『ストーカーに襲われたら、吸血鬼が助けてくれた件』~恋はセグウェイと共に~
終電を逃してしまった。
タクシー代を惜しんで歩いて帰ることにした私の判断ミスだった。深夜の東京の街を、ヒールを鳴らしながら一人で歩く。街灯の明かりが頼りない。
後ろから誰かの気配を感じ始めたのは、コンビニを過ぎてからだった。
「気のせい、きっと気のせい」
自分に言い聞かせながら、それでも足は自然と早くなる。家までは、まだ10分。
振り返ると——やっぱりいた。フーディーを目深に被った男が、私と同じペースで歩いている。目が合った瞬間、男はニヤリと笑った。
その表情を見た瞬間、私は走り出していた。
「ちょ待てよ!」
後ろから男の声。足音が近づいてくる。必死で走る私だが、ヒールのせいで思うようにスピードが出ない。
そして最悪なことに、行き止まりだった。
「はぁ...はぁ...」
息を切らせながら振り返ると、男が薄笑いを浮かべながらゆっくりと近づいてくる。
「お嬢さん、こんな夜遅くに一人は危ないよ」
その時だった。
「ウィーン...」
何とも不思議な音と共に、街灯に照らされた影が伸びる。
「あの...すみません」
丁寧な声が闇を切り裂く。
振り返る男。そこには、セグウェイに乗った長身の男性が立っていた。真っ白なスーツに身を包み、まるでホストのような整った顔立ち。しかし、その紅い瞳と、わずかに覗く鋭い犬歯が、彼が人間ではないことを物語っていた。
「ちょっと道を聞きたいんですが」
吸血鬼は優雅にセグウェイから降り、ストーカーの男に近づく。その姿は月明かりに照らされて、より一層幻想的に見えた。
「あ、いや、俺は...」
ストーカーの男は、吸血鬼の異様な雰囲気に気付いたのか、たじろぎながら後ずさる。
「実は、私、人間の血より」
吸血鬼が男に耳打ちする。
「コーヒーの方が好きなんですよ」
「え?」
「でも今日は珈琲店が閉まっていて...」
にっこりと笑う吸血鬼。その笑顔には鋭い牙が覗いていた。
「ぎゃああああ!!」
ストーカーの男は悲鳴を上げながら、来た道を猛スピードで逃げていった。
「お嬢さん、大丈夫ですか?」
吸血鬼が私に近づいてくる。その姿は、セグウェイに乗っているにも関わらず、どこか優雅だった。
「は、はい...ありがとうございます」
「こんな夜遅くは危ないですよ。よろしければ、私がお送りしましょうか?」
そう言って差し出された手には、革手袋が嵌められていた。
「あの...セグウェイで?」
「ええ。このセグウェイは特別仕様でして、二人乗りが可能なんです」
そう言って吸血鬼は少し照れたように微笑んだ。
その夜、私は吸血鬼とセグウェイに揺られながら帰宅した。彼の背中は意外と温かく、コーヒーの香りがほのかに漂っていた。
後日、彼は本当に某有名珈琲チェーン店で働いているバリスタだということが判明した。夜勤専門で、給料は人間の3倍とのこと。
今では、終電を逃すたびに、白いスーツに身を包んだセグウェイの吸血鬼が、私を迎えに来てくれる。
彼の淹れる珈琲は、本当に美味しい。
プロンプト
「『ストーカーに襲われたら、吸血鬼が助けてくれた件』。場所は東京、夜中に帰宅する私。しかし、後ろから気配がある。足早になる。家まではあと10分。気のせいか。振り向くと、そいつは挙動不審な男。私は走り出す。しかし、男も追いかけてくる。行き止まり、男はニヤニヤ近づいてくる。そのとき、セグウェイに乗った人が通りかかる。それは吸血鬼だった。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」