『大いなる吸血鬼』
東京の夜空に満月が輝いていた。高層ビルの一室、窓際に佇む私は街を見下ろしながらワイングラスを傾ける。中身は言うまでもなく人間の血液だ。
「ふぅ...」
私、折原ブラドは五百年生きる吸血鬼。夜の帝王と自称しているが、実は最近の趣味は小説を書くことだ。
パソコンの画面には「直由紀賞」の応募要項が映し出されていた。文学界で最も権威ある新人賞の一つ。私はすでに完成させた短編小説「永遠の渇き」を見つめる。
「これで優勝は間違いないだろう」
人間の命の儚さを描いた作品。吸血鬼である私にしか書けない視点だ。名誉が欲しいわけではない。ただ、他の応募者たちが悔しがる顔を見たいのだ。
念のため、大賞選考員の一人、八木沢雄三を買収することにした。
「八木沢先生」
私は彼の自宅を訪ねた。
「私の作品を優勝させてくれたら...あなたを吸血鬼にしてあげましょう。永遠の命ですよ?」
七十の老体で文壇の中心に居座り続ける彼の目が欲望で輝いた。
しかし結果は落選。大賞は二十代の無名の女性作家が受賞した。
「なぜだ!」
私は八木沢に電話をかけた。
「すまない折原君」
彼の声は震えていた。
「あの作品は本物だった。君のものとは格が違った。それに…ボインで滅茶苦茶可愛かった」
その夜、私は怒りに震えながら選考委員の名簿を眺めていた。老害ども。やつらを普通に始末はしない。それでは面白くない。恐怖で精神を壊してやる。
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「先生、お久しぶりです」
文芸評論家の村松和彦の自宅を訪ねた私は、にこやかに笑顔を浮かべる。
「折原君か。なんの用だ?」
彼は私を招き入れた。書斎は本で溢れ、壁には著名な作家たちとの写真が飾られている。
「実は先生」
私は口調を変える。
「私と鬼ごっこをしましょう」
「何?」
「賞レースでなく」
私は歯をむき出しにした。
「本当のレースですよ」
村松の顔から血の気が引いた。私の赤く光る目、鋭い牙を見て彼は絶叫した。
「ば、馬鹿な!」
「先生には十分な時間をあげましょう。三十分後から追いかけ始めます。どうぞご自由に逃げてください」
村松は玄関へ走り出した。スリッパのまま夜の街へ飛び出す。
「おっと、財布も持たずに逃げるとは」
私は彼の財布を手に取り中身を確認する。
「タクシーにも乗れませんね」
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次は文芸誌「文藝東京」の編集長、佐伯徹。彼の自宅マンションのインターホンを鳴らす。
「どちら様ですか?」
「折原です」
「あぁ、落選した...」
ドアが開き、パジャマ姿の佐伯が現れた。
「こんな時間に何の用だ?」
「先生」
私は微笑む。
「鬼ごっこでもしてみませんか?」
「は?」
次の瞬間、私は彼の首元に牙を立てた。血は吸わない。ただ恐怖を与えるだけ。
「ひっ!」
佐伯は尻もちをつき、這いつくばって後退した。
「十階から飛びますか?ワンチャン死にませんよ。吸血鬼の私が保証します。試してみます?」
「や、やめてくれ!」
「それとも階段で逃げますか?エレベーターは止めておきましたよ」
佐伯は階段へ走り出した。パジャマ姿のまま。
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次の日の夕刊には奇妙なニュースが並んだ。
「著名文芸評論家、パニック状態で保護される」
「文芸誌編集長、パジャマで深夜徘徊」
「直由紀賞選考委員、集団ヒステリーか」
私はコーヒーを啜りながら新聞を読み、微笑んだ。
「さて、次の作品の題材ができたな」
パソコンに向かう私。タイトルは「老害狩り」。今度こそあの賞を取ってやる。
「ただし、今度は買収なしだ」
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数十年後、直由紀賞の新しい選考委員が発表された。私、折原ブラドの名前もあった。
「文学の新しい波を」と銘打たれた記事には、私のコメントが載っている。
「文学に老いも若きもありません。ただ良い作品があるのみです」
私は微笑みながら牙を隠した。永遠に生きる私には、文壇を変える時間が十分にある。
プロンプト
「『大いなる吸血鬼』。場所は東京。私は吸血鬼。夜の帝王。今日も人間の生き血を吸う。しかし、それ以上に好きなのは…小説を書くこと。私はふと文学賞「直由紀賞」へ応募することを思いつく、謎の超新星とは素晴らしい。名誉だけではなく、悔しがるほかの応募者の顔を楽しめる。私は念のため、大賞の選考員を買収する。老害には吸血鬼にしてやるという魅惑の提案もする。しかし、結果は落選。私は腐った文壇に居座る老害どもを夜な夜な襲う。「先生、私と鬼ごっこをしましょう。賞レースでなく本当のレースですよ」。逃げ惑い狼狽する老害ども。このプロットを元にシリアスパロディコメディ短編小説を書きましょう。物語は序盤で偉そうにしている文壇連中がみっともなく逃げ惑うざまあ系です。」