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『サイコメトラーV』

 

 新宿の雑踏を抜ける人々の中で、私は異質な存在だった。吸血鬼という呪われた生を永らく生きてきた私には、もう一つの呪いが課せられている。触れた相手の過去と未来が見える能力―サイコメトリー。


 その夜も、私は人々の記憶の海を泳ぎながら歩いていた。そこで目に留まったのは、真夏というのに不自然なまでに長いトレンチコートを着た女性だった。マスクで顔を隠し、その異様な長身は周囲の視線を集めていた。


 私の直感が警告を発した。すれ違い様に、さりげなく彼女の肩に触れる。


 瞬間、私の脳裏に恐ろしいビジョンが流れ込んだ。暗い路地裏。追いつめられた男性。そして、伸びる体、歪む顔。


「あら、バレちゃった?」


 甘い声で女が振り返る。マスクの下から覗く血に飢えた笑み。八尺様―都市伝説として語られる妖怪の正体が、目の前に立っていた。


「鬼ごっこでもしましょうか?吸血鬼さん」


 その声を合図に、私は全力で走り出した。人混みを縫うように逃げながら、頭の中で状況を整理する。八尺様は体が伸びる。高所からの追跡も得意だ。かといって、人気のない場所に逃げ込むのは自殺行為に等しい。


「待ってちょうだい~」


 後ろから聞こえる声に、背筋が凍る。人々は私たちに気付かない。非日常は、日常の裏側で起きているのだ。


 私は左手でスマホを取り出し、右手でポケットの小瓶を握りしめる。永遠の命を持つ私でも、この化け物には敵わないかもしれない。しかし、私には彼女の過去を見た時に得た情報がある。


 そして、私には計画があった。


 この街で生きる怪異たちの情報屋として知られる「バー・ミッドナイト」に向かって、私は疾走を続けた。今夜は長い夜になりそうだ。


 私の背後で、八尺様の笑い声が木霊する。


 ◇


 バー・ミッドナイトの扉を蹴り開けた瞬間、店内の空気が凍りついた。常連の妖怪たちが一斉に振り返る。


「マスター!例の装置を!」


 私の叫び声に、カウンターの影で煙草を燻らせていたマスターが静かに頷いた。彼は百年前から私の協力者だ。店の天井に仕掛けられたスピーカーが重低音を放ち始める。


「あら、こんな所にいたのね」


 八尺様が優雅に入店してきた。その姿に店内の妖怪たちが一斉に身を引く。


「サイコメトリーで見た貴女の過去...。かつて貴女は美しい人間だった。その美貌に嫉妬した者たちに襲われ、その怨念によって今の姿になった」


 私の言葉に、八尺様の表情が僅かに歪んだ。


「だからこそ、これが効くはずだ!」


 合図と共に、マスターが装置のスイッチを入れた。天井のスピーカーから般若心経が最大出力で店内に響く、それはまるで滝のように八尺様に降り注ぐ。


 八尺様が悲鳴を上げる。その肌が焼けただれていく。私は躊躇なくポケットから清酒の小瓶を取り出し、彼女に向かって投げつけた。


「呪われた存在として、永遠に生きることの痛みを、私は知っている」


 清酒を浴びた八尺様の姿が徐々に人間の姿に戻っていく。その顔には安らかな表情が浮かんでいた。


「ありがとう...」


 かすかな声を残し、彼女の体は光の粒子となって消えていった。後には一枚の古い写真が残されていた。そこには、百年前の彼女の笑顔が写っていた。


 私はその写真を静かにポケットにしまい、カウンターに向かった。


「マスター、いつもの」


 ウイスキーのグラスが差し出される。氷が静かに揺れる音だけが、今夜の出来事を物語っていた。


 非日常の夜は、こうして幕を閉じた。だが、この街には今夜も新たな都市伝説が生まれているのかもしれない。私は氷の溶けるのを待ちながら、そんなことを考えていた。

プロンプト

「『サイコメトラーV』。俺は吸血鬼。永遠の時を生きる呪われた存在。そして、呪われた能力をもつもの。触れれば相手の過去未来が見える。めちゃくちゃ長身の女は夏なのにトレンチコートを着けてマスクを着けている。何か気がかりだ。俺はすれ違い様に女に触れる。「あら、バレた」。女は例の八尺様だった。「鬼ごっこでもしましょう」。俺は全力で逃げる。このプロットを元にシリアスハードボイルドコメディ短編小説を書きましょう。」

「私は八尺様を退治する。このプロットを元に物語を締めくくってください。」

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