『ウィンター・タイム・ドラキュラ』
冬の訪れと共に、彼女がやって来た。
埼玉の片隅にある夜間定時制高校。日中はコンビニでアルバイトをしながら、夜に勉強する。そんな普通の生活を送っていた俺の心を震わせたのは、真っ白な肌と漆黒の長い髪を持つ転入生との出会いだった。
「佐藤さん、隣の席、空いてますか?」
教室の蛍光灯に照らされる彼女の肌は、まるで雪のように白く透き通っていた。吸血鬼みたいだな、と思った瞬間、俺は自分の想像力を笑い飛ばした。
その日の帰り道。校門の前で彼女と目が合った。
「一緒に帰りませんか?」
声をかけられた時、心臓が飛び出しそうになった。街灯に照らされる彼女の姿は、まるで月光に包まれているかのようだった。
それから毎日、帰り道は二人きり。彼女は夜の街を歩くのが好きみたいだった。コンビニに寄って、温かいカフェラテを買って歩く。彼女はいつも「私は結構です」と断る。
「お前、あの色白の子と付き合ってんの?」
昼間、コンビニの同僚にからかわれた。確かに彼女は美しく、どこか異質な雰囲気を漂わせていた。でも、そんなことを気にしている余裕はなかった。ただ、彼女と過ごす時間が心地よかった。
ある日、彼女の家に招かれた。古い洋館のような建物。玄関を入ると、そこには鏡が一つもなかった。不思議に思って聞いてみると、彼女は静かに微笑んだ。
「気づいていましたか?私、鏡に映らないんです」
その瞬間、全てが繋がった。彼女が日中の授業を避けていたこと。カフェラテを飲まなかったこと。そして、あの異質な美しさ。
「怖くありませんか?」
彼女の声が震えていた。俺は答えた。
「別に。俺が好きなのは、君という人だから」
彼女の目から、赤い涙が零れ落ちた。
それから俺たちは、より深く互いを理解しようとした。彼女は血液パックで生きていて、人を襲うことはない。俺は彼女のために、夜間定時制を選んでよかったと思った。
冬の寒さが増す中、俺たちの距離は縮まっていった。彼女は確かに吸血鬼だった。でも、それは俺たちの関係を特別なものにしただけだった。
寒い夜道を一緒に歩きながら、俺は思う。人生って、こんなふうに予想外の展開になることもあるんだな、と。でも、それでいい。むしろ、それがいい。
彼女の冷たい手を握りながら、俺たちは歩き続ける。冬の夜は、まだまだ長い。
◇
卒業まで後わずかとなったある夜、彼女は静かに語り始めた。
「私、ずっと引きこもりだったんです」
月明かりの下、彼女の声は儚く響いた。
「何百年も生きてきて、時代の変化についていけなくなって。でも、このまま永遠に暗い部屋で過ごすのは嫌だった。だから、夜間定時制を選んだんです」
彼女は空を見上げた。
「現代の若者たちの生活を知りたかった。昼と夜の境界で生きる人たちの中なら、私でも溶け込めるんじゃないかって」
その時、俺は彼女の孤独を初めて理解した気がした。永遠に生きることの重さを。
「でも、それは間違いでした」
突然の言葉に、俺の心臓が止まりそうになった。
「あなたに出会えて、本当に幸せでした。でも、それは私の傲慢さを証明することになってしまった」
彼女は俺の手を優しく握った。その手は、いつもより冷たく感じた。
「私は時間の外側にいる存在。あなたの人生に、こんな重荷を背負わせるわけにはいきません」
「待って」
俺は必死に言葉を探した。
「俺は君の傍にいたい…俺も吸血鬼に…」
彼女は悲しそうに微笑んだ。
「いいえ。あなたには、まだたくさんの朝日を見る権利があります。私は、その権利を奪いたくない」
最後の登校日、彼女の机は空っぽだった。担任の先生は「転校」と説明した。でも、俺にはわかっていた。彼女は、俺の人生を守るために消えていったのだと。
卒業式の夜、校舎の窓から見える月は、あの頃と変わらず明るく輝いていた。どこかで彼女も、この月を見上げているのだろうか。
ポケットの中の温かいカフェラテを握りしめながら、俺は思う。
永遠の命を持つ彼女は、きっとまた誰かの夜に現れるのだろう。でも、この冬の記憶は、俺だけのものとして残り続ける。
それは、儚くも温かい、ウィンター・タイムの恋の物語。
プロンプト
「『ウィンター・タイム・ドラキュラ』。場所は田舎と都会の中間つまり埼玉。夜間定時制高校に通う俺。冬になる。転入生がやってきた。恐ろしく白い肌。長い髪。まるで吸血鬼。ある日の帰り彼女に出会う。「一緒に帰らない?」。俺はドキドキしながら帰る。それから帰り道は彼女と帰ることが日課になった。「お前ら付き合っているの?」。昼間、職場の同僚からからかわれる。そして、俺は彼女の秘密を知る。それは鏡に映らないことだった。このプロットを元に甘く切ないシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」
「彼女はなぜ定時制高校に通い始めたのか語りはじめ、俺に別れを告げる場面で物語を締めくくってください。」