『デスゲームに巻き込まれたら、吸血鬼を頼れ!!!』
「ハロォォォォ。私はゲームマスターの『ジツハソウ』。今からお前たちにはある試練を受けてもらう」
天井から響き渡る声に、密室に集められた人々が騒然となった。私は壁に寄りかかり、ため息をつく。
(なんとも悪趣味な趣向だな)
私は吸血鬼。夜の帝王として数百年を生きてきた。今宵も人間の生き血を求めて東京の街を徘徊するはずだった。それが気がつけば、こんな場所に。
「制限時間は60分! 部屋に仕掛けられた3つの謎を解かないと、毒ガスが充満する!」
「うわああああ!」
「誰か助けて!」
「こんなの嫌だ!」
人間たちが慌てふためく様子を眺めながら、私は鼻で笑う。霧になれば即座に脱出できるというのに。しかし…。
(面白そうじゃないか)
最近の生活には退屈していた。この状況を楽しまない手はない。
「あ、あの!奥の方にいる黒服の方!一緒に謎を解きませんか?」
声をかけてきたのは、20代らしき女性。彼女の首筋に浮かぶ動脈を見つめながら、私は優雅に微笑む。
「構いませんよ。私にできることがあれば」
(退屈しのぎには丁度いいかもしれない)
「よ、よかった!あの、まずこの暗号なんですけど…」
彼女が差し出した紙には、意味不明な記号の羅列。人間たちは必死に頭を悩ませているが、私には一目で解読できた。数百年も生きていれば、こんな程度の暗号など子供の遊びだ。
しかし、すぐには答えを教えない。彼らが必死に考える姿を見るのが愉快だった。時折、さりげないヒントを出しながら、ゲームの行方を見守る。
「あと10分です!」
焦燥感が部屋中に漂う中、若い男性が叫んだ。
「わかった!これを組み合わせると…」
次々と謎が解かれていく。案外、人間も捨てたものではない。
「残り1分!」
最後の謎を解いたとき、天井から紙吹雪が舞い落ちた。
「おめでとうございまーす!全ての謎を解き明かしましたー!」
ゲームマスターの声が響く中、人々は安堵の表情を浮かべる。私は密かに舌打ちした。
(もう少し楽しめると思ったのに)
「では、賞品の贈呈…」
「結構です」
私は言って、霧となって部屋から消え去った。後に残された人々の驚愕の声が心地よい。
夜の街に降り立ち、私は月を見上げる。
(たまには、こういう娯楽も悪くない)
首筋の痛みに気づいたのは、それから数日後のこと。どうやら、あの密室で誰かに何かを仕掛けられていたらしい。
(ふん、面白い。今度は私が仕掛ける番だな)
夜の帝王の新たな遊びが、始まろうとしていた。
◇
追跡は容易かった。数百年の経験で培った嗅覚が、ゲームマスターの残した微かな痕跡を追う。人間が必死に消そうとした足跡も、私には月明かりのように鮮やかだ。
廃ビルの最上階。そこで私は『ジツハソウ』を見つけた。
「や、やあ...まさか本当に吸血鬼だったとは...」
おびえる声。震える手。人間特有の生温かい体臭。恐怖に支配された人間の血の香りほど、甘美なものはない。
「ゲームマスター殿。私をからかって楽しかったかな?」
「あ、あれは実験だった!人間の生態を調べる為の...」
霧になって背後に回り込む。首筋に牙を突き立てる寸前、耳元で囁いた。
「では、私からも素敵なゲームを提案しよう」
「ひ、否っ...!」
「ルールは簡単だ。私が数えるまでに、ここから脱出できれば生かしてやる」
白々しい嘘だ。しかし人間という生き物は、絶望的な状況でも希望にすがる。『ジツハソウ』は必死に階段を駆け下りていく。
(愚かな)
私は優雅に月を眺めながら、ゆっくりとカウントダウンを始めた。
「10...9...8...」
階下から聞こえる慌ただしい足音。
「7...6...5...」
息を切らす声が響く。
「4...3...2...」
出口に辿り着いた瞬間、彼の背後に立っていた。
「1...」
「な、なぜここに!?」
「残念だったな。時間切れだ」
最後の悲鳴が夜の闇に溶けていく。新鮮な血の味わいに、私は満足げに微笑んだ。
(これで今夜のディナーショーは終わりだな)
月を背に、私は霧となって夜の街へと消えていった。デスゲームごっこは、もう十分楽しませてもらった。
次はどんな愚かな人間が、私の前に現れるだろうか。
夜の帝王は、今宵も優雅に人間たちの愚かな遊びを見守り続ける。
プロンプト
「『デスゲームに巻き込まれたら、吸血鬼を頼れ!!!』。「ハロォォォォ。私はゲームマスターの『ジツハソウ』。今からお前たちにはある試練を受けてもらう」。場所は東京。私は吸血鬼。夜の帝王。今日も人間の生き血を吸う。しかし、最近マンネリ化してきた。そんなとき、起きたら謎の密室にいた。(いわゆるデスゲームというやつか悪趣味だ)。同じように連れてこられた奴らは慌てふためいている。(こんなもの霧になればすぐに脱出できる)。私はとりあえず、傍観者としてこのデスゲームを楽しむことに決めた。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」