきんVSドラキュラ』。場所はモスクワ、夜中に吸血鬼と遭遇した赤い頭巾を被る私。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、実は私はレッドベレー:ロシア内務省特殊部隊だ。このプロットを元にシリアスハードボイルドコメディ短編小説を書きましょう。」