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『テレビプロデューサーと二人っきりになったけど、吸血鬼かもしれない』

 

「井ノ川さん、お待たせしました」


 高級フレンチレストランの個室で、プロデューサーの山下氏が少し汗を拭いながら席についた。私は思わず体が強張る。


 確かに彼は太めで、顔色は血の気が多く、一見すると吸血鬼には見えない。でも、それこそが完璧な偽装なのではないか。この業界に長くいるが、彼を昼間に見たことがない。


「あの、他の方々は…100人くらい参加されると聞いたんですが?」


「ああ、申し訳ありません。皆さん急用で…」


 山下氏は申し訳なさそうに両手を合わせた。その仕草があまりにも人間らしすぎて、逆に不自然に思えてくる。


 シャンデリアの明かりが彼の丸いメガネに反射して、一瞬、赤く光ったように見えた。私の想像だろうか。


「ワインを注文してもよろしいですか?」


「え、はい…」


 山下氏がソムリエを呼び、赤ワインを注文する。まさか、これは血のメタファーなのか。私の頭の中で、荒唐無稽な妄想が暴走し始めた。


「実は井ノ川さん、来週の特番のことで相談が…」


 話を聞きながら、私は彼の一挙一動を観察していた。グラスに口をつける度に、歯が少し光る。普通の歯なのに、なぜか牙に見えてくる。フォークを持つ手の動きも、どこか古風で優雅すぎる。


「それで、吸血鬼の特集を…」


「えっ!?」


 私は思わず声を上げてしまった。


「いえ、深夜帯の心霊特集です。視聴率が取れそうで…」


 なんということだ。これは私への警告なのか、それとも完全な偶然か。


 料理が運ばれてきた。山下氏の前には極度にレアなステーキ。私の目の前には真っ赤なビーツのサラダ。この料理の選択は、どこかメッセージめいている。


「井ノ川さん、顔色が悪いですけど、大丈夫ですか?」


「は、はい!」


「そういえば、この間の朝の情報番組での吸血鬼伝説の特集、とても良かったですよ」


 私の背筋が凍る。その回、担当ディレクターが突然体調不良で休んだのだ。そして代わりに入ったのが…山下氏。


「あの、お手洗いに…」


 席を立とうとした私の手を、山下氏が優しく掴んだ。その手が、妙に冷たい。


「その前に、来週の特番の打ち合わせを…」


 窓の外では満月が輝いていた。これは単なる仕事の食事会なのか、それとも私の想像力が暴走しているだけなのか。山下プロデューサーの正体は――。


 私は深いため息をつきながら、グラスの赤ワインを見つめた。このワインの色は、どこか生々しく見えた。


 ◇


 その夜遅く―


「もう、どうすればいいんだよ…」


 山下は自宅のソファーに深々と腰を下ろし、両手で顔を覆った。暗い部屋の中で、テレビの青白い光だけが彼の丸々とした体型を照らしている。


「せっかく勇気を出して部下と二人きりの食事に誘ったのに…」


 彼は冷蔵庫から缶ビールを取り出し、大きなため息をつく。棚の上には『チャラ男に学ぶ恋愛術』『臆病者のための異種族交流マニュアル』といった自己啓発本が並んでいる。


「井ノ川さん、僕のことを怖がってたよね…きっと」


 実は山下は500年生きている吸血鬼だったが、どこまでも平凡で気弱な性格は変わらなかった。最近ヘルシー志向で、人間の血の代わりにトマトジュースで我慢する日々。


「明日からまた顔を合わせるのか…」


 山下は缶ビールを一気飲みする。


「やっぱり僕には人間の女性との恋愛なんて無理なんだ…」


 テレビでは深夜の恋愛ドラマが流れている。イケメン吸血鬼が美女を口説くシーンを見ながら、山下は自分の丸々としたお腹を撫でた。


「ああ、井ノ川さん可愛かったなぁ…でも僕みたいなオタク体型の吸血鬼じゃ…」


 翌日の朝まで、都内の高層マンションの一室では、ポッチャリ吸血鬼のため息が響き続けたのだった。

プロンプト

「『テレビプロデューサーと二人っきりになったけど、彼って吸血鬼かもしれない』。場所は東京。私は井ノ川洋子。新人アナウンサー。今日はスポンサーとの会食と言われて、嫌だが参加している。しかし、どうやら残りの100人がドタキャンして、私と名も知らないプロデューサーと二人っきりだ。心配だが、それ以上にこのぽっちゃりプロデューサー…吸血鬼なんじゃないのか。私の疑問は膨れるばかりだ。いやらしいことはないかもしれないが、そこはかとなく吸血鬼であることを隠す彼。このプロットを元にシリアスシュールコメディ短編小説を書きましょう。」

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