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『地獄の貴公子』

 

 夜の練習場に響く靴音が、私の魂を震わせる。窓から差し込む月明かりが、床に十字を描いている。


「おら!もっと腰を入れろ!感情がない!魂がない!」


 私、ラモーン大杉。かつては天才振付師と呼ばれ、今は地獄の貴公子という異名を持つ。若いアイドルたちの夢を打ち砕くことで、逆説的に彼女たちを成長させる—それが私の信念だった。


 練習が終わり、誰もいない夜道を歩く。街灯が私の影を不自然に伸ばしている。ふと、古い習慣でスマートフォンを開く。着信は一件もない。聖美(きよみ)の連絡先を消せないまま、5年が経っていた。


「先生」


 突然の声に振り向くと、そこには懐かしい顔があった。聖美。まるで5年前のままの姿で。


 彼女は青白い月明かりに照らされ、まるで吸血鬼のように見える。黒いレオタードは、あの日と同じだった。


「先生、ずいぶんだらしない体になりましたね」


 彼女は不敵な笑みを浮かべる。


「鬼ごっこをしましょう。捕まったら...わかりますよね?」


 私は走った。必死に。狂おしいほどに。後ろから聞こえる足音は、あの日の練習場での音と同じリズムを刻んでいる。


 途中、コンビニの前を通り過ぎる。店内のテレビが5年前のニュースを流している気がした。


『若手アイドル、練習場で...』


 吸血鬼の弱点—日光、十字架、ニンニク...しかし、今の私にそんなものはない。


 ふと閃く。そうだ、あそこしかない。


 私は全力で駆け込んだ。練習場の扉を開け、スイッチを入れる。無数の鏡が光を反射し、フロアは眩いほどに輝く。


「ここで決着をつけよう、聖美」


 私は音楽をかけ、踊り始めた。あの日、聖美に最後に教えた振付を。


「先生...どうして分かったんですか?」


 聖美の声が遠くなっていく。


「お前があの日、ここで踊り疲れて倒れた時、私は救急車を呼ばなかった」


 私は告白する。


「お前の死を隠蔽したんだ」


 鏡に映るのは私一人。


 ダンスフロアの中央で、私は踊り続ける。無数の鏡に映る私の姿は、すべて涙を流していた。フロアの隅に置かれた花束が、月明かりに照らされている。そこには古びた傷みかけの写真が添えられていた。


 写真には、明るく笑う聖美の姿。その横には日付が記されている。


 今から5年前のちょうど今日—彼女が命を落とした日付だった。


 私は踊り続ける。夜明けまで。贖罪の踊りを。

プロンプト

「『地獄の貴公子』。「おら!もっと腰をいれて!」。俺の名前はラモーン大杉。地獄の貴公子と呼ばれる振付師。今日もアイドル達にパワハラのように振付をつける。最近の若い奴らはこういう体育会系の厳しさを知らない。狂気と芸術は表裏一体。俺は帰り道、一人で帰る。「先生」。振り向くと、女がいた。「お久しぶりです」。そう、それは元教え子の聖美だった。彼女はまるで吸血鬼というか吸血鬼。「先生。ちょっとだらしない身体になりました?鬼ごっこでもしましょう。捕まったらわかりますよね」。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あそこしかない。そうダンスフロアだ。このプロットを元にシリアスサイココメディ短編小説を書きましょう。オチ、ラモーン大杉は狂気に侵されて自殺した教え子の妄想として見ていたのだった。」

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