「カルト教団『ヴァンパイア』」
深夜の九決村。
路地裏に忍び込んだ僕の靴音が、異様なほど静まり返った空気を切り裂く。
「これは…まさか…」
黒づくめの集団が、廃ビルの中から溢れ出てくる様子を目撃した瞬間、僕の職業病である取材欲が爆発した。フリージャーナリスト・井ノ川雄一郎、35歳。今宵もまた、スクープを追い求めて暗闇の中へと足を踏み入れる。
「血のような液体を啜る集団」という噂を追って、この村にやってきたものの、実際に目にしたものは予想以上に奇妙だった。黒いローブに身を包んだ人々が、まるでミュージカルの一場面のように、完璧に同期した動きで建物を出入りしている。
「なんだこれ…」
手帳にメモを取ろうとしたその時、背後から声が聞こえた。
「取材ですか?」
振り返ると、黒いマスクをつけた人物が立っていた。性別も年齢も判別できない。
「あ、いえ、その…夜景の撮影で…」
「嘘はよくないですよ、井ノ川さん」
僕の名前を知っているという事実に背筋が凍る。しかし、それ以上に気になったのは、その人物が手に持っていた缶。
「あ、それは…」
「ブラッドオレンジジュースです」
「え?」
「私たちは『夜の健康愛好会』という名のサークルでして。毎晩、新鮮な果物ジュースを飲みながら、エクササイズをしているんです」
「はぁ…」
「今夜のテーマは『おにごっこ』です。運動不足の現代人に、昔ながらの遊びを取り入れた運動を提案しているんです」
そう言って、マスクの人は僕にもジュースを差し出した。
「取材するなら、参加してみませんか?」
結局その夜、僕は黒いローブを着せられ、深夜の廃ビルでおにごっこに興じることになった。翌日の記事の見出しは『謎の吸血鬼集団の正体は…健康オタクだった!』。
まさか、これがスクープになるとは。
人生って、本当に予想がつかない。
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井ノ川が去った後、廃ビルの地下室。
「上手くいきましたね」
マスクの人物が言った。
集まった黒衣の人々が次々とマスクを外していく。皆、異様なほど蒼白い顔。そして、鋭い犬歯。
「ふふ…久しぶりの獲物だ」
最年長らしき男が薄く笑う。
「あのジャーナリスト、完全に騙されていたな」
「ブラッドオレンジジュース、よく思いつきました」若い女性が缶を掲げる。中身は明らかに液体より粘度が高い。
「記事が出るのを待ちましょう」
別の男が言った。
「彼の警戒が完全に解けた頃を見計らって…」
「そうだな」
老人が頷く。
「人間とはそういうものだ。真実から目を背けたがる。不都合なものは、都合の良い説明で覆い隠そうとする」
地下室に低い笑い声が響く。壁に掛けられた古びた鏡には、彼らの姿が映っていなかった。
九決村の夜は、これからが本番なのだ。
プロンプト
「カルト教団『ヴァンパイア』」。場所は東京。私は井ノ川雄一郎。フリージャーナリストだ。今日はあるカルト教団を極秘に取材するために、ここ九決村を訪れた。この村では謎の黒ずくめの集団がなぞの施設に立てこもって夜な夜なおにごっこ?をしているらしい。さらに、血のようなものを啜っているらしい。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」




