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『吸血鬼に襲われたら宇都宮に向かえ!!!』

 

 その日、俺は終電を逃した。


 渋谷の雑踏から抜け出し、人気のない裏通りを歩いていたとき、背後から聞こえたのは軽やかな靴音だった。振り返ると、月明かりに照らされた白い顔。血のように赤い唇。そして、思わず息を呑むほど完璧な身のこなし。


「こんばんは」


 彼は微笑んだ。その笑顔に覗く白い牙。


「少し、遊びませんか?」


 吸血鬼だった。マジで。


「遊び?」


 俺は思わず聞き返した。


「簡単なゲームです。鬼ごっこ。朝日が昇るまで私から逃げ切れたら、あなたの勝ち。捕まえたら...」


 彼は舌なめずりをした。


「私の勝ちです」


 絶体絶命とはこのことか。しかし、こうなったら考えるしかない。吸血鬼の弱点は何だ?日光、ニンニク、十字架...持ってるわけないだろ、普通。


「逃げ場所はどこでも構いません。ただし、東京都内に限ります」


 彼は優雅にお辞儀をした。


「さあ、10秒差し上げましょう。10、9...」


 俺は走った。全力で。


 ---


「タクシー!」


 幸い、空車が通りかかった。


「どちらまで?」


「宇都宮!急いでください!」


 運転手は眉をひそめた。


「宇都宮ですか?栃木県の?それなら高速使っても2時間はかかりますよ」


「構いません!お願いします!」


 タクシーは発進した。バックミラーを見ると、吸血鬼が微笑みながら手を振っている。まるで「どこへ行っても無駄ですよ」と言わんばかりに。


「急いでるみたいですね」


 運転手が話しかけてきた。


「宇都宮に何かあるんですか?」


「餃子です」


「え?」


「餃子が必要なんです」


 運転手は信号で止まりながら、不思議そうな顔でバックミラー越しに俺を見た。


「深夜に宇都宮まで餃子を食べに行くんですか?」


「食べに行くんじゃない」


 俺は真剣な顔で言った。


「吸血鬼退治に行くんだ」


 運転手の表情が固まった。


「...お客さん、冗談はやめてください」


「冗談じゃない。あいつは確実に追ってくる。でも、宇都宮なら...」


 その時、タクシーの屋根が軽く揺れた。何かが上に乗ったような感覚。


 運転手が空を見上げた。


「今、何か...」


「速度上げてください!」


 俺は叫んだ。


 タクシーが加速する。しかし遅すじめ。窓ガラスを叩く音。そして、窓の外にはあの白い顔。吸血鬼は車の横にぴったりとくっついて走っていた。彼は指で窓ガラスに文字を書いた。


「ど・こ・へ・行・く・の?ルール違反だよ」


 運転手が悲鳴を上げる。タクシーが蛇行した。吸血鬼はくすくす笑いながら、車の屋根に飛び移った。


「なんだあれは!?」


 運転手が叫ぶ。


「警察を呼びます!」


「警察じゃダメだ!」


 俺は言った。


「宇都宮に行くしかない!」


「なぜ宇都宮なんですか!?」


「餃子の力が必要なんだ!」


 ---


 首都高速道路。夜の闇の中を走るタクシー。屋根の上では吸血鬼が楽しそうに口笛を吹いている。


「彼は...何者なんですか?」運転手の声が震えていた。


「吸血鬼です」


「冗談じゃなかったんですね...」


「ええ」


「で、なぜ宇都宮なんですか?餃子と吸血鬼に何の関係が?」


「ニンニクです」


 俺は真剣に答えた。


「宇都宮餃子には大量のニンニクが使われている。そして吸血鬼の弱点の一つがニンニク」


「でも、東京でもニンニクは手に入りますよね?」


「量が違う」


 俺は指を立てた。


「宇都宮はニンニクの街なんだ。オリオン通りの餃子店が密集する場所に行けば、空気中にニンニクが充満している。そこなら勝機がある」


「...本気ですか?」


「他に方法があるか?」


 俺は反論した。


「十字架も持ってないし、日の出まであと3時間もある。宇都宮餃子が最後の希望なんだ」


 運転手は半信半疑の表情で首を振った。


「わかりました。宇都宮へ向かいます」


 屋根の上の口笛が止まった。吸血鬼が顔を窓に押し付けて俺たちの会話を聞いていた。彼の表情に一瞬、不安の色が浮かんだようにも見えた。


 ---


 東北自動車道を北上すること約1時間半。


「もうすぐ宇都宮インターです」


 運転手が言った。


「ありがとうございます」


 俺は安堵のため息をついた。


「あとはオリオン通りまでお願いします」


 その時だった。激しい衝撃と共に、車が左右に揺れた。吸血鬼が全力で屋根を叩いている。


「彼、必死になってますね」


 運転手が言った。


「気づいたんだ。宇都宮の脅威に」


 タクシーがインターチェンジを降り、市街地へと向かう。吸血鬼の攻撃は激しさを増す。車体が軋む音。フロントガラスにヒビが入った。


「もうすぐです!」


 運転手が叫んだ。


「あれがオリオン通りです!」


 繁華街が見えてきた。深夜にもかかわらず、いくつかの餃子店はまだ営業している。その光景に、吸血鬼の動きが止まった。


 タクシーが停車する。俺はドアを開け、オリオン通りへと駆け込んだ。


 後ろを振り返ると、吸血鬼が車の上に立っていた。その表情には明らかな恐怖が浮かんでいる。


「来いよ!」


 俺は叫んだ。


「餃子の街、宇都宮で勝負だ!」


 吸血鬼はゆっくりと地面に降り立った。彼の鼻がピクリと動く。空気中に漂うニンニクの香り。何百万、何千万という餃子が焼かれてきた街の歴史が生み出した、目に見えないバリア。


「まさか...」


 彼は唇を引き結んだ。


「宇都宮に連れてこられるとは...」


「どうした?」


 俺は自信を取り戻して挑発した。


「鬼ごっこは続けないのか?」


 吸血鬼は一歩、二歩と後ずさりした。


「卑怯だぞ...」


 彼はつぶやいた。


「こんな場所に...」


「勝つためには手段を選ばない」


 俺は近くの餃子店から漂う香りを胸いっぱいに吸い込んだ。


「さあ、来いよ!」


 吸血鬼は俺と餃子店を交互に見た。そして...


「降参だ」


 彼はそう言って、深々と頭を下げた。


「な...何だって?」


「宇都宮の力には敵わない」


 吸血鬼は苦々しく言った。


「特にオリオン通りは、我々吸血鬼にとって最悪の場所だ。ニンニクの密度が高すぎる。これ以上近づけば、力が弱まる」


 勝った。俺は心の中でガッツポーズをした。


「だが」


 吸血鬼は人差し指を立てた。


「条件がある」


「条件?」


「私を餃子店に連れて行ってくれ」


「は?」


 彼は恥ずかしそうに視線を逸らした。


「実は...餃子が大好きなんだ」


 ---


 夜明け前の宇都宮。24時間営業の餃子店で、俺と吸血鬼は向かい合って座っていた。


「ニンニクは平気なの?」


 俺は不思議に思って聞いた。


 彼は焼き餃子を一つ口に運びながら答えた。


「弱点ではあるが、好きなものは好きだ。人間に例えるなら...アレルギーはあるが、それでも食べたい食べ物のようなものかな」


「へえ」


「それに」


 彼は続けた。


「君は賢かった。他の人間なら、十字架や日光を考えるだけだ。しかし君は違った。餃子の聖地、宇都宮に逃げるとは」


 俺たちは静かに餃子を食べ続けた。不思議な取引だった。鬼ごっこに勝った代わりに、吸血鬼に餃子をごちそうする。


「夜が明ける」


 彼は窓の外を見た。


「もうすぐ私は去らなければならない」


「東京に戻るの?」


「いいや」


 彼は首を振った。


「しばらく宇都宮に滞在しようと思う。餃子の研究のためにね」


「吸血は?」


「餃子があれば、しばらくは我慢できる」


 彼はウインクした。


 朝日が地平線から顔を出し始めた。吸血鬼は最後の餃子を口に入れ、満足げに立ち上がった。


「良い鬼ごっこだった」


 彼は手を差し出した。


「また会おう、賢い人間よ」


 俺はその手を握った。冷たいけれど、なぜか温かみを感じる手。


「次は前橋に行ってみるといい」


 俺は冗談めかして言った。


「こんにゃくを試してみるといいよ」


 吸血鬼は笑った。


「こんにゃく嚙み切れないから、遠慮しておく」


 彼は優雅に一礼すると、朝の薄明かりの中、宇都宮の街へと消えていった。


 俺は残りの餃子に醤油をつけながら考えた。血より濃いのは、時に餃子のタレなのかもしれない。


プロンプト

「『吸血鬼に襲われたら宇都宮に向かえ!!!』。場所は東京、夜中に吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保この証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あそこしかない。そう宇都宮だ。この吸血鬼をオリオン通りで討つのみだ。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」

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