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『怪人、灰燼に帰す』

 

 夜の闇が東京の街を飲み込んでいた。私は仕事帰りの道すがら、いつもの近道を選んだ。それが運命を変える選択になるとは、その時は知る由もなかった。


 細い路地に足を踏み入れた瞬間、不自然な冷気が私を包み込んだ。夏の夜にもかかわらず、肌が粟立つ。そして、それは現れた。


 闇の中から浮かび上がる白い顔。血のように赤い瞳。人間とは思えない優雅さで私の前に立ちはだかる男—吸血鬼だった。


「こんばんは」


 彼は微笑んだ。完璧な日本語だが、どこか古めかしい響きがある。


「退屈していたところです。あなたと少し…遊びませんか?」


 私は言葉を失った。都会の真ん中で吸血鬼など、冗談にもならない。しかし目の前の存在は、間違いなく現実だった。


「鬼ごっこをしましょう」


 彼は穏やかに提案した。


「夜明けまであなたが生き延びれば、勝ちです。捕まえたら…」


 彼は意味ありげに牙を見せた。


「言うまでもないでしょう」


 拒否の余地はないことを悟った。彼は続けた。


「スポーツマンシップとして、十分な猶予を差し上げましょう。今から数えます。10、9、8…」


 私は本能的に走り出した。頭の中で選択肢を素早く整理する。吸血鬼の弱点—日光、十字架、ニンニク、聖水、槍…。しかし、それらは今手に入るものではない。夜明けまで逃げ続けることも不可能だ。


「7、6…」


 彼の声が遠くから聞こえる。


 その時、閃いた。鉄工所。この近くにある古い鉄工所なら、武器になりそうなものがあるはずだ。


「5、4…」


 私は全速力で走った。肺が焼けるように痛い。しかし立ち止まることはできない。背後から「3、2、1…さあ、始めましょうか」という声が風に乗って届いた。


 ---


 鉄工所の重い鉄扉を押し開ける。幸い、深夜にもかかわらず、工場は稼働していた。しかし作業員の姿はない。自動化されたロボットアームが黙々と作業を続けている。


「フフフ」


 背後から声がした。振り返る必要もない。彼だ。


「面白い選択です。ここで最期を迎えるつもりですか?」


「いいえ」


 私は静かに答えた。


「あなたが最期を迎える場所よ」


 彼は高笑いした。


「人間らしい。希望を捨てない—」


 私は彼の言葉を遮るように、近くの溶接機のスイッチを入れた。青白い火花が散る。


「火?私を怖がらせるつもりですか?」


 彼は余裕の表情だ。


「私は何世紀も生きています。そんな小細工は—」


 溶接機を彼に向けて放り投げた。彼は優雅に避けたが、それは私の本当の目的ではない。彼が気を取られている間に、私は工場の奥へと駆け込んだ。


「隠れても無駄です」


 彼の声が工場中に響く。


「あなたの鼓動が聞こえる。恐怖の匂いが漂ってくる」


 私は息を整えながら、周囲を素早く見渡した。様々な工具、鋼材、そして…そこにあった。大型の油圧プレス機。"T-800"というラベルが貼られている。


 時間がない。彼の足音が近づいている。


「見つけましたよ」


 彼が角を曲がって現れた。


「面白い遊びでしたが、そろそろ終わりにしましょう」


「その言葉、そのまま返すわ」


 私はスイッチを押した。天井のクレーンが動き、巨大な鋼鉄の塊が彼の頭上に落下した。彼は驚異的な反射神経で避けたが、その動きは計算通りだった。


「愚かな—」


 彼の言葉は途中で途切れた。避けた先にあったのは赤熱した溶鉄のプールだった。足を踏み外した彼は、バランスを崩しながらも踏みとどまった。


「あなたは私の想像以上です」


 彼は初めて本気の表情を見せた。


「しかし、これで終わりではありません」


「ハスタ・ラ・ビスタ、ベイビー(地獄で会おうぜ、ベイビー)」


 私は準備していた工業用レーザーカッターのスイッチを入れた。強力な光線が彼を直撃する。彼は悲鳴を上げた。吸血鬼にとって、それは太陽光に近い効果があるようだ。


「なぜ…どうして知っていた…」


 彼は顔を覆いながら後退した。


「現代の技術を侮ったのね」


 私は彼に近づきながら、壁に掛かっていた警告標識を手に取った。エッジの鋭い金属製の標識—即席の武器になる。


 彼は弱っているが、まだ危険だ。目が合った瞬間、彼の目が赤く輝いた。催眠術だ。私は一瞬意識がぼやけるのを感じたが、工場の警報音が鳴り、その効果が薄れた。


「現代の吸血鬼は昔話ほど強くないみたいね」


「私を侮辱するな!」


 彼は怒りに震えながら牙をむき出しにした。


「私は何百年も生きてきた。あなたのような人間が何百人も殺したことか—」


 私は彼の自慢話を聞く気はなかった。標識を投げつけ、彼の肩を切り裂いた。黒い血が吹き出す。彼は痛みに顔をゆがめたが、すぐに傷が塞がり始めた。


「自己再生能力か…」


 彼は笑った。


「そう。私は不死身だ。あなたに勝ち目はない」


「不死身?」


 私は冷静に答えた。


「それを確かめましょう」


 私はT-800油圧プレス機のコントロールパネルに飛びついた。ボタンを押すと、巨大な金属アームが動き始めた。


「これがあなたの最後の手段ですか?」


 彼は余裕の表情を取り戻した。


「いいえ」


 私は静かに答えた。


「これは注意をそらすためよ」


 彼の背後で、自動溶接ロボットが動いていた。私がプログラムを変更したのだ。ロボットは精密な動きで、床に落ちていた鋼鉄の棒を掴み、それを彼の背中に突き刺した。


「不可能だ…」


 彼は驚愕の表情を浮かべ、膝をつく。


「どうして…」


「現代の技術と、古い伝説の組み合わせよ」


 私は答えた。


「その棒は特殊合金製。銀を含んでいるの」


 彼の体が変化し始めた。肌が乾いた紙のようにひび割れ、内側から光が漏れ出してくる。


「何世紀も生きてきて…このような最期とは…」


「ノー・フェイト・バット・ホワット・ウィ・メイク」


 私は言った。


「自分の運命は自分で決めるのよ」


 彼の体は灰のように崩れ落ち、最後には風に舞う粉塵となった。怪人は灰燼に帰したのだ。


 工場の警報音が鳴り続けている。間もなく警備員がやってくるだろう。私は深く息を吐き出した。恐怖と緊張が一気に押し寄せてきて、足がふるえる。


 東の空が少しずつ明るくなり始めていた。新しい日の始まり。私は吸血鬼との鬼ごっこに勝ったのだ。


 しかし、この夜の記憶は永遠に私の中に残るだろう。そして、彼が最後の一人ではないという不安も。

プロンプト

「『怪人、灰燼に帰す』。場所は東京、夜中に吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あそこしかない。そう鉄工所だ。鉄工所にある様々な武器で奴を迎え撃つ。所々、ターミネーター2のパロディを入れてください。このプロットを元にシリアスアクション短編小説を書きましょう。」

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