『謎の子供』
「洋子さん、この子はちょっと特別な子なんです」
児童養護施設の園長先生は、そう前置きしてから説明を始めた。私と夫の孝太郎は、真剣な面持ちで話に耳を傾けた。
「日光アレルギーがあって、昼間の活動が制限されるんです。でも、とても賢い子で...」
その時、廊下の向こうから一人の少年が現れた。
十歳くらいだろうか。色白で、まるで磁器細工のような繊細な顔立ち。黒髪は少し長めで、大きな瞳は不思議と古い時代の深い知恵を宿しているようだった。
「はじめまして。僕の名前は創一です」
少年は優雅な仕草で会釈をした。まるで小さな貴族のような佇まいに、私と孝太郎は思わず見とれてしまった。
それから一週間後、創一は井ノ川家の一員となった。
最初の違和感は食事の時だった。
「創一、お野菜も食べなさい」
私が言うと、創一は申し訳なさそうに箸を動かす。でも、ほとんど口をつけない。
「僕、アレルギーみたいだから...」
そう言って誤魔化すのだ。
そして、夜中によく姿を消した。最初は心配で心配で、夫婦で交代で見張りをしたものだ。でも不思議なことに、朝になると必ず自分の布団で眠っている。
ある夜、私は台所で水を飲もうと起きた時、冷蔵庫の前で赤い液体を飲む創一と出くわした。
「お母さん...」
創一は動揺した様子で、口元に付いた赤い液体を慌てて拭った。その時、月明かりに照らされた彼の口から、小さな牙が見えた。
「創一...あなた...」
私の声が震える。
「...吸血鬼なんです」
創一は肩を落として告白した。
「でも、人は襲いません!動物の血だけです。それも、と畜場からもらってくるんです...」
必死に説明する創一を見て、私は思わず吹き出してしまった。
「もう、そんなことは分かってるわよ。だって、うちの近所の野良猫、一匹も傷付いてないもの」
その夜から、私たちの奇妙な生活が本格的に始まった。
冷蔵庫の野菜室の隣に「創一専用」の棚を作り、畜産市場から定期的に血液を分けてもらうようになった。創一は夜間学校に転校し、昼間は特製の日よけスーツとUVカットクリームを塗り、外出するようになった。
面白いことに、創一がいることで、私たち夫婦の生活も変わっていった。夜型の生活に合わせて、私たちも夜更かしが増えた。深夜のファミリーレストランで、創一の「わたしの昔話」を聞くのが日課になった。
フランス革命の話を聞きながらパンケーキを食べたり、明治時代の東京の様子を聞きながらコーヒーを飲んだり。歴史の生き証人である息子を持つなんて、なんて贅沢なことだろう。
そんな日々が続いて半年が過ぎた頃、思いがけない出来事が起きた。
「おめでとうございます。妊娠です」
婦人科の先生の言葉に、私は信じられない思いで耳を疑った。長年待ち望んでいた妊娠。それは、創一が来てから私たちの生活が変わり、夜型になってリラックスできるようになってから訪れた奇跡だった。
その夜、創一に報告すると、彼は少し寂しそうな顔をした。
「そうか...赤ちゃんが生まれたら、僕はいなくなった方がいいのかな...」
「何言ってるの!」
私は思わず創一を抱きしめた。
「赤ちゃんが生まれても、創一はうちの大切な息子よ。それに...」
私はにやりと笑って付け加えた。
「夜泣きの時は、創一お兄ちゃんに助けてもらわないとね」
創一の目が輝いた。
「本当に?じゃあ、僕が夜のベビーシッターになります!だって、僕は夜の帝王だから!」
その言葉に、私たち家族は大笑いした。月明かりの下で、吸血鬼の息子と、その両親と、そしてまだ見ぬ赤ちゃん。確かに普通じゃない。でも、これが私たちの幸せな家族の形なのだ。
プロンプト
「場所は東京。私は井ノ川洋子。長年、不妊に悩んでいた。夫である孝太郎はある日、「養子をもらうのはどうだろう」と提案する。私たちは施設に行く。その子供は少し変わった病気を持っていた。それは日光アレルギー。だが、妙に大人びた雰囲気とミステリアスな容姿に惹かれて彼を養子にする。しかし、なにかがおかしい。あまり食事も食べないし、夜な夜ないなくなる。そして、ある日彼の正体を知る。彼は吸血鬼だったのだ。私たち夫婦と彼との奇妙な生活が始まる。それは私が懐妊するまでの間の話。このプロットを元にハートフルシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」