『吸血鬼に襲われたら、サーカスに逃げ込め!!!』
私は走った。
息が上がる。肺が悲鳴を上げている。それでも、後ろから聞こえてくる優雅な足音から逃れるために、必死に足を動かし続けた。
「もう少し楽しませてくれないかな?」
背後から聞こえてくる声は、まるで上質なワインのように滑らかで芳醇だった。嘲笑うでもなく、怒りを含むでもなく、ただ純粋に「遊び」を楽しんでいるかのような口調。
「私はね、獲物が諦めてしまうのが一番つまらないんだ」
新宿の雑踏を抜け、歌舞伎町のネオンに包まれた通りを駆け抜ける。深夜とはいえ、まだ人通りはある。しかし誰も私たちに気付かない。いや、気付かないフリをしているのかもしれない。
この吸血鬼、最初から私を殺すつもりはないのだろう。だからこそ、こんな「鬼ごっこ」を提案してきたのだ。でも、それは私にとってはチャンスでもある。
朝日が昇るまであと4時間。
考えろ、考えろ。吸血鬼の弱点は何だ?
十字架?にんにく?流れ水?
どれも今の状況では使えない。
そのとき、目に飛び込んできたのは派手な看板だった。
『東京ナイトサーカス - 深夜公演絶賛開催中!』
その瞬間、私の中で全てのピースが繋がった。
そうだ、あれがある。サーカスには必ず「あれ」がある。
「おや?サーカスに逃げ込むつもりかな?」
背後の声が楽しげに笑う。
「面白い。ついていくとしよう」
私は劇場の中へと飛び込んだ。
チケットもぎりの男性は、私たちの異様な様子にも全く動じることなく、ただ淡々とチケットをもぎってくれた。さすがサーカスの人間だ。
ショーはちょうど佳境を迎えていた。私は観客席を突っ切り、そのまま舞台へと駆け上がった。
「おやおや、ショーの邪魔をするつもりかな?」
吸血鬼が優雅に舞台へ降り立つ。
その時だ。
「スポットライト、最大出力!!」
私の叫びと同時に、何十もの強力なスポットライトが吸血鬼に向けられた。
UV効果。現代のサーカスの照明には必ず紫外線カットフィルターが使われている。でも、それは今日、メンテナンス日だった。看板の横の小さな告知で見つけていたのだ。
「なんてこと...まさか...」
吸血鬼の姿がゆっくりと朽ちていく。
観客からは歓声が上がった。さすがサーカスだ。何が起きても、全てがショーの一部として受け入れられる。
「見事だ...」
最後まで優雅な微笑みを浮かべたまま、吸血鬼は舞台の上で灰となって消えていった。
私は深いため息をつき、そのまま舞台に倒れ込んだ。
すると、サーカスの団員たちが私を優しく抱き起こしてくれた。
「お客様、素晴らしいパフォーマンスでした!」
リングマスターが私に向かって深々と一礼する。
「次回の公演にもぜひご出演いただけませんか?」
その夜から、私はサーカスの看板役者となった。
演目は『吸血鬼ハンター』。
毎晩、本物の吸血鬼たちを退治している。
...それだけは冗談です。
でも、もし吸血鬼に追われることがあったら、
サーカスを探してみてください。
きっと、あなたを救ってくれるはずです。
プロンプト
「『吸血鬼に襲われたら、サーカスに逃げ込め!!!』。場所は東京、夜中に吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あそこしかない。そうサーカスだ。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」