『帰り道はドラキュラに会いたくなる』
深夜の東京、いつもの帰り道。コンビニの蛍光灯が青白く照らす歩道を、七瀬は少しだるそうに歩いていた。
「あれ?」
ふと気づく。今夜は何かが違う。そう、吸血鬼が現れないのだ。
いつもなら、この時間になると彼が現れる。真っ黒なスーツに身を包んだ、どこか古めかしい雰囲気の紳士。最初は怖かった。でも、彼の提案する「鬼ごっこ」は、いつの間にか私の日常の一部になっていた。
「捕まえたら、血を頂戴」
そう言って微笑む彼の表情は、どこか寂しげだった。私は必死に逃げる。住宅街の路地を駆け抜け、公園を横切り、商店街のシャッターの間をすり抜ける。息が上がり、足が痛くなっても走り続ける。
勝利条件は簡単。朝日が昇るまで逃げ切ればいい。吸血鬼は日光に弱い。これまで何度も危ないところで逃げ切ってきた。額に浮かぶ汗を拭いながら、東の空が白みはじめるのを見るのが、なんだか誇らしかった。
でも今夜は違う。街灯の下で立ち止まり、後ろを振り返る。誰もいない。
「どうして来ないんだろう」
呟きながら、胸の中に広がる奇妙な虚しさに気づく。この数ヶ月、毎晩の追いかけっこは、まるで秘密の約束事のようだった。恐怖と興奮が入り混じった時間。それは確かに、私の生活に色を添えていた。
スマートフォンの画面を見る。午前2時13分。まだ夜は長い。
「会いたいな」
思わず口から漏れた言葉に、自分で驚く。命を狙われる恐怖よりも、会えない寂しさの方が強くなっている。夜の街を歩きながら、私は考える。もし今、彼が現れたら。今度は私から「鬼ごっこしませんか?」と誘おうか。
街灯が瞬く。影が揺れる。でも、それは風に揺られる木々の影だけ。
結局、その夜も吸血鬼は現れなかった。家に着くまでの道のり、私は何度も後ろを振り返った。期待と不安が入り混じった気持ちを抱えながら。
玄関のドアを開ける前、もう一度だけ夜空を見上げる。
「また明日」
誰に向けての言葉なのか、自分でもよくわからないまま、私は家の中へと消えていった。
夜は、まだまだ続く。
プロンプト
「『帰り道はドラキュラに会いたくなる』。場所は東京、夜中に帰り道、吸血鬼と遭遇しない私。いつもだったら、吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。はずなのに、会えない。私は吸血鬼に会いたくなっている。このプロットを元にセンチメンタルシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」