『時代に乗り遅れた商店街』
私は深夜の路地裏で、スマートフォンのGPSが示す青い点を呆然と眺めていた。ラーメン屋の『ら』の字も見当たらない。
「この辺りに新店舗がある…はずが」
古びた商店街のアーケードが月明かりに照らされ、どこか懐かしい雰囲気を醸し出していた。白いたい焼き屋、タピオカ専門店、高級食パン専門店、台湾カステラ専門店が、まるで博物館の展示品のように並んでいる。
「ああ、なんという時代遅れ」
フードコンサルタントとして、私は常に最先端のトレンドを追い求めてきた。今や誰も振り返らないブームの墓場と化したこの場所は、まさに私の天敵だった。
「おやおや、珍しいお客様ですね」
背後から聞こえた声に振り向くと、そこには完璧な紳士の装いをした男が立っていた。真っ白な肌と、異様に尖った犬歯。間違いなく吸血鬼だ。
「私はこの商店街のオーナーです。ご覧の通り、少し…時代に取り残されてしまいまして」
吸血鬼は艶のある声で語り続けた。
「おや、あなたは有名なフードコンサルでは?ちょうどいい…あなたのような専門家に、この商店街の再生をお願いできないでしょうか」
私は冷や汗を流しながら、頭を巡らせた。日の出まであと五時間。逃げ切れる保証はない。しかし…。
「実は、こういうレトロな雰囲気って、今後のトレンドになる可能性が…」
古い物の再評価は繰り返されている。タピオカだって三度のブームを経験した。ノスタルジックな商店街に、新しい客層が…。
「ほう、続けてください」
気づけば私は熱心にプレゼンテーションをしていた。インスタ映えする昭和レトロな外装にする、若者向けのSNSキャンペーン、懐かしの味を再現したレトロ商品…。
夜が明けた頃、彼は契約書にサインをしていた。報酬は破格。そして何より、このトレンドが去った後のフランチャイズ展開の権利も手に入れた。
「では、また夜にお会いしましょう」
吸血鬼は紳士的に会釈し、闇に消えていった。私は疲れた顔で微笑む。結局、トレンドの波に乗り遅れた者たちは、また新しい波を待つしかないのだ。それは吸血鬼も、私も同じこと。
後日、この商店街は「平成昭和レトロ飲食街」として大人気になった。そして私は、その人気が下火になる兆し見えたタイミングで、フランチャイズ紹介を始めた。
(ちょろい二毛作だ)
結局のところ、流行り廃りも、吸血鬼も、ビジネスも、誰かの血を吸って生きていくことに変わりはないのだから。
プロンプト
「『時代に乗り遅れた商店街』。深夜、有名フードコンサルタントの私は謎の商店街に迷い込んだ。白いたい焼き屋、タピオカ屋、高級食パン店、台湾カステラ屋。「なんだ、この流行に置き去りにされた場所は…」。思わず息を呑む。「おやおや、珍しいですね」。振り向くと、吸血鬼。吸血鬼は私に対してフードコンサルを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。「タピオカだって三度のブームが来た。また来るはずさ」。いろいろ終わった後、金を貰って、フランチャイズを斡旋してぼろ儲けしたことを回想する。このプロットを元にシニカル風刺ブラックコメディ短編を書いてください。」