『三馬鹿に襲われたらSamba Carnival !!!』
ブラジルの夜は暗く、そして熱い。
リオデジャネイロに来て三日目、私はまだ時差ボケが抜けないまま夜の街を歩いていた。コパカバーナの喧騒から少し離れた路地は、思ったより人通りが少ない。スマホの地図アプリを確認すると、どうやら宿へのショートカットを選んだつもりが、とんでもない遠回りになっていたようだ。
「あぁ、なんてこった」
溜息をつきながら引き返そうとした時だった。
「おい、日本人!」
振り返ると、日本語で話しかけてきたのは三人の男たち。真っ白な肌に、艶やかな黒髪。彼らの目は赤く光り、口元からは鋭い犬歯が覗いていた。
「夜道は危ないね。特に、君のような美味しそうな血を持つ人間にとっては」
リーダー格らしき長身の男が、唇を舐めながら言った。
「吸血鬼...?冗談でしょ?」
私の言葉に、三人は高らかに笑った。
「『冗談でしょ?』だって!ハハハ!本物の吸血鬼を前にして、なんて失礼な」
「でも今夜は気分がいい。だから君にチャンスをやろう」
中央の男が言った。
「鬼ごっこだ。朝まで捕まらなければ、君の勝ち。捕まったら...まあ、想像つくよね?」
心臓が早鐘を打つ。これは現実なのか?でも彼らの異様な雰囲気は、確かに人間のものではない。
「逃げるなら、今のうちだよ」
末の男が微笑んだ。
「カウントダウンを始めるよ。10...9...」
私は反射的に走り出した。
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路地から路地へ、人混みの中へ、そしてまた暗い路地へ。
「吸血鬼の弱点は...日光!」
そう、朝までもつことができれば勝ちだ。でも、それまであと6時間。体力的に持つだろうか?
「あ、見つけたよ〜」
背後から聞こえる甘ったるい声。振り返ると、さっきの三人が路地の入り口に立っていた。
「こんなに早く見つかるなんて、つまらないなぁ」
再び全力で走る。
「吸血鬼の弱点...他に何があったっけ?」
頭の中で必死に情報を引っ張り出す。にんにく?十字架?銀の弾丸?でも今の私にそんなものはない。
逃げ惑ううち、私は街の中心部へと出た。そこでは何やら騒がしい音楽が聞こえる。人々は熱狂し、踊っている。
「サンバカーニバルの練習か...」
そうだ!突然ひらめいた。
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「おーい、どこに行ったの?」
三人の吸血鬼たちは私を追って大通りに出た。しかし、そこで彼らは驚愕の表情を浮かべる。
目の前には、カラフルな衣装を身にまとい、リズミカルに体を揺らす踊り子たちの波。そして、その中心にいるのは...
「みんな聞いて!この人たちは本物の吸血鬼なんだって!特別ゲストだよ!」
私は叫んだ。踊り子たちが一斉に吸血鬼たちを取り囲み、歓声を上げる。
「ヴァンパイア!セクシー!」
「カッコいい!」
「本物みたい!」
吸血鬼たちは困惑した表情を浮かべる。
「ちょっと、やめてくれ...」
リーダー格の男が言いかけたが、すでに遅い。
「サンバ!サンバ!サンバ!」
熱狂的な音楽が鳴り響き、踊り子たちは彼らの手を引いて踊りの輪に誘い込む。
「わ、我々は吸血鬼だぞ!恐れるんだ!」
だが誰も彼らの言葉に耳を貸さない。むしろ、その奇妙な発言が演技の一部だと思われ、さらに歓声が上がる。
太鼓のリズムが加速し、体が自然と動き出す。
「一緒に踊りましょう、吸血鬼さん!」
華やかな衣装の女性が吸血鬼のリーダーの腰に鮮やかなサンバのスカーフを巻き付けた。
「これは...」
戸惑いながらも、彼の体はリズムに反応し始める。
「やめろ、バルトロメオ!彼らの罠だ!」
しかし、すでに三人のうち二人は踊りの渦に飲み込まれていた。
「サンバの血が騒ぐぜ...」
最初は抵抗していた吸血鬼たちだが、リズムに身を委ねるとたちまち表情が変わる。彼らの動きは次第に大胆になり、踊り子たちと見事なハーモニーを作り出していく。
私はその光景をニヤリと笑いながら見つめていた。
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朝日が昇り始めた頃、疲れ果てた吸血鬼たちは路地の隅で肩を寄せ合っていた。
「一晩中...踊りっぱなしだった...」
「あんなに踊ったのは300年の人生で初めてだ...」
「でも...楽しかったな...」
吸血鬼たちの顔には、不思議な満足感が浮かんでいた。
「あ、もう日が昇るね」
私は指を指しながら言った。
「鬼ごっこ、私の勝ちかな?」
三人は顔を見合わせ、苦笑した。
「確かに...君の勝ちだ」
リーダーの吸血鬼が言った。
「まさか、サンバで吸血欲を忘れさせられるとは...」
「三馬鹿に襲われたら、Samba Carnival!」
私はウインクしながら言った。
「次はぜひ、正式なカーニバルで踊りましょう。その代わり、人間は食べないでね」
吸血鬼たちは笑いながら、朝日を避けて暗い下水道へと消えていった。
彼らがまたサンバのリズムに現れる日を、私は少し楽しみにしている。
プロンプト
「『三馬鹿に襲われたらSamba Carnival !!!』。場所はブラジル、夜中に3人の吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼たちは私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あそこしかない。そうサンバカーニバルだ。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」