『長期休みが欲しければ、吸血鬼に襲われろ』~プライベートの写真の流出~
「まじでアイドルってハードすぎ…長い休みもとれないし」
東京の真夜中、仕事を終えた大岩本ウィンカは溜息をつきながら歩いていた。二十歳になったばかりの彼女は、特に強い意志もなく「なんとなく」アイドルの道に進んだ。今では老舗のアイドルグループ「ギャラクシーハート」のメンバーとして活動している。
「握手会に、撮影に、レッスンに…休みの日も何かしらの仕事が入って、マジで息が詰まる」
ウィンカは細い路地を曲がりながら、自分の愚痴を吐き出していた。もともと目立ちたがり屋でもなく、ただ踊ることが好きだっただけなのに、今ではスケジュール表が真っ黒になるほど忙しい毎日。最後にまともな休みを取ったのはいつだっただろう?
「お嬢さん、息抜きでもされているのですか?」
突然背後から聞こえてきた声に、ウィンカは驚いて振り向いた。そこには黒いマントを身にまとった、青白い顔の男性が立っていた。整った顔立ちと人工的な美しさを持ち、その唇からは鋭い犬歯がのぞいている。
「え、あの…あなたは?」
「私は夜の住人です。あなたのような美しい方が、こんな夜更けに一人で歩いているのは危険ですよ」
男は微笑みながら一歩近づき、ウィンカは本能的に一歩後ずさった。都市伝説だと思っていた吸血鬼が、まさか目の前に現れるなんて。
「ゲームをしませんか?」
男は提案した。
「鬼ごっこです。私があなたを追いかけ、捕まえたら…少しだけ血を分けていただく。逃げ切れたら、あなたの勝ちということで」
ウィンカの頭の中で警報が鳴り響く。吸血鬼の弱点は何だっけ?そう、日光だ。朝までに逃げ切れば、勝てる。
「え、ちょ、待って!そんなのおかしい…!」
「では、始めましょうか?10秒数えますので、その間に逃げてください」
男が数え始める声を背に、ウィンカは全力で走り出した。寮に戻るには遠すぎる。近くに人の多い場所は?そうだ、歌舞伎町ならまだ人がたくさんいるはずだ。
「1、2、3…」
ハイヒールを脱ぎ捨て、素足で彼女は走る。スマートフォンのナビを確認しながら、歌舞伎町へと向かう最短ルートを探した。
「…10!行きますよ、お嬢さん」
背後から聞こえる声に、冷や汗が背中を流れる。振り返ると、吸血鬼は屋根の上を軽やかに飛び移りながら追いかけてきていた。
「ちょっと!そんなの反則じゃない!?」
叫びながらも、ウィンカは走り続けた。人通りの多い通りに出ると、少し安心感が生まれる。でも、朝まではまだ何時間もある。
「あれ、ギャラハの大岩本じゃない?」
「マジだ、何であんな格好で走ってんの?あれって彼氏?w」
「写真撮ろうぜ」
周囲の若者たちが彼女に気づき始めた。何人かはスマートフォンを取り出し、走るウィンカを撮影し始める。
(やばい…こんなところで撮られたら…)
だが、それよりも命が大事だ。ウィンカはさらに足を早め、人混みを掻き分けて逃げ続けた。しかし、背後の吸血鬼も着実に距離を詰めてくる。
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朝になって、何とか逃げ切ったウィンカは、自宅のアパートでスマートフォンのSNSをチェックしていた。そこには予想通り、昨夜の自分の姿が拡散されていた。
「アイドルが深夜に素足で逃走!?彼氏と鬼ごっこ?」
「大岩本ウィンカが夜の歌舞伎町で奇行」
「ギャラハメンバー、薬物の影響か?」
悪意に満ちた憶測や、事実無根の噂が広がっている。事務所からも何度も着信があるが、ウィンカはあえて無視していた。
「…いや待てよ。これは長期休暇のチャンスじゃない?」
突然、彼女の頭に閃きが走った。この騒動を逆手に取れば、少し休める可能性があるのではないか。吸血鬼のことを言えば信じられないだろうが、プライベートの写真が流出したという体で…
数時間後、ウィンカは事務所で頭を下げていた。
「申し訳ありません。プライベートの写真がSNSで投稿されて、ファンの皆様にご心配をおかけして…」
意味不明な謝罪と表面的な反省の弁を述べるウィンカ。事務所側も詳細は分からないまま、とりあえず謹慎処分を決定した。
「大岩本ウィンカは今回の件により、しばらくの間活動を自粛いたします」
公式発表が出ると、SNSはさらに騒然となった。しかし、ウィンカにとっては念願の長期休暇の始まりだった。
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一ヶ月後、実家で静養していたウィンカは、母親と一緒に夕食の買い物から帰る途中だった。
「久しぶりにゆっくりできて、本当に良かったわね」と母親が言う。
「うん、まだ謹慎中だし、もう少し休んでほかのメンバーのスキャンダルが出たら、どさくさに紛れて戻るつもり」
ウィンカは心から笑顔を浮かべた。この一ヶ月、思う存分眠り、好きな本を読み、久しぶりに友達と会うこともできた。「なんとなく」始めたアイドル活動だったが、休んでみると意外と自分に合っていたのかもしれないと、復帰への意欲も湧いてきていた。
「お嬢さんたち」
突然、見覚えのある声が聞こえた。振り向くと、そこには例の吸血鬼が立っていた。
「あなた!どうして…!」
「友人を連れてきましたよ」
吸血鬼の背後には、数十人の人影が見える。よく見ると、それはウィンカのファンたちだった。スマートフォンを構えて写真を撮る者、憎悪の目で彼女を見つめる者、様々だ。
「実はあの夜から、私はあなたのファンになりました。そして、あなたが私から逃げた様子をSNSに投稿したのは、この私。おかげで、あなたの休養と、私の新たな下僕獲得という、お互いのWin-Winが実現しました」
吸血鬼は嗜虐的な笑みを浮かべる。
「そして今夜は、あなたの血を少しだけいただく約束の日です」
吸血鬼が一歩近づくと、ファンたちも一斉に動き出した。彼らの目は異様に輝き、皆が長い犬歯を見せている。ウィンカは恐怖で震え、母親の手を強く握る。
「あの夜、私はあなたを追いかけながら、多くのファンたちに血を分け与えました。今や彼らも皆、私たちの仲間です」
ウィンカと母親は後ずさるが、吸血鬼たちはゆっくりと近づいてくる。逃げ道はない。
スマートフォンのフラッシュが光る中、SNSには新たな投稿が拡散されていく。
「謹慎中のアイドル、実家で母親と優雅な生活!?」
「大岩本ウィンカ、謹慎をバカにする態度に炎上必至」
翌日の朝刊には、「元アイドルと母親、謎の集団襲撃で行方不明に」という小さな記事が載るだけだった。
プロンプト
「『長期休みが欲しければ、吸血鬼に襲われろ』~プライベートの写真の流出~。場所は東京。「まじでアイドルってハードすぎ…長い休みもとれないし」。なんとなくアイドルになった私こと大岩本ウィンカ。「」お嬢さん、息抜きでも」。振り向くと…夜中に吸血鬼と遭遇した。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局逃げるしかない。必死で逃げるが、一般人にガン見される。SNSを見ると、その様子が拡散されている。「やば、プライベートの写真が」。とりあえず、逃げきれたがSNSでこれが炎上していた。「…いや待てよ。これは長期休暇のチャンス」。私はとりあえず、プライベートの写真が流出したという体で悔しいですという意味不明なお気持ち表明と表面的な中身のない謝罪をして、謹慎という名の長期休暇を手に入れた。お母さんと長期休暇を楽しんでいた。「お嬢さんたち」。振り向くと奴がいた。そうファンだ。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。オチはバッドエンドでお願いします。」