『吸血鬼キャンセル界隈』
私は夜の帝王である。少なくとも、そう自称している。東京の夜景を見下ろす高層ビルの屋上に立ち、人間たちの血の匂いを嗅ぎ分けながら、ため息をつく。
最近の若者は本当に困ったものだ。昔なら、吸血鬼に声をかけられただけで震え上がって逃げ出したものだが、今や「お断りします」の一言で簡単に片付けられてしまう。まるでデリバリーの配達やお風呂をキャンセルするかのような気軽さだ。
「新しい遊びを考えたんだけど」
アスリート体型の女性に声をかける。彼女は完璧な獲物に見えた。
「私と鬼ごっこをしないか?」
彼女はスマートフォンから目を上げることもなく、「いいえ、結構です」と言い放つ。
「なして!」
私は思わず地方のなまりが出てしまう。
「汝、この吸血鬼の誘いを断るとは!」
「はい、お断ります」
彼女は実に現代的な冷静さで答える。
「因みに、そのセリフはパワハラの可能性があるので、お気をつけください」
私の牙が萎縮する思いだ。
次に声をかけた会社員風の男性も、「申し訳ないんですが、今週はスケジュールがパンパンで…」と、まるで飲み会の誘いを断るような口調で返してきた。
何が「パンパン」だ。命がかかっているんだぞ!でも、そう言い返すこともできない。
SNSで「強引な吸血鬼に遭遇。超怖かった」なんて投稿をされでもしたら、これからの狩りに支障が出る。
結局この夜も、私は空腹のまま帰路につくことになった。高層ビルの谷間を飛びながら考える。もしかして、求人サイトで「吸血鬼見習い募集」の広告を出してみるべきだろうか。待遇は要相談、社会保険完備、と書けば興味を持つ若者がいるかもしれない。
だが、それではあまりにも寂しい。狩りの興奮も、逃げ惑う獲物の表情を楽しむ余裕もない。
私は月を見上げ、深いため息をつく。これが令和の吸血鬼の宿命なのか。明日は「吸血鬼の働き方改革」について真剣に考えてみようと思う。どうやら今の時代、恐怖の帝王よりも、理解のある上司を目指したほうが良さそうだ。
プロンプト
「『吸血鬼キャンセル界隈』。場所は東京。私は吸血鬼。夜の帝王。今日も人間の生き血を吸う。しかし、最近仲間が減ってきた。仲間を増やすのはいいが、軟弱な人間は勘弁してほしい。私はふと鬼ごっこを提案することを思いつく、人間でも逃げるというのはそれだけ生の執着があるのだ。私も私で、血を吸うだけではなく恐怖の顔を楽しめる。私は長身のアスリート体形の女を見つけて声をかける。「お嬢さん、私と鬼ごっこはどうかな?」。「え?いやです」。女はきっぱり答える。即座に怒りがこみ上げてきたが、この時代、相手の意思を尊重しなくては。別な男に声をかけるが、「嫌です」。どうやら吸血鬼になるという誘いは風呂と同じように気軽にキャンセルする時代のようだ。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」