『吸血鬼に襲われたら、キャバクラへ逃げ込め!!!』~半端ないTAX(消費税+サービス料)~
夜の新宿、午前1時。
会社の飲み会から解放された私は、ふらふらと駅に向かって歩いていた。37歳、独身。いわゆる「イケおじ」と呼ばれる年齢だが、実際のところ「イケ」てはいない。最近は若手社員からも「青山さん」と呼ばれるようになり、年齢を感じる日々だ。
「ふぅ」
溜息をつきながら、暗い路地を抜けようとした時だった。
「こんばんは、おじさん」
振り向くと、見知らぬ男が立っていた。黒いスーツに身を包み、180センチを超える長身。整った顔立ちに、不自然なほど白い肌。一瞬で分かった。こいつは普通の人間ではない。
「私に何か用か?」
男は口元を歪めて笑った。その瞬間、鋭い犬歯が月明かりに反射して光った。
「ええ、あなたの血にね」
吸血鬼だ。マジかよ。都市伝説とか、映画の中の存在だと思っていたのに。
「ところで、ゲームをしませんか?」
吸血鬼は紳士的な口調で言った。
「ゲーム?」
「そう、鬼ごっこです。私があなたを追いかけます。朝日が昇るまで捕まらなければ、あなたの勝ち。捕まったら...」
言葉を濁した吸血鬼は、再び不気味な笑みを浮かべた。答えなくても分かる。捕まったら血を吸われる。死ぬか、最悪の場合は仲間にされる。
「逃げる気がないなら、今すぐここで決着をつけても構いませんよ?」
逃げるしかない。
「じゃあ、やろうじゃないか」
その言葉を合図に、私は全力で走り出した。
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「くそっ!」
30分以上走り回っているが、背後の気配が消えない。時々振り返ると、吸血鬼がゆっくりと歩いているのが見える。走っている私と歩いている吸血鬼の距離が縮まらないのはおかしい。
超常的な速さで移動しているのか、それとも分身の術でも使っているのか。
頭の中で吸血鬼の弱点を思い出そうとした。日光、ニンニク、十字架、流れ水...どれも今すぐ手に入らない。
「まだまだ余裕ですよ、おじさん」
背後から聞こえる余裕な声に焦りが募る。このままじゃ確実に捕まる。
ふと、目の前に輝くネオンサインが目に入った。
「キャバクラ プリンセス」
そうだ!吸血鬼には「招かれなければ入れない」という弱点がある。民家に逃げ込むわけにもいかないし、こんな時間に開いている公共施設もない。でも、キャバクラなら...
「へへ」
思わず笑みがこぼれた。そして迷わず店内に駆け込んだ。
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「いらっしゃいませ!」
店内に入ると、派手なドレスを着たホステスたちが出迎えてくれた。
「あの、すみません。誰かに追われていて...」
事情を説明する暇もない。すでに入り口に吸血鬼の姿が見えた。
「あら、イケメンねぇ」
ホステスの一人が吸血鬼に気づき、色めき立った。
「お連れ様ですか?」
「いや、違う!あいつは吸血鬼で...」
必死に説明しようとするが、誰も信じない様子。そりゃそうだ。吸血鬼なんていない世界だと思って生きてきたんだから。
入り口で店長らしき男性が吸血鬼と話している。
「いらっしゃいませ。ご予約は?」
「いいえ、友人を追ってきただけです」
「そうですか。では、ご入店されますか?システム料金は6,000円、その後30分ごとに4,000円、別途消費税とサービス料が...」
吸血鬼が困惑した表情を浮かべている。
「招かれなければ入れない」という弱点はあるが、招かれても「システム料金を払いたくない」という現代的な障壁(お金)がある。しかも「消費税+サービス料」というダブルパンチ。
「あの、友人と少し話すだけなのですが...」
「申し訳ありませんが、当店はご入店いただかないとお客様とのお話はできません」
店長の毅然とした態度に、吸血鬼は明らかに動揺している。
「わかりました。では入店します」
予想外の展開に驚いたが、これで少なくとも時間は稼げる。
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「あなた、友達があんなにカッコいいなんて言わなかったじゃない」
ミカという名のホステスが私の隣に座り、甘い香水の匂いを漂わせている。対面には吸血鬼が座り、明らかに居心地の悪そうな表情を浮かべている。
「彼は友達じゃなくて...」
説明するのを諦めた。どうせ信じてもらえない。
「お名前は?」ミカが吸血鬼に尋ねた。
「ヴラド」
「素敵なお名前ですね。外国の方?」
「まあ、そんなところだ」
会話は意外にも普通に進んでいく。ホステスたちは吸血鬼の白い肌と整った顔立ちに夢中になっている。
「ヴラドさんは何のお仕事を?」
「血液関係です」
「医者ですか?すごーい!」
誤解されているが、吸血鬼も否定しない。
時計を見ると、午前3時。あと3時間ほど持ちこたえれば朝になる。
「ところで青山さん、」
ヴラドが私に話しかけた。
「まさかキャバクラに逃げ込むとは思いませんでした。賢い選択です」
「ありがとう。でも勝ったのはまだこっちだ」
「そうですね。しかし問題が一つ。」
ヴラドはにやりと笑った。
「このお店、朝8時まで営業しているんですよ…朝キャバというやつですよ」
血の気が引いた。確かに一部のキャバクラは朝まで営業している。日の出前に外に出されることはない。
「それに、」
彼は小声で続けた。
「あなたのお財布の中身で何時間持つと思います?」
チラリとテーブルの上の伝票を見た。すでに2万円を超えている。
「くそっ...」
詰んだか。
そのとき、店内のスピーカーから店長の声が響いた。
「お客様にお知らせします。本日は特別イベントとして、日の出サービスを行います。朝7時まで滞在されたお客様は、屋上テラスで朝日を拝みながらのモーニングサービスを無料でご提供いたします」
ヴラドの表情が強張った。
「なんて日に...」
「残念だったな、ヴラド。このイベント、知ってたんだよ」
実際は全く知らなかったが、強がりを見せた。
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「お時間です、お客様」
午前6時45分、店のスタッフが声をかけてきた。
「屋上テラスへどうぞ」
ヴラドは明らかに焦っている。
「実は体調が悪くて...」
「あら、せっかくのイベントですよ?」
ミカが腕を引っ張る。
「朝日を見ながらのシャンパン、素敵じゃないですか」
逃げ場はない。他のホステスたちも加わり、嫌がるヴラドを囲んで屋上へと連れていく。
「君の勝ちだ」
ヴラドは私に小声で言った。
「まさか招かれざる客になるだけでなく、タックスまで払わされて、最後は日光浴まで強制されるとは...」
屋上に出ると、東の空がうっすらと明るくなり始めていた。
「素敵ですね」
ミカが空を見上げる。
ヴラドは入り口付近に留まり、日が昇る方向から最も遠い場所を選んだ。
そして、最初の日の光が地平線から顔を出した瞬間。
「すみません、緊急の用事を思い出しました」
ヴラドはそう言うや否や、階段へと駆け込んでいった。
「あら、残念」
ミカが肩をすくめる。
「いいんだ」
私は微笑んだ。
「彼はね、日光浴が苦手なんだよ」
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翌日の夜。
「青山さん、賢い選択でした」
後ろから声がした。振り返ると、ヴラドが立っていた。
「今夜は鬼ごっこはないの?」
「ルールは守ります。あなたの勝ちでした」彼は紳士的に頭を下げた。
「しかし、次回は違いますよ」
「次回?」
「ええ。今度は私があなたを招待します。ただし、タックスは取りませんよ」
彼はそう言うと、闇の中へと消えていった。
私は苦笑いしながら帰路についた。吸血鬼の誘いに乗るつもりはないが、キャバクラの請求書は現実の恐怖として財布の中に残っていた。
恐ろしいのは吸血鬼か、それとも「消費税+サービス料」か。答えは明白だった。
プロンプト
「『吸血鬼に襲われたら、キャバクラへ逃げ込め!!!』~半端ないTAX(消費税+サービス料)~。場所は東京、夜中にイケおじ吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あそこしかない。そうキャバクラだ。このプロットを元にシリアスドタバタコメディ短編小説を書きましょう。」