『潜入!激アツ!ドラキュラサミット!』~美容系ドラキュラ~
「まさか、ここが会場だなんて…」
新宿の雑居ビルの前で立ち尽くす井ノ川翔。派手なネオンサインが目に飛び込んでくる。
『極楽パチ健康ランド~サウナ&パチンコの癒やし空間~』
取材歴10年のフリージャーナリスト生活で、これほど困惑したことはない。情報提供者の言葉が頭の中でリピートする。
「今夜、都内の吸血鬼たちが重要な会合を開くんです。場所はここです」
確かに、闇の貴族たる吸血鬼たちの会合場所としては、あまりにもミスマッチすぎる。しかし、だからこそ完璧な隠れ蓑なのかもしれない。
「よし…」
井ノ川は決意を固め、サウナセットが入ったボストンバッグを握りしめる。幸い、生まれつきの色白な肌と、細身の体型は吸血鬼に見間違われることも多かった。潜入のチャンスはある。
施設内に入ると、パチンコの騒がしい音楽と、サウナの蒸気が混ざった独特な空間が広がっていた。受付で料金を支払い、男性更衣室へと向かう。
「おや、新顔かい?」
突如、背後から声がかかった。振り返ると、バスローブ姿の白髪の紳士が立っていた。その真っ赤な目が、井ノ川の素性を確かめるように輝いている。
「あ、はい。初めてです」
井ノ川は答える。
「ようこそ。私はヴラド。今夜の幹事です」
紳士は優雅に微笑んだ。
「実は、我々吸血鬼には致命的な弱点がありましてね。乾燥肌です」
「え?」
「日光を避け、夜行性の生活を送る我々には、保湿が最大の課題なのです。そこで月例のスキンケア情報交換会を始めたわけです」
井ノ川は言葉を失った。
「おや?あなた…人間ですね?」
ヴラドは首を傾げた。
「匂いでわかりますよ」
「す、すみません!」
井ノ川は即座に平謝りの態勢に入った。
しかしヴラドは穏やかな笑みを浮かべたまま、「構いませんよ。むしろ良いタイミングです。人間の方にも、我々の美容法を知っていただきたい。ぜひ取材してください」
その日以来、井ノ川の美容コラムは大人気となった。ただし、情報源については、「某サウナ通の紳士から」という表現に留めることにした。
プロンプト
「『潜入!激アツ!ドラキュラサミット!』~場違いでバイバイ~。場所は東京。私は井ノ川翔。色白で見た目が吸血鬼っぽいと良く言われるフリージャーナリスト。ある知人からある会合について聞いた。それは吸血鬼たちの会合。しかし、なぜ…なぜ会合場所がサウナとパチンコの一体型商業施設なんだ。俺はこっそりこの会合に潜入する。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」