『オカルト電波系美少女ヴァンパイア?の対処法』
「知ってるか、最近夜中に色白な美少女に追いかけられる事案が増えているって、しかもそれが吸血鬼だって」
教室の隅で、クラスの陰キャラ代表・佐藤がいつものように都市伝説トークを展開していた。周りには好奇心から集まった少数の生徒たち。俺は離れた席から、鼻で笑いながら耳を傾けていた。
(そんなバカな話、あるわけないだろう)
俺は山田拓也。都市伝説なんて信じない、現実主義者だ。UFOも幽霊も吸血鬼も、科学で説明できないものは存在しない。そう思っていた、あの夜まで。
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終電を逃した。六本木から自宅のある中野まで、歩いて帰るしかない。携帯の電池も切れ、タクシーを拾う手段もない。深夜の東京の街を、俺は足早に歩いていた。
「うふふふ」
後ろから、妙に可愛らしい笑い声。振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。月光の下で輝くような白い肌。薔薇の花びらのように赤い唇。漆黒の髪は腰まで流れ、真紅のレースのドレスを身にまとっていた。その姿は、まるで人形のように完璧で、この世のものとは思えないほどの美しさだった。
「こんばんは、お兄さん」
彼女の声は、小さな銀の鈴を鳴らしたような、透明感のある響きだった。目は宝石のように輝き、俺をじっと見つめている。
(なんて美しい子だろう...でも、こんな時間に一人で?)
「あの、こんな夜遅くに一人で危ないよ」
「危ないのはお兄さんの方かもしれないわ」
彼女は小さく微笑んだ。
「アタシ、吸血鬼なの」
その言葉と共に、彼女はくすくすと笑い、白い歯の間から覗く二本の小さな牙を見せた。どこか愛らしいそのしぐさに、恐怖よりも魅了される自分がいた。
「ねえ、ちょっとゲームをしない?鬼ごっこよ。アタシが鬼で、お兄さんが逃げる。朝日が昇るまで逃げ切れたら、お兄さんの勝ち。ワタシの負けよ」
彼女の声は甘く、まるでキャンディのように誘惑的だった。
「いや、冗談でしょ?」
「冗談じゃないわ。3秒あげるから、走り出して。3、2、1...」
俺は彼女の真剣な表情に、反射的に走り出した。
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30分後、俺は代々木公園の茂みに隠れていた。彼女をまいたと思ったのに、不意に甘い香りと共に彼女の声が聞こえた。
「かくれんぼ上手ね、お兄さん」
(どうやって見つけたんだ?)
「ワタシは吸血鬼よ。あなたの心臓の鼓動が聞こえる。匂いもわかるの」
彼女は茂みの外から語りかけてきた。声は楽しそうで、まるで本当に鬼ごっこを楽しんでいるようだった。
「逃げるのはもう諦めた方がいいわ。さあ、おいでおいで」
俺は頭を巡らせた。吸血鬼の弱点。日光、ニンニク、十字架...とにかく朝日が昇るまで6時間。どうにか時間を稼がないと。
その時、彼女がドレスのポケットから何かを取り出した。アルミホイルだった。そして器用に折りたたみ、小さな冠のように頭に乗せた。
「うふふふ、いけない。これを着けないと国から監視されてしまうわ」
俺はゾッとした。
(もしかして、コイツ電波系?)
「彼らは常にワタシたちを見ているの。電波で。マインドコントロールしようとしているの。でもこれがあれば安全よ」
アルミホイルの小さな冠をかぶった吸血鬼少女。彼女は真剣な顔で語り続けた。瞳は大きく、表情は生き生きとしていて、どこか子供のような無邪気さがあった。
「実はね、吸血鬼も政府に監視されているのよ。我々は特殊な存在だからね。でも、これさえあれば...」
彼女はアルミホイルの冠を誇らしげに指さした。その仕草があまりにも愛らしく、思わず笑みがこぼれた。
(なんだこの子。可愛すぎるだろ)
俺は茂みから出て、彼女に直接尋ねた。
「あの、本当に吸血鬼なの?」
「もちろん!」
彼女はくるりと一回転した。
「152年生きてるわ。まだ若い方だけど、ドラキュラ伯爵のパーティーにも招待されたことがあるのよ」
「でも...アルミホイルの冠って...」
「これは最新ファッションよ。ヨーロッパの吸血鬼たちの間で流行っているの。電波防止と同時に、UVカットにもなるのよ」
彼女は小さな手で冠を調整しながら言った。
(完全に頭がおかしい...けど、なんて愛らしいんだ)
「そうなんだ...ところで、本当に血を吸うの?」
彼女は少し恥ずかしそうに頬を赤らめた。その表情があまりにも人間らしく、魅力的だった。
「実は...最近は人工血液を使っているの。医療用の。本物の血液は栄養価が高すぎてカロリーオーバーになるからね。現代の吸血鬼は美容と健康に気を使うものなのよ」
俺は段々と混乱してきた。これは本物の吸血鬼なのか、それともただの変わった美少女なのか。
「あの、もう帰っていい?」
「え?まだ鬼ごっこの途中よ?」
彼女は驚いた顔をした。大きな瞳に月明かりが反射して、さらに美しく見えた。
「朝日まであと5時間もあるわ」
「正直、もうめんどくさいんだ」
彼女は傷ついたような、少し寂しそうな表情をした。
「そんな...現代の若者は遊び心がないのね。ワタシの時代は鬼ごっこと言えば命がけだったのに...」
(いや、それただの犯罪だろ)
「じゃあ、せめて一緒にラーメンでも食べに行かない?この近くに24時間営業の店があるわよ」
彼女は突然明るい笑顔に戻った。
状況が完全に意味不明になってきた。
「吸血鬼ってラーメン食べるの?」
「もちろん!豚骨は鉄分が豊富だからね。吸血鬼の隠れた栄養源なのよ」
彼女は指をクルクルと回しながら説明した。その動きには、どこか古風な優雅さがあった。
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結局、俺たちは朝までラーメン屋で吸血鬼トークを続けることになった。彼女の名前は菊池鈴。自称152歳の吸血鬼だが、バッグから取り出した学生証を見ると、都内の某有名美術大学に通う19歳の女子大生だった。
真夜中に優雅なドレスを着て、アルミホイルの冠をかぶり、吸血鬼のコスプレをして若者を驚かせるのが趣味らしい。
「現実は辛いからね。たまには非現実に浸りたいの」
彼女の言葉に、少し共感してしまった俺。店内の蛍光灯の下でも、彼女の美しさは際立っていた。ラーメンを食べる姿も上品で、箸の使い方には昔ながらの作法が感じられた。
朝日が昇り、彼女はパフォーマンスとして「あ〜、日の光だ〜、溶けるぅ〜」と演技した後、普通に「今日はデッサンの授業があるの」と言って去っていった。
その後ろ姿は、朝日に照らされて輝いていた。
後日、クラスメイトたちに「美しい吸血鬼と会った」と話したが、誰も信じてくれなかった。ただ一人、佐藤だけが目を輝かせて聞いてくれた。
「その吸血鬼、アルミホイルの冠をかぶってたって?」
「うん」
「やっぱり!政府の監視から身を守ってたんだ!これって都市伝説「アルミホイル・ヴァンパイア・プリンセス」の特徴と一致する!」
俺は溜息をついた。後にも先にも、この奇妙な夜の出来事を本当に理解してくれたのは、クラスの都市伝説オタクだけだった。
世の中には、科学では説明できないことがある。それは超常現象ではなく、単に人間の孤独と妄想が生み出した、奇妙で美しい現実なのかもしれない。
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翌週、俺は深夜の六本木で再び彼女を見かけた。今度は宇宙人の格好をして、外国人観光客を驚かせていた。アルミホイルのアンテナをつけた彼女は、どこか滑稽でありながらも、やはり美しかった。
一瞬、目が合った。彼女はにっこりと微笑み、小さく手を振った。
(まぁ、彼女なりの生き方か)
俺も微笑み返して通り過ぎた。この街には、それぞれの夜と、それぞれの美しさがあるのだ。
プロンプト
「『オカルト系ヴァンパイアの対処法』。「知ってるか、最近夜中に色白な男に追いかけられる事案が増えているって、しかもそれが吸血鬼だって」。学生たちが都市伝説を話している。(そんなバカな話ないだろう)。場所は東京、その夜、吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。そのとき、吸血鬼はアルミホイルの帽子を着けた。「うふふふ、いけないこれを着けなくては国から監視されてしまう」。私はゾッとする。(もしかして、コイツ電波系)。このプロットを元にシニカルコメディ短編小説を書きましょう。」