『吸血鬼村』
「まさかな」
スマートフォンの画面を見つめながら、私は呟いた。削除されたSNSの投稿のスクリーンショット。「助けて!吸血鬼に追われています!群馬と埼玉の境にある◯◯村で…投稿者は行方不明」
私、井ノ川洋二。フリーランスの記者である。そして今、その噂の村に向かっているところだ。
曇り空が重く垂れ込める中、軽自動車は山道を進んでいく。GPSの案内は「あと2キロ」を示している。と、その時だ。ラジオがノイズを発し始めた。
「ザザッ…気をつけて…ザザッ…戻れ…」
最初に出会った村人は、意外にも普通のおじいさんだった。
「吸血鬼?はっはっは、若い人は面白いことを考えるねぇ」
だが、その笑顔の裏に何かを見た気がした。おじいさんの首筋に、かすかに...二つの穴。
取材を続けるうちに、不穏な空気が濃くなっていく。村人たちの笑顔が引きつっている。質問に答える声が震えている。そして誰もが「夜は外に出ない方がいい」と、まるで懇願するように忠告してきた。
日が暮れる。宿はないので車中泊を決め込む。真っ暗な車内で、取材メモを整理していると…
「カツン、カツン」
靴音?いや、違う。これは…
エンジンをかけようとキーを回す。かからない。もう一度。「オルルルル…」反応が鈍い。三度目。「カチッ」完全に停止した。
「くそっ!この中古車め!」
バックミラーに人影が映った。慌てて振り返ると、そこには真っ白な顔をした中年男性が立っている。月明かりに照らされた顔は、どこか...非人間的だった。
「お兄さん、鬼ごっこでもしませんか?」
にやり、と笑う口の端から、尖った牙が覗く。私の脳裏に、あのSNS投稿が蘇る。投稿者は見つかっていない。
「これ、マジかよ…」
車から出て、全力で逃げ出す私。後ろから聞こえてくる足音が、どことなくリズミカルだ。
「待ってよ~」という声が、妙にチャラい。が、その声には確かな殺気が混ざっている。
「なんて軽いノリなんだよ!」走りながら叫ぶ。
「あなたもSNSを見てここに来たんでしょwこっちも流行りに乗らないとさ!」追いかけてくる吸血鬼が返す。
「今どきの若者のツール使って獲物をおびき寄せないと、吸血鬼も生きていけないでしょ?」その言葉と裏腹に、吸血鬼の目は赤く光っていた。
村の外周を走り続ける私と吸血鬼。まるでお笑いコンビのような掛け合いが続く。だが、足が徐々に重くなってくる。背後の気配が近づいてくる...
結局この一件は、「現代に生きる吸血鬼の苦悩 ―SNSマーケティングに奮闘する村の記録―」というタイトルで週刊誌に掲載された。反響は上々。ただし、給料の振込先を「夜間取引可能な銀行」に変更せざるを得なくなったのは、ちょっと面倒だ。
何より困るのは、毎週末のあの村で「SNS講座」の講師を頼まれたことだ。
しかも、受講料は血液500ml。私の首筋の二つの穴が疼くたびに、それが決して冗談ではないことを思い出す。
「ミイラ取りがミイラか…」
プロンプト
「場所は群馬と埼玉の境とかそこらへん。あいにく天気は曇り。私は井ノ川洋二。フリーランスの記者だ。今から噂の集落に向かう。その集落では謎の儀式が行われているという。「まさかな」。ある削除済みのSNSの投稿。それは吸血鬼に追われている男女。車で村を訪れると第一村人発見。夜、車中泊をしていると、声が聞こえる。「なんだ」。外に出て周囲を見ると後ろに男がいた。「お兄さん、鬼ごっこでも」。私は全力で逃げる。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」