「怪奇事件ファイル『連続焼き肉屋前貧血死事件』」
「どういうことだぁ!」
刑事の大川は、ファイルを執務机に投げつけながら吠えた。特に理由はない。ただ吠えたかっただけだ。
「もう五人目だぞ、加藤!五人目!全員血を抜かれて死んでいる!犯人は何者だ!」
加藤巡査は、大川刑事の無駄な熱量に慣れていた。彼は静かに地図を広げ、赤いピンで事件現場を示していく。
「大川さん...気づきましたか?」
「何に気づくんだ、加藤?」
「すべての被害者が...焼き肉屋の前で発見されています」
大川の目が見開いた。彼は立ち上がり、地図に近づいた。確かに、すべての赤いピンは焼き肉屋を示していた。
「でかした、加藤!これは...」
大川は劇的な間を置いた。
「都内の焼き肉屋店主が容疑者だ!その中でも被害者が発見された目の前の店!!その店主が怪しい!!!」
「え?」
加藤は眉をひそめた。
「どういう理屈ですか?」
大川は得意げに説明を始めた。
「経緯はこうだ!他の焼き肉屋の評判を下げるために変死をさせて競合する焼き肉屋の営業を妨害する。完璧な計画だ!」
加藤は頭を抱えた。
「でも大川さん、それだと自分の店の前で殺人を起こす理由になりませんよ」
「そこがミソだ!」
大川は机を叩いた。
「自分の店の前で起こせば、疑われないと思ったんだ!」
「でも、それじゃあ自分の店の評判も下がりますよね...」
「いいか、加藤。犯罪者の心理は複雑だ。我々は常識で考えてはいけない」
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翌日、大川と加藤は最新の被害者が発見された「炭火焼肉 大将」の前に立っていた。
「どうも、刑事さん」
店主の佐藤は深刻な表情で頭を下げた。
「うちの店の前でこんなことが起きて...客足が遠のいて大変です」
大川は佐藤をじっと見つめた。
「佐藤さん、あなたは競合他社に恨みを持っていませんか?」
「は?」
「他の焼き肉屋を潰したいという欲求はありませんか?」
佐藤は困惑した。
「いえ、まったく...むしろ同業者とは仲良くしていますが」
「アリバイはありますか?昨夜8時から11時の間は?」
「自分の店で働いていましたよ。30人以上のお客さんが証言してくれますが」
大川は不満そうに舌打ちした。
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署に戻ると、課長の机の上に新しい資料が置かれていた。
「大川、加藤。新しい情報だ」
課長は言った。
「すべての被害者の胸元に、小さな刺し傷が二つ見つかった。まるで...」
「吸血鬼ですか?」
加藤が言った。
大川は笑った。
「冗談じゃない。吸血鬼なんているわけがないだろう」
「でも証拠は...」
「加藤、現実を見ろ!これは明らかに焼き肉屋同士の抗争だ!」
課長はため息をついた。
「『大川、君の理論には穴がありすぎる。すべての被害者は夕食を食べる前に死んでいるんだ。検死結果では全員の腹の中は空っぽ。焼肉はもちろん、ニンニクも一切なかったぞ。金を払った満腹の客を襲うってのが普通じゃないのか。』って検視官も言ってたぞ」
「ニンニク...」
加藤がつぶやいた。
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三日後、大川と加藤は張り込みをしていた。今夜も焼き肉屋の前で事件が起きるという匿名の情報が入ったのだ。
「大川さん、ちょっと考えてみたんですが」
加藤は口を開いた。
「もし犯人が本当に吸血鬼だとして...」
「またその話か」
大川は呆れた。
「いえ、聞いてください。民間伝承では、吸血鬼はニンニクが苦手だとされています。そして被害者はニンニクを摂取していなかった。もし吸血鬼が都内に住んでいて、食料である人間の血を求めているとしたら...」
「ばかばかしい」
「でも考えてみてください。焼き肉屋の客はニンニク臭いので吸血鬼は近づけません。だから、彼らは焼き肉屋の前で待ち伏せして、帰宅途中で食事前のニンニク臭くない人々を襲っているんじゃないでしょうか」
大川は笑い出した。
「加藤、君はー」
その時、悲鳴が聞こえた。二人は飛び出して、暗闇の中に消えていく黒い影を見た。地面には青白い顔の男が倒れていた。
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捜査は難航した。大川の「焼き肉屋抗争説」は完全に行き詰まり、加藤の「吸血鬼説」は誰も真剣に取り合わなかった。
一週間後、大川と加藤は夜の公園のベンチに座っていた。
「失敗だ...」
大川はつぶやいた。
「俺の推理が間違っていたのか...」
「大川さん、あきらめないでください」
加藤は励ました。
「まだ解決できますよ」
その時、不思議な風が吹いた。二人の前に、優雅な身なりの男女が現れた。彼らの肌は青白く、唇は不自然な赤さだった。
「ついに会えましたね、刑事さん」
女性が微笑んだ。その笑顔に、鋭い犬歯が見えた。
「お前たちは...」
大川は立ち上がった。
「そう、私たちが犯人です」
男性が優雅に一礼した。
「あなたの同僚の推理は正確でしたよ」
加藤は震えながらも勝ち誇った表情を浮かべた。
「なぜ...」
大川は言葉を失った。
「単純です」
女性が言った。
「街から焼き肉屋が無くなれば、我々から逃げるすべはなくなる」
「人間たちがニンニク臭くなくなれば、我々は自由に獲物を選べるのです」
男性が高笑いした。
大川は絶句した。彼の理論は完全に間違っていた。焼き肉屋は被害者ではなく、無意識の守護者だったのだ。
「さあ、刑事さん」
女性が手を差し伸べた。
「あなたたちも我々の仲間になりませんか?永遠の命と引き換えに」
大川は後ずさりした。
「加藤、走るぞ!」
「どこへ?」
加藤は尋ねた。
「焼き肉屋だ!」
二人は走り出した。後ろから吸血鬼たちの笑い声が追いかけてくる。
「走れ!走れ!焼き肉を食べに行くんだ!」
「大川さん、本当に申し訳ありません」
加藤は走りながら謝った。
「僕の推理が正しかったなんて」
「今はそんなことより、とにかく生きるんだ!そして...」
大川は顔を赤らめた。
「お前の推理、見直したぞ」
背後では吸血鬼たちが高笑いを続けていた。
「逃げても無駄よ!いつか焼き肉屋は無くなる!そうしたら...我々の時代が来るのよ!」
大川と加藤は走り続けた。焼き肉の匂いを頼りに、命からがら逃げながら。
プロンプト
「「怪奇事件ファイル『連続焼き肉屋前貧血死事件』」。都内某所にてある事件が立て続けに起きていた。被害者は全員青白い顔で体内の血を抜かれて死んでいた。「どういうことだ!」。刑事の大川は吠える。意味もなく吠える。「これは…」。部下があることに気が付く。「大川さん…すべて焼き肉屋の前で起きています」。「でかした!これは…都内の…焼き肉屋店主が容疑者だ」。大川は大げさに言う。「経緯はこうだ!他の焼き肉屋の評判を下げるために変死をさせて競合する焼き肉屋の営業を妨害する」。机上の空論を展開する。三現主義なにそれおいしいのだ。このプロットを元にシリアスサスペンスコメディ短編小説を書きましょう。的外れな推理をする刑事の掛け合いがポイントです。最後は吸血鬼たちが「街から焼き肉屋が無くなれば、我々から逃げるすべはなくなる」と高笑いする。どっちもなんか違う気がする。」