『吸血鬼に襲われたら、雀荘に逃げ込め!!!』~雀荘セーフハウス~
「イーピン!ツモ!!!」
麻雀牌を握りしめた老人の声が、蛍光灯の下で響き渡る。深夜3時、秋葉原の路地裏にある雀荘「福満」。タバコの煙が漂う店内では、いつものように夜通し麻雀が打たれていた。
そこへ突然、私は息を切らせながら駆け込んできた。
「すみません!入店料払いますから、しばらく居させてください!」
店主の福田さんが眉をひそめる。当然だ。汗まみれで、服も乱れている。明らかに普通のお客ではない。
しかし、私には選択肢がなかった。あの吸血鬼から逃れるには、ここしかないのだ。
なぜって?
それは、麻雀には「四枚」というルールがあるからだ。
東南西北、白發中、一から九までの萬子・筒子・索子。すべての牌は必ず四枚ずつ存在する。これは麻雀の絶対的な掟。この世界で、「数」が持つ最も厳格な秩序の一つだ。
そして吸血鬼は——数に取り憑かれた生き物なのである。
伝承によると、吸血鬼は物を数えずにはいられない。道に落ちた米粒を一粒一粒数え始めたり、網の目を執着的に数えたり。それは彼らの呪いであり、強迫観念なのだ。
私がそれを思い出したのは、この吸血鬼が私との「鬼ごっこ」を提案した時だった。
「日の出まで逃げ切れたら、君の勝ちだ」
そう言った彼の目は、どこか遊び人のように輝いていた。まるで、人間の命すら賭けの対象でしかないとでも言うように。
だから私は賭けに出た。この雀荘に逃げ込んだのだ。
案の定、私の背後から聞こえてきた吸血鬼の苛立たしげな呟き。
「くっ...この空間には...数えなければならないものが...多すぎる...!」
雀荘に一歩踏み入れた吸血鬼は、もはや私のことなど眼中にない。積まれた牌山、各プレイヤーの手牌、テーブルに並ぶ捨て牌。すべての牌を数え始めずにはいられないのだ。
しかも麻雀牌は136枚。数え終わっても、絶えず動き続ける牌に目を奪われ、最初からやり直さねばならない。
「イーソーペーコー!」
「ドラドラかよ!」
歓声が上がるたびに、吸血鬼の強迫は強まっていく。
やがて東の空が白み始めた頃、吸血鬼は地獄の苦しみから解放されたように姿を消した。残されたのは、最後まで牌を数え続けようとする執着の残り香だけ。
「お客さん、朝まで居たんなら、一局くらい打っていきなよ」
福田さんが優しく声をかけてくる。私は安堵の笑みを浮かべながら答えた。
「はい...では、お願いします」
こうして私の命は、麻雀の持つ数の魔力によって救われたのである。
ちなみに、その後の一局で私は親の連チャン三倍満を放銃してしまった。
命の代償としては、安いものかもしれない。
プロンプト
「『吸血鬼に襲われたら、雀荘に逃げ込め!!!』。場所は東京、夜中に吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あそこしかない。そう雀荘だ。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」