『カルニヴォアの娘と吸血鬼王子~イケメン吸血鬼を助けた焼き肉屋の娘である私が吸血鬼だらけになった街で、やつらの王(イケメンの親)をとりあえず、実家の焼き肉屋で迎え撃つ~』
☆運命の出会い☆
焼き肉の香りが漂う夕暮れ時、私——佐々木美和——は実家「カルニヴォア」の看板の下で溜め息をついていた。
「もう、バイト遅刻するし…」
高校生活最後の夏。進学か家業を継ぐかで悩んでいた私は、毎日放課後に別のレストランでバイトをしていた。親には内緒だ。
そんな日常が変わったのは、あの男が現れた夜だった。
店の前で倒れていた彼は、月明かりに照らされた顔が信じられないほど整っていた。細い顔立ち、鼻筋の通った高い鼻、そして長い睫毛。まるで海外の俳優のようだった。
「大丈夫ですか?」
声をかけると、彼はゆっくりと目を開けた。その瞳は、どこか人間離れした赤みを帯びていた。
「…血の匂いがする」
彼が呟いた言葉に、私は思わず首を傾げた。焼き肉屋の前だから肉の匂いはするかもしれないが、血?
「うちは焼き肉屋ですよ。お腹空いてるんですか?」
男は弱々しく微笑んだ。
「名前は?」
「佐々木美和です。あなたは?」
「…レイン」
その夜、私は両親に頼み込んで彼を店の二階にある部屋に泊めることにした。なぜそんな決断をしたのか、今考えれば愚かだったと思う。でも、彼の目を見た瞬間、何か運命のようなものを感じたのだ。
その夜、私は知らなかった——彼が吸血鬼だということを。そして私の町が、これから大きく変わろうとしていることも。
☆赤い月の下で☆
それから一週間、レインは「カルニヴォア」の手伝いをするようになった。不思議なことに、彼は肉を焼く仕事が得意だった。ただ、太陽が出ている昼間は具合が悪いらしく、いつも夕方から夜の営業時間だけ働いていた。
「美和ちゃん、あの子、どこの子?イケメンだけど、ちょっと変わってるね」
常連客の鈴木さんが耳打ちしてきた。
「遠い親戚です」と適当に答えておいた。
その日の閉店後、店の裏で見つけてしまったのだ——レインが捨て猫の血を吸っているところを。
「きゃっ!」
思わず声を上げると、レインは驚いて振り返った。口元に血がついている。そして、その目は赤く光っていた。
「美和…見てしまったか」
「あなた…一体…」
「説明する。だが、ここではまずい」
彼は猫を優しく地面に置くと(猫はまだ生きていた!)、私の手を取った。
「ついてきて。町が危険になる」
その夜、レインは全てを明かした。彼が人間と吸血鬼の間に生まれたハーフヴァンパイアであること。人間の血は吸わず、動物の血だけで生きていること。そして——この町に純血の吸血鬼たちが集まりつつあること。
「なぜこの町に?」
「俺を追ってきたんだ。俺が逃げ出した"王国"の使者たちが」
「王国?」
「ああ。吸血鬼たちの支配者、"血の王"の統治する地下王国だ」
「まるでファンタジー小説みたい…」
レインは苦笑した。
「残念ながら、これは小説じゃない。現実だ。そして俺は…」
彼は言葉を飲み込んだ。
「あなたは?」
「…何でもない。とにかく、明日からこの町は危険になる。吸血鬼たちは人間を餌として狩り始めるだろう」
その言葉通り、翌日から町では奇妙な"貧血患者"が増え始めた。
☆血の王の到来☆
一ヶ月後、町は完全に変わっていた。
夜になると出歩く人が激減し、病院は原因不明の貧血患者であふれていた。警察も原因がわからず、ただ「夜の外出は控えるように」と注意を呼びかけるだけ。
その間も、レインと私は対策を練っていた。彼の知識によれば、吸血鬼にはいくつかの弱点がある。日光、特定のハーブ、そして——肉の脂の香り。
「脂の香り?」
「ああ。吸血鬼は純粋な血以外の動物性脂肪の強い香りに弱い。特に豚や牛の脂が焼ける香りは、我々の嗅覚を麻痺させる」
そう言って、レインは「カルニヴォア」の換気扇の前で顔をしかめた。
「だから俺は最初、この店の前で倒れたんだ。香りで力が出なくなってな」
これは大きな発見だった。私たちは焼き肉の煙を利用して、町を守るための計画を立て始めた。
そんなある夜、店の前に黒い車が止まった。
降りてきたのは、レインに似た顔立ちの中年男性。しかし、レインが持つどこか優しい雰囲気とは違い、この男からは冷酷さが滲み出ていた。
「久しぶりだな、我が息子よ」
レインの表情が凍りついた。
「父上…」
私は驚愕した。目の前にいるのは、レインが言っていた"血の王"——吸血鬼たちの支配者であり、レインの実の父親だったのだ。
☆カルニヴォアの反撃☆
「お前のような裏切り者に、息子と呼ばれる資格はない」
血の王——名をクリムゾンと名乗る男は、冷たく言い放った。
「人間との共存を唱え、我らの食料である人間を守るとは…恥知らずめ。やはり人間との間に生まれた出来損ないのハーフヴァンパイアか…」
レインは私を後ろに庇いながら答えた。
「人間を食料と見なすことこそ、我々の破滅への道です。彼らと共存することこそが、未来への—」
「黙れ!」
クリムゾンの怒声に、周囲の空気が震えた。
「お前の戯言は聞き飽きた。この町は既に我々のものだ。残った人間も数日のうちに、全て我々の家畜となる」
その時、私はふと思いついた。
「レイン、厨房に誘導して」と小声で言う。
レインは一瞬驚いたが、すぐに理解したようだ。
「父上、どうか最後に私の言い分を聞いていただけませんか。こちらへ」
レインは父親を店内へと案内した。クリムゾンは警戒しながらも、息子の申し出に応じた。
店内に入るなり、私は厨房へと走り込み、全ての焼き台のスイッチを入れた。牛カルビ、豚バラ、ホルモン…手当たり次第に肉を並べていく。
「何をする気だ?」
クリムゾンが眉をひそめる。
「ただの、おもてなしです」
私は微笑んだ。
数分後、店内は焼き肉の煙と脂の香りで充満した。クリムゾンの顔色が変わり始める。
「これは…貴様ら…」
「父上、人間は弱くありません。彼らには知恵があります」
レインも私と一緒に焼き台を囲み、次々と肉を焼いていく。彼も苦しそうだが、それでも立ち向かう覚悟を決めていた。
クリムゾンが膝をつく。彼の背後には、窓から見える街の風景。既に多くの吸血鬼たちが集まっていた。
「今だ!」
私の合図で、両親と常連客たちが裏口から入ってきた。彼らは全員、焼き肉の煙を充満させた携帯噴霧器を持っていた。
「町内の全ての焼き肉屋さんに協力してもらったよ」
父が言った。
「みんな、町を守るために立ち上がったんだ」
☆夜明けの約束☆
戦いは一晩中続いた。
クリムゾンは弱体化しながらも、なお強大な力を持っていた。しかし、町の人々の団結と、焼き肉の香りの力は、吸血鬼たちを次第に追い詰めていった。
夜明け前、瀕死のクリムゾンはレインを見つめた。
「なぜ…人間などに…」
「彼らには、私たちにはない暖かさがあるから」
レインは私の方を見た。その目には、もう赤い光はなかった。人間に近い、優しい茶色の瞳だった。
「父上、もう十分です。これ以上の犠牲は避けましょう」
日の出とともに、クリムゾンとその部下たちは撤退した。吸血鬼たちは日光を避けるため、街から去らざるを得なかったのだ。
「本当に去ったの?」
私はレインに尋ねた。
「ああ。だが、完全に諦めたわけではないだろう。いつかまた来るかもしれない」
「その時は、また焼き肉パワーで迎え撃つよ」
レインは笑った。初めて見る、心からの笑顔だった。
朝日が昇る中、「カルニヴォア」の前で、私たちは新たな決意を抱いた。人間と吸血鬼が共存できる未来のために。
そして私は決めた——大学で栄養学を学び、吸血鬼たちが人間の血に頼らずに生きられる代替食の研究をしようと。
「美和…」
「なに?」
「ありがとう。君がいなければ、俺は永遠に闇の中にいた」
レインの手は、もう冷たくなかった。
夜明けの光の中で、「カルニヴォア」の娘と吸血鬼の王子は、新たな物語の一歩を踏み出そうとしていた。
プロンプト
「『イケメン吸血鬼に助けられた焼き肉屋の娘である私が吸血鬼だらけになった街を駆け回るがどうやら、やつらの王とイケメンは親子関係らしい。とりあえず、実家の焼き肉屋に逃げ込んで反撃を試みる』。このタイトルを元にシリアス怪奇ライトノベルコメディ短編小説を書きましょう。」