『 コールマン・ブラッド』~ヴァンパイアに遭遇~
歌舞伎町の街灯が、濡れたアスファルトに映り込む。深夜三時。終電を逃した客たちが、タクシーを探してうろつく中、俺は今日も元気に「いらっしゃいませー!」と叫んでいた。
ホストクラブ「プラチナムキング」所属、小林大介。業界では「コールマン」の愛称で知られる。なぜって?簡単さ。コールしか取り柄がないからだ。
売上は最下位。指名は月に2件。でも、店でのコールだけは誰にも負けない自信がある。それが俺の誇りであり、アイデンティティだった。
「お兄さん、暇?」
振り返ると、月明かりに照らされた白い肌の美女が立っていた。赤いドレスに身を包み、まるでワインのように深い色の唇が印象的だ。
「あ、はい!ぜひ当店で素敵な夜を...」
「いいえ。あなたと遊びたいの」
彼女は妖艶に微笑んだ。
「鬼ごっこをしましょう」
その瞬間、彼女の切れ長の瞳が赤く光った。俺は直感的に理解した。これはマジでヤバい。
「制限時間は日の出まで。捕まえられたら、あなたは私のものよ」
吸血鬼。都市伝説だと思っていたのに、目の前にいる。逃げなきゃ。でも、どこへ?
頭の中で吸血鬼の弱点を必死で思い出す。十字架?にんにく?銀の弾丸?どれも持ってない。日光?まだ数時間ある。
「3...2...1...スタート♪」
彼女の声を背に、俺は走り出した。まるで本能のように、いつも立っている場所へと足が向かう。
「プラチナムキング」の看板が見えた。ここしかない。
店内に飛び込むと、フロアマネージャーの山田さんが驚いた顔をした。
「小林!何やってんだよ!」
その時、店の入り口に吸血鬼が現れた。優雅な足取りで一歩を踏み出す。
俺は深く息を吸い込んだ。今までの人生で培った全てのスキル、全ての魂を込めて─
「もっとちょうだい もっとちょうだい!」
轟音のような大声が店内に響き渡る。グラスが共鳴して震え、シャンデリアまでがかすかに揺れた。
「姫の愛をもっとちょうだい!」
吸血鬼が足を止める。その美しい顔が驚きで歪んだ。
「なんとめちゃくちゃ可愛い素敵な姫から愛情いただきます!」
俺の得意のコールを、最高の音量で繰り出す。まるで音波攻撃のように、吸血鬼に向かって放つ。
「すごい...これが噂の...」
「コールマンだ...」
客たちが驚きの声を上げる。
吸血鬼は両手で耳を押さえ、苦悶の表情を浮かべた。
「なんて...なんて耳障りな...!」
そうさ。夜の帝王たるホストの声量は、闇の帝王の耳には天敵なのさ。
「いらっしゃいませーーーーーーッ!!!」
二発目の大合唱。今度は店内の全てのホストが俺に続いた。まるで聖歌隊のような大合唱が店内を埋め尽くす。
「ぎゃあああっ!」
吸血鬼は悲鳴を上げ、来た道を逃げ出した。勝利の瞬間だった。
翌朝。
「なんだよ、あの客は」
山田さんが首を傾げる。
「さあ...」
俺は曖昧に答えた。
誰も信じないだろうけど、この夜、俺のコールは一人の命を救ったんだ。
それからというもの、夜の歌舞伎町では、あまりにもうるさいホストには近づかないよう、吸血鬼たちの間で噂が広まったとか。
今日も俺は叫ぶ。
「いらっしゃいませー!」
これぞ、最強の武器なのさ。
プロンプト
「『コールだけが取り柄のホスト、ヴァンパイアに遭遇』。場所は東京、夜中に吸血鬼と遭遇したホストこと私。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。俺は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あそこしかない。俺の唯一の特技コールだ。俺はホストクラブに逃げ込む。「一名様ご来店!」。俺の一世一代のコールが始まる。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」