『ドラキュラ著作権料』
「面白いけど、吸血鬼物はねぇ…」
編集部を出た瞬間、私は思わず空を見上げた。夕暮れ時の雲が真っ赤に染まっている。まるで血のよう、なんて考えた自分に苦笑いが漏れる。やはり漫画家の職業病というやつだろうか。
三ヶ月かけて描いた読み切り原稿は、また今日も却下された。世の中には吸血鬼作品が溢れているから、というのが理由だった。確かにその通りだ。でも、私の描く吸血鬼は違う。そう信じていた。
帰り道、いつもの近道である路地を曲がったとき、背後から声が聞こえた。
「君、吸血鬼を題材にした漫画を描いているようだね」
振り返ると、そこには見知らぬ男が立っていた。長身で、顔色が悪い。何より、その切れ長の目が妙に光っている。
「えっ…」
男は私の驚きを余所に、ゆっくりと口を開いた。その瞬間、鋭い犬歯が月明かりに浮かび上がる。
「ひっ!」
私は反射的に走り出した。必死に逃げる。路地を曲がり、曲がり、また曲がる。
そして—
「吸血鬼の権利を守れ!」
「我々の肖像権を無視するな!」
「創作物での吸血鬼差別を止めろ!」
目の前には、なんと二十人ほどの集団が。全員が黒いスーツに身を包み、プラカードを掲げている。そして、全員が鋭い犬歯を見せながら叫んでいた。
「あの、これは…」
「ようこそ、『吸血鬼の権利を守る会』の抗議活動へ」
先ほどの男が、いつの間にか私の隣に立っていた。
「毎日毎日、我々の同胞が創作物の中で歪められていく。かつて高貴な存在だった吸血鬼が、どんどん矮小化されていく」
男は深いため息をつく。その吐息は妙に白く、夜気に溶けていった。
「だから我々は立ち上がったんだ。著作権料の支払いを要求しようと」
「でも、吸血鬼って…実在するんですよね?」
「ああ」
「なら、著作権って…」
「フィクションの中の吸血鬼も、我々の末裔だ。我々の血を引いている。当然、権利も発生する」
私は思わず吹き出しそうになった。しかし、男の真剣な表情を見て、笑いをこらえる。
「それで、私の漫画はどうなるんですか?」
「君の原稿を見せてもらおう。我々の審査を通れば、正式なライセンス契約を結ぶことができる。もちろん、適正な対価は支払う」
男はニヤリと笑った。その表情は、どこか温かみがあった。
「実は、我々の中にも漫画好きが多くてね。特に、若い作家の斬新な視点を楽しみにしているんだ」
その日から私の漫画家人生は、思わぬ方向に転がり始めた。
締め切り前には吸血鬼たちが手伝いに来てくれる(夜間のみ)し、新キャラクターのモデルも豊富だ。何より、「吸血鬼監修付き」という謳い文句は、編集部でもなかなかの評判となった。
ただし、印税の分配交渉は、今でも深夜に及ぶことがある。
プロンプト
「場所は東京。私は新人漫画家。今日も編集者に持ち込みをしてきたが、あえなく撃沈。そのとき言われた言葉は「面白いけど、吸血鬼物はね…」。なんとも含みのある言葉だった。その夜中に吸血鬼と遭遇した私。「お前、吸血鬼を題材にした漫画を描いているようだな」。私は一目散に逃げる。道を曲がった先に奇妙な集団がいた。「プラカードを挙げてストライキ?」。よく見ると全員吸血鬼だった。「吸血鬼にも著作権料を払え!」。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」